第179話 巨大戦艦の調査
巨大戦艦に勝った我々は、一番に巨大戦艦を確保した。周りで見物していた偵察艦や偵察艇は、巨大戦艦から逃げ出した脱出ポッドを回収したようだ。たぶんゴブリンから情報を聞き出すつもりなのだろう。
「見ていただけなのに、情報だけは欲しいんだな」
苦々しい気分になったが、我々は巨大戦艦を確保している。こいつの航行履歴データを分析すれば、巨大戦艦がどこから来たのかが分かるはずだ。
「それが、偵察チームの仕事よ」
スクルドが的確な意見を言うが、理解できても納得できない。拿捕した巨大戦艦に、ステルス攻撃部隊の曳航船が群がって引っ張り始めた。デルトコロニーまで移動させるためだ。
その頃には偵察ドローンによる巨大戦艦の予備調査が終わり、調査部隊を入れても安全だと確認ができていた。私は千人近い調査部隊を編成して調べさせた。調査は順調に進みデルトコロニーまで曳航した頃には、その結果が纏まった。
「この巨大戦艦は、文明レベルDの技術力で設計されているようだ」
ミネルヴァ族のグルードが決論を言った。ゴブリン族の文明レベルは『E』なのだが、他の種族から奪った技術やサルベージした船から得た技術があるので、文明レベルDという評価になっても不思議ではない。
しかし、それを聞いた私は納得できないという顔になる。
「そんな馬鹿な。戦艦を建造できるのは、文明レベルBくらいでないと無理だというのが、常識だ」
「たぶん造船技術だけ文明レベルAに匹敵するが、中身は文明レベルDという感じだ。間違いねえ」
という事は、巨大戦艦から技術的分野で学ぶものはないという事になる。そして、驚いた事に搭載されている核融合炉や操縦システムは、ゴブリン族の技術で製造されたものだった。
性能が悪い核融合炉なので、必要なエネルギー量を得るために数多くの核融合炉が設置されていた。文明レベルBの技術なら半分の数で同じエネルギー量を供給できたはずだ。
「ところで、武器はどうだった?」
グルードが苦笑いする。
「四十八光径レーザーキャノンは、普通かな。だが、あの大型荷電粒子砲は、ダメだ」
「どうダメなんだ?」
「たぶん二十光径くらいの荷電粒子砲として設計されたものを、無理やり五十二光径に巨大化して製造したもののようだ。だから、あんまり使わなかったに違いねえぞ」
そういう点を考慮すると、ゴブリン族が造ったような感じがするが、巨大戦艦など建造できる技術がないはずなのだ。
「どこで建造されたか、分かったのか?」
私は分析室のベアータに確認した。
「宇宙モンスターの巣であるビオルダート星で、間違いないようでしゅ」
「分かった。改造偵察艦を出してくれ」
改造偵察艦というのは、アクティブステルス機能を搭載した偵察艦の事である。
調査が終わった頃、巨大戦艦が敗北してボロボロの残骸になったという情報が、ナインリングワールド中に広まった。すると、どこかに隠れていたオーク族が湧き出した。
そのオーク族は航宙船でコロニーから逃げ出した後、他の星へ行かずに小惑星に隠れていたようだ。その中には軍艦もあり、その軍艦はホブゴブリン族のジェボコロニーに攻撃を仕掛けた。
ジェボコロニーは巨大戦艦の修理を行ったコロニーである。このコロニーにはオーク族から奪ったものが保管されており、それらを取り戻そうと攻撃したようだ。
オーク族とホブゴブリン族の激しい戦いとなった。最初は互角の戦いだったが、ダルヴェーグ王が居ないホブゴブリン族には指揮系統の混乱があり、次第にホブゴブリン族が劣勢になって最後にはジェボコロニーが陥落した。
ジェボコロニーに保管されていたオーク族の資産は、オーク族が取り返したようだ。それでゴブリン族とオーク族の戦いが終われば良かったのだが、オーク族は次々にゴブリン族のコロニーを襲った。
そんな情報が、デルトコロニーで仕事をしていた私のところに次々と届いた。
「ゴブリンとオークの戦いは、まだまだ続きそうだな」
独り言のように言った私に、サリオが質問した。
「ゼン、あの巨大戦艦はどうしゅるのでしゅか?」
都市宇宙船に避難していたサリオは、デルトコロニーに戻っていた。
「もう一度、軍艦として修理する事も考えているんだが、金がない」
巨大戦艦に対応するためにステルス攻撃部隊や新屠龍戦闘艦の建造をしたので、財政的に危険な状況になっているのだ。
「ゴブリン族がオークから奪ったものを、回収できたら良かったのでしゅが」
「オーク族が取り返したからな。それよりビオルダート星に送った改造偵察艦が気になる」
それはサリオも同じだったようだ。サリオはクーシー族なので、柴犬に似た可愛い姿をしている。以前に毛が生え替わる換毛期があるのかと聞いた事がある。あるなら大変だなと思ったのだが、クーシー族に換毛期はないそうだ。
そんな話をした数日後、ビオルダート星に偵察に行った改造偵察艦が戻った。ビオルダート星で集めた情報を分析室が纏めてベアータがコロニー運営メンバーに報告した。
「ビオルダート星には、五つの惑星があるのでしゅが、その一つである第四惑星に都市らしきものがあるのを発見しました」
「その第四惑星というのは、どんな惑星なんだ?」
知的生命体が住めるような惑星だったら、ナインリングワールドの住民が放置するとは思えない。どんな種族が建設したのだろう?
「第四惑星チダータは、岩石惑星で薄い大気しかない惑星でしゅ。生物が住めるような惑星ではありません」
モニターに惑星チダータの姿が映し出された。そこにあったのは、金属製の建物で構成された奇妙な街だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます