第180話 ワーフォックス族

 ビオルダート星系の第四惑星チダータに謎の都市が存在するのが分かり、私たちはすぐにでも調査に行きたかったが、ゴブリン戦の後始末で行けなかった。


 まずビオルダート星系の所有者を調べ、宙域同盟の資産だという事が分かった。そこで宙域同盟に許可を取り、ブルシー族の技術者やクーシー族の科学者を集めて正式な調査団を編成すると派遣した。


 その結果、重大な事が判明した。惑星チダータにある都市は、ここに墜落した文明レベルBであるワーフォックス族の船から脱出したロボットたちが築き上げたものだったのだ。


 その報告をロードパレスで受けた私は、溜息を漏らす。これで複雑な国際問題になってしまった。惑星の所有者は宙域同盟、そして、謎の都市の所有権はワーフォックス族が主張するかもしれない。ただ都市は宙域同盟に無断で建設したものなので、所有権がどうなるかは分からない。


 宙域同盟の法律では、元々の所有権がどうであろうと実際に住んでいる者の所有権が優先される事がある。ただこれは人間の場合であり、ロボットだとどうなるかは分からない。日本の法律にも『時効取得』というものがあるので、宇宙にも似たような法律があるという事だ。


 デルトコロニーが発見した情報を宙域同盟地域統括センターに知らせた。そして、宙域同盟はナインリングワールドに住んでいるワーフォックス族に知らせたようだ。


 その数日後、宙域同盟地域統括センターでワーフォックス族を交えて話し合う事になった。ベイビスコロニーに向かってカズサを出港させる。この時は子供たちも含め、ロードパレスに住む全員で向かった。


 カズサには『リビング』と呼んでいる部屋がある。乗員が集まって休憩したり、食事をしたりする部屋になっている。本当は『リビング・ダイニング』が正しいのだが、省略して『リビング』である。


「じぇん、これ」

 パムからヘアブラシを渡された。これでブラッシングしてくれという事だ。私はパムの髪を優しくブラッシングする。そうすると、パムはいつもご機嫌になる。


「マスター、惑星チダータのロボットをどう思う?」

 スクルドが質問してきた。

「ロボットの何体かが、自我を目覚めさせたのかもしれないな」


 それを聞いたスクルドが、黙り込んでしまった。

「イノーガー軍団のようになったら、まずいでしゅね」

 サリオがイノーガー戦闘艦の事を思い出して言った。あの戦闘艦はコルベット艦クラスの大きさだったが、戦闘力は駆逐艦を凌駕していた。


「ワーフォックス族のものなら、彼らに任せたらいい」

 巨大戦艦を苦労して仕留めたのに当てにしていた収穫がなかったので、惑星チダータの件に関して積極的に関与する気が起きなかった。


 ベイビスコロニーに到着し、レギナと一緒に宙域同盟地域統括センターへ向かう。会議室に入った我々を、宙域同盟の参事官であるイップル・メノウが待っていた。赤髪のヒューマン族である彼が、この件を担当するようだ。


 そして、ワーフォックス族のリンファルが代表で来ていた。お互いに自己紹介してから話が始まった。

「ロード・ゼン、わざわざ来てもらって申し訳ない」

 メノウ参事官が謝った。

「我々が手に入れた情報は、宙域同盟に渡しました。それ以上の何があるのです?」


「デルトコロニーの偵察艦が撮影した映像データを、先にもらいたいのですが」

 私は映像データが入ったメモリーを渡した。メノウ参事官が端末にメモリーを差し込んで、どこかに中身のデータを送ったようだ。


「分析が終るまで、少し時間が掛かります。先に話をしましょう」

「私から話そう」

 リンファルが言う。メノウ参事官が頷くとリンファルが話し始めた。


「惑星チダータに墜落した大型輸送船は、危険なものを運んでいました」

「その危険なものとは、何です?」

「イノーガー軍団の駆逐艦です」

 レギナが立ち上がった。

「馬鹿な。コルベット艦クラスでも、大変な騒ぎになったのだぞ」


 メノウ参事官が同意するように頷く。

「そんな危険なものを、どうやって手に入れたのです?」

 質問を受けたリンファルが苦い顔になる。

「我々の故郷の星に近い植民星で、遭遇して戦いになりました」


 その結果、イノーガー駆逐艦を拿捕するのに成功したらしい。それを研究するためにナインリングワールドへ運ぼうとした。だが、途中のどこかで何かが起きて行方不明となったという。


「その時、ビオルダート星系を捜索しなかったのですか?」

 確認すると、捜索したという。ただその時は、惑星チダータは温暖期であり、大型輸送船がある場所は湖になっていたそうだ。今は氷期で湖の水がなくなって大型輸送船の姿が見えるようになっている。


 メノウ参事官がリンファルへ鋭い視線を向けた。

「ちょっと待ってください。なぜ近くにある故郷の星ではなく、ナインリングワールドへ運ぼうとしたのです?」


 リンファルが一瞬言うべきか迷う様子を見せた。

「イノーガー駆逐艦の研究は、危険が伴うからです」

 だから、故郷の星ではなくナインリングワールドで研究しようと思ったという事だ。ワーフォックス族にすれば当然の選択だったかもしれないが、ナインリングワールドに住んでいる者にとっては腹立たしい事実だ。


 メノウ参事官が苦虫を噛み潰したような顔をする。

「デルトコロニーは、イノーガー戦闘艦を拿捕した実績がある。それでロード・ゼンを話し合いに参加させるように言ってきたのですね?」


「その通りです。協力してもらえるなら、相応の礼はします」

 礼というのは金の事だろう。財政的に苦しい時なので金は欲しい。

「目的は、イノーガー駆逐艦の拿捕ですか、それとも破壊ですか?」

「拿捕が望ましいが、破壊でも構わない」


 破壊なら協力すると約束した。ちょっと待て……ワーフォックス族のロボットが都市を建設したり、巨大戦艦を造ったのは、イノーガー駆逐艦が関与しているのだろうか?


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