第178話 カズサの艦首砲

「何じぇだ? 何じぇ急に小惑星が現れる」

 ダルヴェーグ王に尋ねられたホギャス艦長が、首を振る。

「分ぎゃりません」

「黙れ。小惑星を避けろ」


 ホギャス艦長は顔を強張らせた。

「この戦艦は、軌道を変えるにも時間ぎゃ」

「だったら、迎撃じろ」

 ホギャス艦長は迎撃を命じた。ただ直前まで敵戦闘機の迎撃をしていたので、照準を変更するのに時間が掛かった。デルトコロニー軍は、そのために戦闘機で攻撃していたのだ。


 突撃してくる小惑星は七つ。一番近い小惑星を狙って四十八光径レーザーキャノンが放たれた。強烈なレーザーが小惑星を焦がし一部を溶かし始めるが、それによって少しだけ軌道が変わる。だが、弾き返す事はできない。


「クソッ、荷電粒子砲はどうじた!?」

「調整ぎゃ……時間をください」

「急げ!」

 やっと荷電粒子砲が砲撃を開始し、先頭の小惑星が爆発して粉々になる。


「いいぞ。次だ」

 ダルヴェーグ王が大声を上げる。次の小惑星にプラズマ弾が命中して爆発。だが、小惑星の迎撃に成功したのは、そこまでだった。


 三つ目は巨大戦艦のバリアに命中する。すると、バリアが大きく揺らいだ。辛うじて耐えたが、次は危ないと思わせる衝撃が巨大戦艦に走った。


「バリアに、エネルギーを回すのだ」

 ホギャス艦長は兵器に回していたエネルギーをバリアに集中させる。四つ目の小惑星が命中し、いくつかあるバリア発生装置の一つがオーバーヒートを起こした。


 その報告を受けたホギャス艦長が、諦めたように目をつむる。

「ホギャス、何とぎゃじろ。余はナインリングワールドの王に……」

 その直後に、残りの小惑星が次々に巨大戦艦のバリアに命中し、バリア発生装置が連続して火を吹いた。


  ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


「爆発だ。あの巨大戦艦は思っていた以上に脆弱ぜいじゃくだな」

 巨大戦艦の内部で爆発が起きたのを確認した私は、意外に感じて言った。こういう軍艦は、普通の航宙船より頑丈で故障しないように設計するものなのだ。


「小惑星での攻撃が、それだけ威力があったという事よ」

 スクルドが言う。この小惑星の攻撃は、ステルス攻撃部隊によるものだった。この部隊の正体は、アクティブステルス機能を搭載した大型曳航船である。パワーがある曳航船で、大きな小惑星を高速で曳航して敵にぶつける事が可能だった。


 もちろん普通の曳航船だったら、すぐに攻撃されてロストしてしまっただろう。そこで敵に気付かれないようにアクティブステルス機能を搭載したのだ。


 但し、アクティブステルス機能が優秀であっても近距離まで近付くと質量による空間の歪みなどを検知されて気付かれてしまう。なので、気付かれる寸前に小惑星と曳航船を切り離して逃げるという攻撃をさせた。


「ゼン、艦首砲の準備が終わった」

「了解」

 レギナから艦首砲が撃てるようになったという報告を受けた私は、艦首砲管制室へ向かった。艦首砲は離震レーザー砲というのが正式名称なのだが、カズサでは艦首砲と呼んでいる。


 艦首砲管制室は四角い小さな部屋だった。正面には大きな照準モニターがあり、座席がポツンと設置されている。その座席に座ると艦首砲を起動した。


 サポート装置と繋がった私は、ナユタ界から膨大な天震力を吸い出した。サポートがない状態では、開放レベル2で手に入れられる天震力しか制御できないが、サポート装置を使えば開放レベル5で手に入る天震力を制御する事ができた。


 それだけの膨大な天震力の一部をレーザー光に変換すると同時に、残った天震力を離震軸に沿って振動するエネルギーに変換してレーザー光に乗せて撃ち出した。


 アクティブステルス機能で透明化していたカズサの艦首から宇宙空間に向かって紫色の稲妻が噴き出した次の瞬間、紫色に輝く太い離震レーザーが艦首から発射された。


 宇宙空間を切り裂いて直進した離震レーザーは、巨大戦艦のバリアに命中。バリア発生装置がいくつも壊れていたので、かなりバリアは弱まっており、離震レーザーは一瞬でバリアを突き破って巨大な船体に命中した。


 そして、戦艦の一部を分解して穴を穿うがつ。しかも分解されて原子となったものが、離震レーザーのエネルギーにより、その一部が崩壊して熱と光に変わる。


 凄まじい爆発が起き、巨大戦艦の一部がバラバラになって宇宙に飛び散って直径五百メートルほどのクレーターが生じた。


 当然、巨大戦艦全体に凄い激震が走ったはずだ。ただ艦首砲を撃った事で、カズサの存在がバレた。激震が収まった巨大戦艦は、四十八光径レーザーキャノンをカズサに向けた。


「鏡面バリア、展開」

 レギナが鏡面バリアを起動した。そこに四十八光径レーザーキャノンの攻撃が命中。しかし、鏡面バリアは強烈なレーザを反射した。


「あ、危なかった。ゼン、次の攻撃を急いで」

 レギナの声で、艦首砲の準備を急ぐ。そして、二発目の艦首砲が発射された。それは前回の攻撃で生じたクレーターに正確に命中し、巨大戦艦の中心部で爆発を起こす。


 前回より大きな爆発が起き、巨大戦艦の攻撃が止まる。しかもバリアも消えている。

「敵が攻撃を中止。動力炉にダメージを与えたようよ」

 スクルドが報告した。

「攻撃を止めるべきじゃない。罠かもしれない」

 レギナが意見を言う。軍の責任者として慎重になっているのだろう。ただゴブリン族というのは、そういう騙し討ちが得意な種族なのも事実だ。


 それから二発ほど巨大戦艦に向かって離震レーザーを撃ち込んだ。駆逐艦二隻からも荷電粒子砲が撃ち込まれる。すると、巨大戦艦から脱出ポッドが大量に放出された。


 攻撃を停止してから脱出するまでのタイムラグを考えると、ゴブリン族は本当に騙し討ちを考えていたのかもしれない。


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