第5章 ゴブリン帝国編

第198話 惑星ミャント

 『初級マギヌ学習セット』という商品を開発し、その販売を始めたデルトマギヌは短期間で優良企業の一つだと言われるようになった。


「ゼン。クルフェタ星の第五惑星に、デルトマギヌの支店を出す事になりそうでしゅ。今度一緒にクルフェタ星に行きませんか?」


 クルフェタ星というのは、ナインリングワールドから約二十三光年の距離にある星だ。その第五惑星ミャントをワーキャット族が開拓し、国家を設立していた。


「ゴブリンのゴヌヴァ帝国は、どうなんだ?」

「モラタス星系を制圧した後は、第三惑星ヴァイアの住民を下級民に組み込み、軍政を敷いているようでしゅ。一年間は忙しいと思いましゅ」


「だとすると、一年ほどは他の星にちょっかいを出す余裕はないな」

 デルトコロニーでは、軍備を充実させようと計画しており、五百メートル級の砲艦と二百五十メートル級の駆逐艦を建造している。


 建造する軍艦を砲艦と駆逐艦に絞ったのは、クーシー族を助けるために遠征となった場合、航続距離が長い軍艦が必要になると考えたからだ。コルベット艦やフリゲート艦では、航続距離が短いのでダメだと判断したのである。


「ゴヌヴァ帝国には、巡洋艦がありましゅ。砲艦で大丈夫でしょうか?」

「フィス級砲艦は、巡洋艦が搭載している荷電粒子砲より、一回り大きな三十五光径の荷電粒子砲を搭載している。巡洋艦のバリアを破れるはずだ」


 フィス級砲艦の搭載武器は、三十五光径荷電粒子砲一門が主砲で、十二門のクリムゾンレーザー砲が副砲となっている。クリムゾンレーザー砲で攻撃しながら三十五光径荷電粒子砲を命中させれば、巡洋艦のバリアを突破できるだろう。


「ゴヌヴァ帝国には、六隻の巡洋艦がある事が確認されていましゅ。それを倒すのに何隻のフィス級砲艦が必要だと思いましゅか?」


「倍の数が必要だと思う。それにゴヌヴァ帝国の主力は、駆逐艦やフリゲート艦になる。それに対応するために多数の駆逐艦を用意する」


 六つの星を支配するゴヌヴァ帝国は、多数の駆逐艦やフリゲート艦を所有している。そこでツェンダー級駆逐艦を建造していた。


 ツェンダー級駆逐艦は全長二百五十メートルである。駆逐艦としては小型の部類に入るが、クリムゾンレーザー砲七門という強力な主砲を装備していた。そのクリムゾンレーザー砲は、駆逐艦のバリアを貫通して船体に穴を開けるだけの威力がある。


 現在、フィス級砲艦が五隻、ツェンダー級駆逐艦七隻が完成している。だが、これだけではゴヌヴァ帝国には勝てない。もう少し戦力を拡充する必要があるだろう。


「情報分析室のベアータが、ゴヌヴァ帝国の戦力分析を行っていましゅ。その結果次第で、状況を判断した方がいいでしょう」


「それじゃあ、クルフェタ星の惑星ミャントへ、視察に行く余裕もあるという事だな」

「もちろんでしゅよ。それにソニャがゴヌヴァ帝国の動きを知って、暗い顔をしていましゅ。この旅行が気晴らしになれば、と考えているんでしゅ」


 我々は屠龍戦闘艦カズサでクルフェタ星へ行く事にした。準備をしてデルトコロニーの宇宙港を出発。但し、生体戦闘機のウェスタたちは留守番である。ウェスタたちはパワーアップのために内部改造を始めていたのだ。


 外宇宙に向かって大加速力場ジェネレーターで進み、恒星から十分に離れた位置で遷時空スペースに遷移する。


 遷時空スペースを三日ほど飛んでから通常空間に戻ると、クルフェタ星の外縁部だった。ここから目的地である惑星ミャントまで五日ほど掛かる。


 皆で展望室へ向かった。ソニャとパム、サシャとラドルは展望室の巨大モニターでクルフェタ星を見た。それはオレンジ色の星だった。ナインリングワールドの恒星より、少し大きな恒星らしい。


 遠くに惑星ミャントが見える。この惑星には大きな海があり、全体の六割が海だという。但し、地球の海より塩分濃度が高く、その海水に適合した海洋生物が棲息している。


「宇宙モンスターは、どうだ?」

 カズサの制御脳に質問した。

「多数の宇宙クラゲや宇宙クリオネの他に、脅威度の高い宇宙モンスターも棲み着いているようです」


 たぶんナインリングワールドから移動してきた宇宙モンスターが棲み着いたのだろう。カズサが惑星ミャントまでの中間地点に達したので、少しずつ減速を始める。


 予定通りに惑星ミャントに到着し、地上の宇宙港にカズサを降下させた。この惑星で最大の都市であるムーヤンにデルトマギヌの支店を出す事になっており、我々もムーヤンの宇宙港にカズサを着陸させる。そこで検疫を済ませると高級ホテルに宿泊した。


 部屋に入ったラドルとサシャ、それにパムが、ベッドの上にダイブする。

「このベッド、ふわふわだよ」

 ラドルが報告した。それを聞いたレギナが笑う。


 ホテルの最上階に近い部屋を選んだので、そこの窓からムーヤンの街が一望できる。この惑星は飲水にする真水がほとんどないので、海水を汲み上げて真水にして使っている。


 ここでは海水淡水化プラントがある近くにしか住民が住んでいないようだ。そのせいか人口密度が高く、高層ビルが多い街になっている。何だか東京を思い出した。


 ただ乗り物が違った。ここでは空中を移動する飛翔機が使われていた。様々な形の飛翔機が、大量に空中を飛んでいる光景はパムたちも珍しかったようだ。


「じぇん、何でぶつからないの?」

 パムが衝突を心配して質問してきた。

「飛翔機に組み込まれている人工知能が、ぶつからないように制御しているんだよ」


「ふーん。パムも操縦してみたい」

 乗せる事はできるが、操縦は無理だろう。この街では大勢のワーキャット族が暮らしているようだ。惑星全体の人口が二十億人ほどだと聞いているので、デルトマギヌの商売も成功するだろう。


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