第181話 ワーフォックス族との協力

 ワーフォックス族のリンファルが『拿捕が望ましい』と言っていたのを思い出した。我々がイノーガー戦闘艦をウィルスミサイルを使って拿捕した事を、リンファルは知っているのだ。


 あのミサイルに仕込んだ制御脳制圧ウィルスは、文明レベルAの技術で作られたスクルドが作ったものなので、天神族のものを除けば最高級の技術が使われていた。


「それで、どうするつもりですか?」

 私はリンファルに尋ねた。

「惑星チダータに建設された都市は、破壊する。そして、ロボットも破壊します」

「研究用に、ロボットは捕獲しないのですか?」


 リンファルが面白いという感じで笑う。

「あのロボットは、我々が製造したものですよ。調べる必要がありますか?」

「ああ、そうでしたね」

 イノーガー駆逐艦が、ロボットにどういう影響を与えたのか、興味があった。だが、ワーフォックス族は全てを破壊し、他の者に調べさせないつもりのようだ。


「ちょっと見て欲しいものがある」

 メノウ参事官が言い出した。モニターに惑星チダータの姿が映し出される。

「これはデルトコロニーからの報せがあった後、我々の偵察艦を派遣して調査した映像です」


 宙域同盟の偵察艦は、惑星チダータの様子を調査した後に月を調べたようだ。小さな月だったが、そこに巨大な造船ドックが建設されていた。


「どこで巨大戦艦を建造したのか、疑問に思っていたのですが、ここで建造したんですね」

 私が言うと、リンファルが頷いて食い入るように建造ドックの様子を見ている。

「おかしい」

 リンファルがポツリと言った言葉に、私は首を傾げた。


「何がおかしいのです?」

「あのロボットには、こんな巨大な造船ドックを建設する知識は、なかったはずなのです」

 ならば、イノーガー駆逐艦が授けた知識かもしれないという事だ。リンファルがニヤッと笑った。


「ゼン閣下、以前にイノーガー戦闘艦を拿捕した方法を、もう一度試してもらえませんか?」

 私もイノーガー駆逐艦に興味を持ったので、一度だけなら試してみる事を承諾した。そして、気になる事を確認する。


「この造船ドックには、ゴブリン族が居るのではないですか?」

「居るかも知れませんね。ですが、排除するだけです」

 リンファルがわざと冷酷な言い方をしたように感じた。ワーフォックス族は、ゴブリン族に良い感情を持っていないようだ。まあ、そういう種族は多いので珍しい事ではない。


 それからどのように協力するかを話し合った。デルトコロニーはイノーガー駆逐艦を発見した後に、ウィルスミサイルを試してみる事、それと惑星チダータの都市を破壊する手伝いをする事になった。


 宙域同盟が所有する惑星を攻撃する事になるが、メノウ参事官が許可を出した。話し合いが終わり、レギナと一緒にカズサに戻る。


 カズサに戻ると、サリオとスクルドを呼んでブリッジに入り、そこで話の内容を伝えた。

「私は、ウィルスミサイルを用意すればいいのね」

 スクルドが確認した。

「ああ、頼む」


「ゼン、ワーフォックス族の事で思い出した事があるんだ」

 レギナが言い出した。

「思い出した事?」

「ワーキャット族と同盟を組んだワーフォックス族が、ワーウルフ族と戦った事があるんだけど、その時にワーキャット族を裏切ったんだ」


「つまりワーフォックス族は、信用できないという事?」

「全員が、信用できないという事じゃないから、今度も裏切るという事じゃない。ただ気を付けていた方がいい」


「分かった。気を付けよう」

 話し合いの時に途中からレギナが何も喋らなくなったので、どうしたのだろうと思っていたが、それを思い出して考えていたようだ。


 どんな状況で裏切ったのかを尋ねると、劣勢になった時にワーフォックス族だけが逃げてしまい、ワーキャット族は全滅という状況になったらしい。


「ところで、何で引き受けたんだ?」

 ワーフォックス族への協力を断わると、レギナは思っていたようだ。

「惑星チダータの月に建設された巨大な造船ドック。あれを調べたい。そうすれば、巨大な構造物を造るための技術を、手に入れられると考えたんだ」


 デルトコロニーは巨大構造物を造るノウハウを持っていない。今までは必要なかったからだ。だが、これからナインリングワールドで発展するためには、必要だと思っている。


 我々はできる限りの準備をしてから、ビオルダート星に向けて出発した。同行するのは、レギナとスクルドだけにした。ビオルダート星系で戦いがあるかもしれないからだ。


 メノウ参事官とリンファルと連絡を取り、それぞれが船を出して惑星チダータの月に建設された造船ドックの調査をもう一度行う事になっている。メノウ参事官は宙域同盟の偵察艦、リンファルはワーフォックス族の駆逐艦に乗って出発した。屠龍戦闘艦カズサに乗った我々は、ナインリングワールドの外宇宙に向けて飛ぶ。


 そのままバーチ1まで加速すると、遷時空跳躍フィールド発生装置を起動して遷時空スペースに飛び込んだ。遷時空スペースを半日ほど移動すると、通常空間に戻った。


 ビオルダート星系の外縁部で通常空間に戻ったカズサは、すぐにアクティブステルス機能を起動した。そして、周囲を分析し、ビオルダート星系で間違いない事を確認した。ここから惑星チダータまで二日ほど掛かる。


 カズサは最新型の航宙船である。それでも二日必要なのだ。しかし、ワーフォックス族の駆逐艦なら一日で到着するだろう。それだけ科学技術力が違う。


「ワーフォックス族の駆逐艦が、ずっと先を飛行しているわ」

 スクルドが報告した。

「了解」

「待って……惑星チダータの上空に艦隊を発見」

「えっ」

 予想以外の存在を発見し、我々の間に緊張が走った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る