第174話 巨大戦艦vsオーク艦隊

 巨大戦艦の監視を始めて一日が経過した頃、他のコロニーの偵察艦が飛んできた。デルトコロニーの偵察艇とは異なる大型の強武装偵察艦と呼ばれる艦種だ。


 その強武装偵察艦は、駆逐艦並みの武装と偵察艦のスピードが出せる推力を持っていた。ただアクティブステルス機能は持っていないらしく、巨大戦艦から大きく距離を取って偵察を始めた。


 それからも次々に偵察艇や大型の偵察艦が現れる。ただ偵察に来た艦艇の全てが、巨大戦艦に気付かれなかった訳ではない。発見された艦艇は、当然の事ながら攻撃されて宇宙の藻屑となった。


 その映像を見た私は、眉間にシワを寄せた。

「攻撃された偵察艦は、どこのだ?」

「オーク族の偵察艦でしゅ。ハイオーク族のボアコロニーが狙われていると分かり、無理をしてでも多くの情報を集めようとしたのでしゅ」

 情報分析室のベアータが報告した。


「やはり巨大戦艦の狙いは、ボアコロニーなのかな」

「ボアコロニーにも、オーク族の戦力が集まり始めていましゅ」

「それじゃあ、ボアコロニーにもう一隻の改造偵察艇を出してくれ」

「了解しました」


 数日後、第七小惑星帯にあるボアコロニーへ改造偵察艇が到着した。改造偵察艇は早速偵察を始め、巡洋艦二隻と駆逐艦十二隻、フリゲート艦二十七隻、その他にも多数の小型軍艦が集まっているのが判明した。


 ロードパレスで、軍関係者と一緒に映像を見ていた私は、よく集めたなと感心した。

「さすがハイオーク族となると、巡洋艦を持っているんだ」

 普通のオーク族は文明レベルDだが、ハイオーク族は文明レベルCだった。巡洋艦を建造できる文明レベルなのだが、巡洋艦を建造するには膨大な建造費が必要なので、スペースコロニー程度の政府だと建造するのは難しい。


 ボアコロニーには有名な産業が存在するという情報も聞いた事がないので、無理して巡洋艦を建造したと思われる。やはりオーク族のコロニーを支配下に置くために必要だったのだろう。


 巨大戦艦が第七小惑星帯のボアコロニーに近付いた時、オーク族の艦艇が一斉に動き出した。その時、巨大戦艦からオーク族に対して通信が発せられた。


「醜いオークに告げる。ホブゴブリンの王であるダルヴェーグ一世様ぎゃ、お前たちを滅ぼす。死ぬまで記憶に刻むぎゃいい」


 これはオーク族に倒する死刑宣告である。

「降伏勧告ではなく、死刑宣告か。ゴブリン族がどれほどオークを憎んでいるか分かるな」

 通信内容を聞いた私が言うと、レギナが頷いた。

「この戦力だと巨大戦艦には、勝てないだろう。オーク族はどうなると思う?」


「オーク族に対するゴブリン族の憎悪は、予想以上だ。オークを皆殺しにするまで戦いは終わらないかもしれない」


 実際にナインリングワールドに住み着いているオークを皆殺しするなど無理だ。だが、このダルヴェーグ王というゴブリンなら、巨大戦艦を使ってオーク族の全てのコロニーを破壊する事くらいはするかもしれない。


 戦いは唐突とうとつに始まった。ハイオーク族の巡洋艦二隻が三十二光径荷電粒子砲を撃ち放し、続いて三十光径レーザーキャノンを撃った。


 駆逐艦なら大破となるような攻撃だ。我々の目から見ると凄まじい攻撃だったのだが、巨大戦艦のバリアは受け止めた。それどころか、巨大戦艦はすぐに反撃を開始する。


 四十八光径レーザーキャノンが一斉に砲撃し、オーク族の艦艇が次々に被弾する。二隻の巡洋艦はバリアで受け止めたが、駆逐艦以下の艦艇は受け止めきれなかった。


 その様子を撮影した映像を、ロードパレスで見た。

「凄まじいでしゅ」

「圧倒的じゃないか」

 サリオとレギナが険しい顔で見ながら言った。私も同感だ。こんな攻撃がデルトコロニーの艦隊に向けられたら一溜まりもなく全滅するだろう。


 オーク族は勇敢だった。逃げ出そうとせずに、巨大戦艦に特攻して攻撃したのだ。だが、その攻撃はバリアによって阻まれ、四十八光径レーザーキャノンによる反撃で宇宙のゴミとなった。


 それを見ていたデルトコロニーの人々は沈黙した。オーク側の艦艇は巡洋艦だけが残り、ほぼ壊滅。残った巡洋艦が敗れれば、ハイオーク族のコロニーは直接攻撃を受ける事になるだろう。


 二隻の巡洋艦は縦に一直線に並んで、巨大戦艦へ突貫を開始した。この陣形だと、先頭の巡洋艦が巨大戦艦からの攻撃をほとんど受け止める事になる。


「前の巡洋艦が盾になって突入し、後ろの巡洋艦が至近距離で攻撃するのか。捨て身の攻撃だな」

 モニターをジッと見ながら言う。

「これだけの事を、ハイオークの兵士はやってのけるのか。舐めて掛かると酷い目に遭いそうだ」

 レギナが真剣な顔で言う。


 先頭の巡洋艦は、巨大戦艦からの攻撃でボロボロになった。それでも逃げずに直進する様子は、鬼気迫るものがある。しかし、先頭の巡洋艦がついに爆発した。中央部分が大爆発を起こし、船体が真っ二つになる。


 次の瞬間、後方を飛んでいた巡洋艦が増速し、荷電粒子砲とレーザーキャノンを狂ったように連射しながら巨大戦艦のバリアに突っ込んだ。巡洋艦による捨て身の体当たり攻撃を受けた巨大戦艦のバリアは、持ち堪えられなかった。バリアが崩壊し、巡洋艦の船首が巨大戦艦の舷側に突っ込む。


 巨大戦艦と巡洋艦の両方に凄まじい衝撃が走っただろうと分かった。但し、ダメージは巡洋艦の方が大きいだろう。


 その瞬間、戦いが決着した。巨大戦艦はまだまだ戦える状態にあるが、オーク側の戦力はほぼなくなったのだ。巨大戦艦は巡洋艦にトドメを刺してから、ボアコロニーに攻撃を始めた。


 ボアコロニー自体にも、戦力はあった。ただ宇宙クラゲや凶牙ボールなどの弱い宇宙モンスターを撃退するためのものだったので、巨大戦艦に対しては無力だ。


 ボアコロニーは巨大戦艦の攻撃を受けて壊滅。天神族が建造したスペースコロニーは、外殻と内殻がストリム合金で建造されているので、そこの部分だけは攻撃に耐えた。だが、他の部分はボロボロになり、大勢の命が失われた。それがオークの命であっても悲惨だった。


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