第197話 動き出すゴブリン帝国

 マギヌの開発も順調に進み始め、やっと惑星ボランで手に入れた『乾の宝玉』に入っていた知識を研究する余裕ができた。『乾の宝玉』の知識は、『乾のことわり』と呼ぶべきものだった。


 高次元の乾軸方向に拡張された宇宙に関する知識を意味する『乾の理』は、広範囲な知識を含んでいた。その中で二つほど興味を惹かれたものがあった。一つ目は、空間を乾軸方向に折り畳む事が可能だという理論である。


 この理論は短距離ワープに繋がるものだと直感したので、興味を惹いたのだ。

「これは学者に研究させる必要があるな」

 科学者でも研究者でもない私が、手に負えるような理論ではなかった。科学者や研究者に情報を渡して研究してもらうしかないだろう。


 二つ目はリカゲル天神族のゾロフィエーヌにより形成された精霊雲に関するものだった。リカゲル天神族は、今から六億年ほど前に誕生したリカゲル星人という種族が始祖だそうだ。


 そのリカゲル星人が精神文明を発展させ、精霊雲や精霊核を形成して利用する技術を開発した。ちなみに、現在リカゲル天神族と呼ばれている人々は、リカゲル星人の末裔も存在するが、ほとんどはリカゲル天神族と呼ばれるだけの基準に達した様々な種族である。


 その基準に達すれば、私もリカゲル天神族と呼ばれるようになるだろう。ただそうなる確率は宝くじの一等に当たるより低い。


 『乾の理』の中に、精霊核や精霊雲に関連する予備知識のようなものもあり、それによると『炉の理』という知識の中に精霊核や精霊雲を形成する知識があるという。


「母王スパイダーの巣に『炉の宝玉』という秘宝もあった。それが手に入れば、精霊雲や精霊核を形成する事ができるようになるかも」


 但し、『炉の宝玉』を手に入れるには、次代の母王スパイダーが成長するのを待ち、倒してから手に入れないとダメだろう。少なくとも三年ほど待つ事になる。


 その事をサリオとレギナに話すと、サリオが質問してきた。

「ゼンは、精霊雲を持っているのでしゅよね?」

「そうだ」

「その精霊雲を、精霊核にアップグレードする事ができるという事でしゅか?」


 私が頷くとレギナも質問してきた。

「精霊核になると、どう変化するの?」

「私が、天震力に満ちているナユタ界にアクセスする時、精霊雲を通してアクセスしている。この精霊雲はアンテナのような役割も果たしているので、その性能によってアクセスできる範囲が決まる。その精霊雲より格上である精霊核は、アクセスできる範囲が広がるらしい」


「精霊雲でもアクセスできるナユタ界は、我々の宇宙と近い次元に存在するという事?」

「簡単に言うとそうなる」

「ナユタ界もそうだけど、別の宇宙を見てみたい」

「見たとしても、理解できるかどうか」

 何度もナユタ界を見ているというか、意識フィールドで感じているが、未だに理解できない世界だ。


「ところで、短距離ワープの研究を始めたそうでしゅが、どうなのでしゅ?」

 サリオが尋ねてきた。

「『乾の理』にあった知識を基に研究を始めたけど、まだ理論物理の段階だよ」


 まだ理論も確立していないので、それを応用できるまでには長い時間が必要だろう。そんな時、我々が話をしていた研究室に、情報分析室のベアータから連絡が入った。


「閣下、ゴブリンのゴヌヴァ帝国が、モラタス星系のヒューマン族と戦争を始めました」

 それを聞いたサリオが苦い顔になる。

「モラタス星は、どうなると思いましゅか?」


「軍事力は、圧倒的にゴヌヴァ帝国が上ね」

 レギナの言葉を聞いたサリオが、こちらに目を向けた。

「ゼンもそう思いましゅか?」

「そうだな。モラタス星系の軍事力を調べたけど、駆逐艦十二隻が主力だった。それに比べてゴヌヴァ帝国は、新しく巡洋艦を建造したようだ。ゴブリン族の文明レベルでは、まともな巡洋艦を建造できないはずなんだが……」


 たぶん、その巡洋艦がゴヌヴァ帝国の自信になっているのだろう。ゴヌヴァ帝国とモラタス星人が戦争になった原因は、ゴブリン族の言い掛かりのようなものだった。


 ゴブリン族が人種差別されたと抗議したのが、切っ掛けらしい。

「ポリコレかよ」

 呟きを聞いたレギナが、首を傾げた。

「ポリコレ?」

「何でもない。それより、偵察艦をモラタス星に送ろう」


 将来のために、ゴヌヴァ帝国の戦力を詳しく調べておきたい。急いで改造偵察艦を選んで、モラタス星に送り出す。


 その数ヶ月後に改造偵察艦が戻ってきたので、撮影した映像データの分析が始まった。改造偵察艦がモラタス星に到着した時、戦争はほとんど終わり掛けていた。


 ゴヌヴァ帝国がモラタス星の第三惑星ヴァイアを制圧し、ヴァイアの残った軍艦が民間人が乗る輸送船を逃がす戦いをしているところだった。


 そこにゴブリン族の巡洋艦三隻が現れ、モラタス星系の軍艦を殲滅した。その映像を見た私は疑問を持った。


「何でゴブリン族が、こんなまともな巡洋艦を造れるんだ?」

 その映像をレギナとサリオ、それにスクルドも一緒に見ており、レギナとサリオも腑に落ちないという顔をしていた。


 サリオが溜息を漏らす。

「ゴブリンの背後に、支援者が居るという事でしゅね」

「もしかしたら鬼人族か、イノーガー軍団かもしれない」


 鬼人族が自分たちの巡洋艦をゴブリン族に渡すか? そこまで鬼人族がゴブリン族を信用しているとは思えない。だとすると、イノーガー軍団……まだまだ情報が足りないようだ。



―――――――――――――――――

【あとがき】


 今回の投稿で『第4章 コロニー拡大編』が終了となります。次章もよろしくお願いします。




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