第176話 屠龍戦闘艦『カズサ』

 新しい屠龍戦闘艦の名前は『カズサ』に決まった。日本は軍艦に昔の地名、『大和』とか『武蔵』などを使っていたのを思い出し、今の千葉県の昔の地名になる『上総かずさ』にしたのだ。


 カズサの建造に関わっている者で、その防御について検討した。

「巨大戦艦の攻撃に耐えられるバリアは、製造できるのか?」

 私がミネルヴァ族に尋ねた。

「四十八光径レーザーキャノンだけなら、鏡面バリアというものがあるぞ」

 一流の技術者であるグルードが教えてくれた。


「レーザーキャノンだから、鏡面バリアか。でも、巨大戦艦には巨大な荷電粒子砲もあった」

「だけど、その荷電粒子砲は使わなかったんだろ」

 グルードの言葉に、分析室のベアータが頷いた。

「不思議な事に、そうなのでしゅ」


 その点は、私も不思議に思っていた。ただ四十八光径レーザーキャノンだけで十分な戦力だったのも事実である。


「荷電粒子砲に、何か不具合が起きていたのだろうか?」

 自分でも納得できない意見を口にする。

「荷電粒子砲が一基だけなら考えられるが、巨大戦艦の艦首と艦尾には数基ずつの荷電粒子砲があったぞ。同時に全部の荷電粒子砲が、故障なんて考えられねえ」


「グルードの言う事も、もっともだ。それに一ヶ月も修理期間があれば、荷電粒子砲も使えるようにするだろう」


 つまりレーザーの攻撃なら鏡面バリアで防げるが、荷電粒子砲だと防げないので使えないという事である。


「ちょっと待って。巨大戦艦の主力兵器が、四十八光径レーザーキャノンだというのは事実。鏡面バリアも用意するべきじゃない」


 レギナが意見を言った。私はグルードに顔を向ける。

「鏡面バリアの発生装置は、大きなものなのか?」

「小型の核融合炉ほどだ」

 グルードによると、鏡面バリアは光を反射して防御するものなのでエネルギー消費が少なくてすむそうだ。


「鏡面バリアだけだと、万全とは言えない。荷電粒子砲などの物質を投射する攻撃に対し、どう対応するかだな」


「完全なバリアというものは、存在しない。だから、敵を分析して弱点を突くような作戦を立てるべきじゃない」

 レギナが力強い口調で言った。


「ベアータ、巨大戦艦の特徴は?」

「そうでしゅね。まず巨大である事が一番の特徴でしゅ。そして、強力なバリアがありましゅ。ただスピードは遅いようでしゅ」

 その他にもいくつかの特徴を挙げたベアータの言葉を聞き、少し違和感を覚えた。巨大で多数の兵器を搭載しているが、それだけなのだ。


「あれだけ巨大な戦艦を造り上げるだけの技術を持っているのに、独自の技術が感じられない」

 造船技術だけが特出しているように思えた。不思議な事だ。


「レギナ。こういう敵とは、どう戦う?」

「方法はいくつかあると思う。今思い付くのは、アクティブステルス機能を使う方法ね」

「具体的には?」


「新しい屠龍戦闘艦に、アクティブステルス機能を組み込んで、巨大戦艦に近付く。そこで強力な攻撃を叩き込んで逃げるというのを、繰り返すという作戦だ」


 要するに、アクティブステルス機能を使ったヒットアンドアウェイ作戦である。

「近付く必要があるのかな?」

「離震レーザーは、遠距離攻撃も可能だけど、距離が離れると威力が落ちると聞いた」


 普通のレーザーだと、距離が離れても威力が減衰するという事はほとんどない。だが、離震レーザーは天震力を離震軸に沿って振動するエネルギーに変換して注ぎ込む。その注ぎ込んだエネルギーは時間経過とともに拡散するので、近距離で叩き込んだ時が一番威力があるのだ。


 その時、偵察艇から報告が届いた。分析室のベアータが中をざっと見てモニターに映し出す。

「巨大戦艦が、第八小惑星帯にあるジェボコロニーに横付けされました。ここで修理を行うつもりのようです」

 偵察艇に搭乗しているブルシー族が説明している声が聞こえてきた。


「この巨大戦艦は、どこで建造されたのだろう?」

 私が疑問を口にすると、レギナが映像を見ながら話し始める。

「遷時空スペースから通常空間に遷移してきたのだから、別の星という事になる。それに長い旅をして来たのなら、情報が届いたはず」


 それを考えると近隣の星という事になる。文明国が存在する星でゴブリンと友好関係にある種族。巨大戦艦を建造できる文明国で、ゴブリンと友好なのは鬼人族くらいなのだが、近隣に鬼人族の星はなかった。


「もしかすると、難破している巨大戦艦をゴブリンが発見し、修理したのかもしれない」

 レギナが言った。


「その可能性が一番高そうだけど、どこで難破したのだろうか?」

「ビオルダート星ではないでしょうか?」

 ベアータがビオルダート星を候補に挙げた。それには理由があり、ビオルダート星は宇宙モンスターの巣と呼ばれているからだ。


 ビオルダート星は、初めから宇宙モンスターの巣だった訳ではない。ナインリングワールドから逃げ出した宇宙モンスターがビオルダート星に棲み着いたのである。


「ビオルダート星は、二百年ほど調査されていないようでしゅ」

 ベアータが調べて報告した。


「ビオルダート星に偵察艦を出そう。但し、巨大戦艦の騒ぎが終わった後だ」

 我々は巨大戦艦の分析を進め、有効な作戦を組み立てた。その作戦に従い、新しい屠龍戦闘艦の設計変更や攻撃手段も開発された。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る