第175話 次なる戦いへの準備

 巨大戦艦との戦いで、ハイオーク族のオークキングは死んだ。それはゴブリンたちが確認して大々的に公表したので分かった。この事によりオーク族は混乱するだろう。


「巨大戦艦は、小破というところか。あの修理には、どれくらい掛かると思う?」

 私はデルトコロニーの航宙船ドックの責任者であるブリクに尋ねた。ブルシー族のブリクは、アヌビス族の造船技術者教育ソフトを使って勉強し、文明レベルC相当の造船技術者になっている。


「そうですね。一ヶ月ほどで修理できると思います」

「一ヶ月か。その頃なら新しい屠龍戦闘艦が完成しそうだな」

 ブリクが首を傾げた。

「閣下、その新しい屠龍戦闘艦ですが、大きさはどれくらいなのですか?」


「駆逐艦クラスの大きさになるそうだ」

 設計図によると、全長二百八十メートルほどの大きさ、形は言葉で説明するのが難しい。第一印象は日本で使っていた爪切りに似ているというものだった。もっと分かりやすいものを連想できなかったのか、と言われそうだが、最初に頭に浮かんだのだから仕方ない。


 爪切りと言っても種類があるが、一般家庭で使われているテコ型爪切りと呼ばれているものを仕舞う時の形が頭に浮かんだ。その爪切りの刃がある方が船尾で、細くなっている方が船首になる。


「そんな小さな戦闘艦で、あの巨大戦艦を倒すのは無理なのでは?」

 ブリクが不安そうな顔で質問してきた。

「そう思うのも当然だ。だが、新しい屠龍戦闘艦には艦首砲があり、その威力が尋常なものではない」


「それはどういう武器なのでしょう?」

 私はミネルヴァ族から聞いた事を伝えた。それは『離震レーザー砲』と呼ばれる予定になっており、魔導技の『離震レーザー』をミネルヴァ族が持つサポート装置の技術を使って威力増強したものだ。


「どれほどの威力になるのでしょうか?」

「元々の魔導技である『離震レーザー』なら、巡洋艦のバリアを突き破り、その船体に穴を開けられる。その『離震レーザー』の威力を、サポート装置が三十倍ほどにするそうだ」


 ブリクが頷いた。

「それなら、巨大戦艦のバリアを突き破れそうです」

「だが、一撃で巨大戦艦を破壊するという訳にはいかないだろう。激しい撃ち合いになる」


 それを聞いたブリクが、険しい顔になる。

「撃ち合いになれば、巨大戦艦が有利になりますよ」

「そうだな。小さな戦闘艦だと、四十八光径レーザーキャノンの一撃でロストしそうだ。防御を何か考えなければならない。……そうは言っても、本当に巨大戦艦が攻めてくるのかは、まだ分からないぞ」


 最後の言葉は、そうであって欲しいという願望に近かった。あれほどの戦力を手に入れたゴブリンが、このまま何もしないというのは考えられない。


 その日の会話はそこで終わり、私は子供たちが騒いでいるリビングへ行った。

「じぇん、たいへん。パルカたちが変身した」

 パルカというのはパムの船幼虫の事である。私は船幼虫たちを確かめに行く事にした。大きくなった船幼虫たちはロードパレスの庭で飼うという事が難しくなり、宇宙港に隣接した場所にある船幼虫飼育場で育てていた。


 この船幼虫飼育場は『ビートル牧場』と呼ばれている。船幼虫はモンスターの宇宙ビートルになる訳ではないのだが、宇宙ビートルから生まれたという事で、その名称が定着してしまった。


「マスター、私も行くわ」

 スクルドがパムにMM型機動甲冑が入っている小さな機動甲冑パックを背負わせた。私も普通サイズの機動甲冑パックを背負い、ビートル牧場へ向かう。


 真空チューブの中を高速移動するコミューターポッドから降り、ビートル牧場の施設に入るとサリオの妹ソニャが来ていた。


「ソニャ、船幼虫が変身したんだって」

 こちらを見たソニャが頷いた。

「そうなんでしゅ」

 ソニャが通信機を使って船幼虫たちを呼んだ。ビートル牧場は長さが千五百メートルほどの規模があり、その中を船幼虫たちが飛び回っていた。


 船幼虫たちが私たちが居る展望室の前に集まってきた。大きさが乗用車ほどになり、形は一人乗りのスポーツカーのような形状になっている。


「これは乗れるのか?」

「たぶん乗れると思いましゅ」

 ソニャが答えた。

「よし、試しに乗ってみるか」

「パムも」

 私が試乗して大丈夫だと分かるまで、パムには待ってもらう事にした。スクルドに抱きかかえられているパムが、不満そうに頬を膨らます。


 MM型機動甲冑を着装してエアロックを通り、船幼虫たちの飛行区画に入った。中に入った私に、ウェスタが近付いてきた。


「ウェスタ、乗せてくれるかい?」

【いいよ】

 座席の上にある透明な天蓋てんがいに穴が開き、それが大きくなって入れるほどの隙間が出来た。そこから座席に座ると天蓋が元通りになる。次の瞬間、中に空気が充填された。


【吸っても大丈夫な空気だよ】

 MM型機動甲冑の分析機を使ってチェックすると、本当に大丈夫な空気だった。

「もしかして、空気再生機能もあるのか?」

【もちろんだよ。人間については勉強したんだ】

「それじゃあ、ジーについても分かっているんだな?」


「それも勉強した。今度ミネルヴァ族から慣性力抑制装置について勉強するんだ」

 ウェスタは嬉しそうに言う。船幼虫にとって学ぶという事は楽しい事のようだ。私はMM型機動甲冑を解除した。


 すると、ウェスタが飛び始めた。座席は座り心地が良く飛んでいるのが楽しかった。但し、操縦はウェスタがするので、思い通り動かすという楽しみはない。


 パムに許可を出すと、パルカに乗ったパムが楽しそうに声を上げるのを聞いた。

「はやい♪ はやい♪」

 楽しそうなパムの声を聞いたソニャが乗りたいと言うので、交代した。ウェスタはパートナーである私が頼むと誰でも乗せるのかと確認すると、ソニャだから乗せるという答えだった。


 船幼虫の成長というちょっとした変化もあったが、我々は巨大戦艦がまた戦いを始める時に備え、全力で準備を進めた。


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