第177話 巨大戦艦vsデルトコロニー艦隊

 巨大戦艦がゴブリンのジェボコロニーに横付けされてから一ヶ月が経過した。修理が終わったらしく、巨大戦艦が移動を開始する。


 その行先はオークキングの支配下にあったオーク族のコロニーだった。巨大戦艦はそれらのコロニーを攻撃し、ナインリングワールドからオーク族を追い出す軍事行動を起こした。


 この事によりオーク族は大混乱に陥り、ナインリングワールドから大勢のオークが逃げ出した。住民が居なくなったオーク族のコロニーは、ゴブリン族が価値のあるものを全て奪い取り、最後に残った外殻を管理種族であるワーラビット族が自分たちの管理物件に戻した。


 管理種族からコロニーを購入する時、不要になったコロニーは管理種族に戻すという条件を付けているので、ワーラビット族が勝手にやっている訳ではない。またコロニーの転売も禁止されているので、不要になったコロニーはワーラビット族の手に戻る事になる。


 オーク族をナインリングワールドから叩き出したゴブリン族が、次はどこを狙うのだろうという話題が、あちこちのコロニーで噂されるようになった。


 そして、第一候補に挙げられたのが、デルトコロニーである。これにはちょっと納得できない。ゴブリン族と戦ったのは事実であるが、ゴブリン族と戦った経験があるのは、デルトコロニーだけではない。


 詳しく調べてみると、デルトコロニーが保有する軍事力は優秀だが数が少ない。そして、裕福なコロニーだという事が理由となっているようだ。ゴブリン族にとって美味しいという事だろう。


「巨大戦艦が、デルトコロニーを目指して動き始めました。どういたしましゅか?」

 クーシー族のベアータに質問され、私は思わず渋い顔になる。

「仕方ない。巨大戦艦迎撃作戦を発動する」

「分かりました。発動命令を出しましゅ」


 デルトコロニーの軍とミネルヴァ族が動き始めた。そして、デルトコロニーの住民は都市宇宙船に移動を始めた。巨大戦艦が攻めてきた時は、住民を都市宇宙船で避難させる予定になっているのだ。


 私は新しく建造された屠龍戦闘艦カズサに向かった。宇宙港に停泊しているカズサは、すでに初飛行も済ませている。テストのほとんどは終わっており、残っているのは艦首にある離震レーザー砲だけとなっていた。


 この新屠龍戦闘艦で戦うのは、私とレギナ、それにスクルドとなる。サリオは子供たちと一緒に都市宇宙船に乗せた。子供たちを世話する者が必要だったのだ。


「ゼン、カズサの出港準備は終わっている」

 レギナが報告した。

「ありがとう。レギナは軍への指示を頼む」

「了解」


 デルトコロニーからは、駆逐艦二隻と軍に移譲されたアキヅキばかりではなく、改造空母三隻も出港する。その後、レギナがステルス攻撃部隊にも出動を命じた。この部隊はアクティブステルス機能を装備した部隊だ。


 カズサも宇宙港を出るとすぐにアクティブステルス機能を作動させた。これによりデルトコロニーから出動したのは、駆逐艦二隻とアキヅキ、それに改造空母三隻だけというように見えただろう。


 巨大戦艦がデルトコロニーを目指して進撃を開始した時、他のコロニーから多くの偵察部隊が派遣された。それらの偵察艦は、遠くから戦いがどうなるのか見守っている。


「巨大戦艦には強力なバリアがある。戦闘機ではどうしようもないと思うんだが?」

 私がレギナに確認した。

「改造空母に搭載されているのは、全て無人戦闘機。デルトコロニー側が全力を出していると思わせるための演出だよ」


 これも巨大戦艦を油断させるための作戦の一部だと分かっているが、三隻の改造空母に搭載されている合計六十機の無人戦闘機を捨駒すてごまとして使うのは惜しいと思ってしまう。


 まずは巨大戦艦が、デルトコロニーを攻撃できる距離にまで近付くのを阻止しなければならない。そのための布石が捨駒として使用する六十機の戦闘機なのだ。


「改造空母は全戦闘機を出撃」

 レギナが改造空母に命じた。すると、はちが巣から飛び出すように次々と無人戦闘機が姿を現わした。その戦闘機は散開すると、巨大戦艦に向かう。


「無人戦闘機が、乗っ取られるという事はないのか?」

 私はスクルドに確認した。

「ゴブリンは、その分野が遅れているから、まずないわね」

「ゼン、戦闘機が戦い始めたら、ステルス攻撃部隊に攻撃の命令を出す。いいな?」

 レギナが張り切っている。

「いいだろう。カズサも急いで攻撃位置に向かう」


  ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 巨大戦艦の中では、ホブゴブリンの王であるダルヴェーグ一世が笑い声を上げていた。

「ギャハハハ……。ジェルトコロニーの連中は低能揃いだな」

 ゴブリン族は喉の構造により正確な発音ができず、デルトコロニーを『ジェルトコロニー』と発音する。それはダルヴェーグ王も同じだった。


「はい。バカなやつらじぇす。戦闘機で攻撃じても、この戦艦のバリアを破れないのぎゃ、分からぬほど低能なようじぇすな」

 巨大戦艦の艦長であるホギャスが言った。それを聞いたダルヴェーグ王は、また馬鹿笑いする。


「そう言えば、オークどもぎゃら奪い取ったものは、どれほどになったのだ?」

 ダルヴェーグ王が尋ねた。

「詳じくは存じませんぎゃ、およそ四十兆クレビットの価値ぎゃあるそうじぇす」


 ダルヴェーグ王がニヤッと笑う。

「ぐふふふ……。戦争というものは儲ぎゃるものなのだな」


 デルトコロニーの戦闘機が次々にロストしていく。そのほとんどは、四十八光径レーザーキャノンにより撃ち抜かれていた。


「よじ、そろそろ敵のコロニーを攻撃じて、溜め込んでいる資産を奪うのだ」

「分かりま……ん? 何だと!」

 ホギャス艦長は、緊急の報告を受けて驚きの声を上げる。

「どうした?」

 艦長の尋常ではない驚きようを見たダルヴェーグ王が問う。

「突然、小惑星が現れまじた。じぎゃも、この戦艦に突っ込んじぇきます」


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