第153話 遷時空跳躍フィールド発生装置
アキヅキに乗り込むと急いでデルトコロニーに戻った。
「ゼン、イノーガー戦闘艦をどこで調べるんだ?」
レギナが質問してきた。
「デルトコロニーでは危険でしゅ。アムダ鉱星の空洞に入れて調べてはどうでしゅか?」
私の代わりにサリオが提案する。
「いい考えだ。そうしよう」
我々は異層ストレージからイノーガー戦闘艦を出し、アムダ鉱星の空洞に入れた。幸いな事にスクルドが作成したウイルスは機能しており、イノーガー戦闘艦の制御脳に使われている人工知能を支配できていた。
空洞内に設置した照明のスイッチを入れ、固定したイノーガー戦闘艦を照らし出す。目の前に鎮座する生きている戦闘艦を見詰める。この戦闘艦がアキヅキより小さい事を分かっているが、秘めている戦闘力を知っているので大きく感じる。
「スクルド、こいつの制御脳から情報を取り出せるか?」
「制御脳の分析を行えば、可能よ」
「サリオも手伝ってくれ」
「了解でしゅ」
私は、ブルシー族にイノーガー戦闘艦を解体する指示を出した。まず兵器を取り外さないと安心できないと考えたのだ。
兵器らしいものを全て取り外した頃、制御脳の分析が終わった。そして、制御脳が蓄積していた情報を吸い上げると膨大な技術情報を手に入れる事ができた。
但し、実物を分解調査して情報通りに製造されているか確認する必要がある。そうしないと、情報が正しいかどうかを確認できないのだ。
一番最初に確認が終わったのは、イノーガー戦闘艦のルオンドライブだった。遷時空スペースでの推進機関であるルオンドライブは、どの種族のものでも構造が同じで、ブラックボックスになっている部分さえ分かれば、製造できるようになるというものだった。
次に垓力を集める『垓力収集デバイス』と呼ばれているものが確認できた。これは龍珠を使って製造する垓力集積器とは異なり、龍珠を使用せずに垓力を集める装置だ。
龍珠を使用しないので量産できるが、龍珠を使う垓力集積器よりサイズが大きくなる。イノーガー戦闘艦は、その垓力収集デバイスを十六基も搭載していた。それだけ大量の垓力を使っていたという事だろう。
垓力収集デバイスの後に確認できたのは、イノーガー戦闘艦の推進機関として使われている『垓力推進エンジン』だった。垓力推進エンジンは天震力と垓力の両方が使える加速力場ジェネレーターを垓力専用に改造したものだ。
そうする事で垓力の使用効率が上がり、推力が増強される。ただ垓力推進エンジンには欠点もある。垓力の濃度が低い宙域では、他の推進機関がないと船をコントロールできなくなるのだ。
イノーガー戦闘艦を解体して分かったのだが、その内部構造は通常の航宙船と全く違っていた。乗組員を乗せる必要がないので、ブリッジや船室、空気再生循環設備、浄水・排水処理施設などが存在しなかった。
私はロードパレスの研究室でイノーガー戦闘艦のクリムゾンレーザーについて調べ、これが『離震の理』に通じるものがあると分かった。クリムゾンレーザーは、高次元の軸方向に振動する膨大なエネルギーを秘めた光だ。
『離震の理』の中にも、高次元の軸という考えがあり、その軸は『離震軸』と呼ばれている。ただクリムゾンレーザーで使われている軸とは異なるようだ。
クリムゾンレーザーには垓力を光に変える仕組みもあり、それを天震力に応用できると分かった。これは屠龍猟兵の魔導師パウラが使っていた赤豪レーザーの原理と同じだろう。
「この原理を使えば、赤豪レーザーと同じような魔導技を開発でき……いや、同じでは進歩がない。赤豪レーザーに『離震の理』を利用すればクリムゾンレーザーのような魔導技が開発できそうだ」
私がブツブツ言いながら考えていると、研究室にサリオが入ってきた。
「ゼン、ここに居たのでしゅか」
「どうかしたのか?」
「遷時空跳躍フィールド発生装置が、開発できそうでしゅ」
それを聞いた私は、口元が緩むのを抑えられずニヤニヤしてしまう。これでデルトコロニーは文明レベルDのコロニーになれる。本当は一気に文明レベルCになりたかったが、その条件の中に『数百の恒星を支配下に置く』というものがあるので無理だろう。
その事をサリオに言うと、不可能ではないという返事だった。
「どうやるんだ?」
「調査船を数多く建造し、未調査の星に派遣すればいいのでしゅ。調査が完了して宙域同盟に申請すれば、所有権を認められます」
「そんな簡単な事なのか?」
「……簡単な事ではないでしゅよ。調査には最低二十年ほど掛かり、その星を管理する義務が生じましゅから、膨大な費用が必要でしゅ」
調査して所有権を主張しても、その星に何らかの経済的な利益が見込めなければ持続できないという事だ。
「惑星がある恒星なら、採掘資源が期待できるんじゃないのか?」
「その資源を掘り出し、他の星に輸送して利益になるようなもの、という条件が付きましゅ。鉄や銅はもちろん、金でも採算が取れないでしゅ」
「採算に合うような星となると、すぐにでも人が住めるような惑星を持つ星になるのか?」
「そうでしゅ。それなら所有権を主張しゅる価値がありましゅ」
「まあいい。取り敢えず、遷時空跳躍フィールド発生装置を開発して、文明レベルDになろう」
デルトコロニーでは総力を上げて遷時空跳躍フィールド発生装置の開発を行った。そして、ついに遷時空跳躍フィールド発生装置を完成させた。
完成した遷時空跳躍フィールド発生装置のテストも行い、ちゃんと動く事も確かめる。我々は設計データと試作装置を持って宙域同盟の地域統括センターへ行く事にした。
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