第173話 新たな戦乱

 戦艦が現れたというニュースは、すぐにナインリングワールド中に知れ渡った。デルトコロニーでも改造偵察艇を出し、その正体を確かめる事になった。


 ナインリングワールドの外縁部を移動している巨大戦艦に向かって飛び立った改造偵察艇は、ブルシー族によって従来の偵察艇を改造したものである。


 中型核融合炉とプラズマエンジンを、垓力収集デバイスと垓力蓄積装置、それに垓力推進エンジンの組み合わせに改造してある。電力は必要なので小型核融合炉を追加。この改造により偵察艇の航続距離が飛躍的に伸びた。それに推進力も大幅に増強されたのでナインリングワールドでトップクラスの性能を誇る偵察艇となっている。


 しかも改造偵察艇にはアステリア族の戦闘機に搭載されていたアクティブステルス機能が組み込まれており、普通のレーダーには感知されないようになっていた。


 改造偵察艇は巨大戦艦に近付くと少し離れたところでUターンし、巨大戦艦と並んで飛び始めた。そして、巨大戦艦の撮影や調査を始める。集めた情報は纏めてデルトコロニーに送られた。その通信手段も指向性を持たせた垓力波通信だったので、巨大戦艦に気付かれる事はない。


  ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


「改造偵察艇から情報が送られてきました。情報分析室においでください」

 新しく創設した情報分析室からの連絡を聞き、私は情報分析室へ向かった。そこにはコロニー運営メンバーと軍関係の者が集まっていた。


「状況を説明してくれ」

 私が命じると、情報分析室の室長であるクーシー族のベアータが説明を始めた。

「近距離から撮影した巨大戦艦の映像が、これになりましゅ」

 情報分析室のモニターに巨大な戦艦が映し出された。典型的な葉巻型のフォルム、その表面には数百という砲塔が設置されていた。


「この兵器は?」

「ほとんどが四十八光径レーザーキャノンでしゅ。但し、船首と船尾に大型の荷電粒子砲が設置されていましゅ」


「兵装は普通だな。あれほど巨大なのだから、特別な兵器が搭載されていると思ったのに」

「でしゅが、これだけの兵装は脅威でしゅ。全力で惑星を攻撃したら、公転軌道を変えてしまうのでないかと思われましゅ」


 アキヅキのバリアでは防げないだろう。私の魔導装甲もダメだろう。

「この巨大戦艦が、どの種族のものか分かったか?」

 ベアータが頷き、また巨大戦艦の映像を映し出した。その巨大戦艦に一隻の軍艦が近付き、巨大な格納庫に収容された。


「今の軍艦は?」

 映像を見たレギナが質問した。

「ゴブリン族のコルベット艦でしゅ」

 それを聞いた全員が騒ぎ出した。

「そんな……あり得ない」

「あの巨大戦艦が、ゴブリン族のものだと言うのか?」

「何かの間違いじゃないのか?」


 この状況で軍艦を船内に入れるという事は、味方の軍艦だった可能性が高い。となると、巨大戦艦もゴブリン族のものという事になる。


「ゴブリン族が、これほどの戦艦を建造できるものなのか?」

 疑問に思った点を質問した。

「この巨大戦艦が、ゴブリン族によって建造されたとは思えません。第一、ゴブリン族に遷時空跳躍フィールド発生装置は製造できません」


 この巨大戦艦が使うような遷時空跳躍フィールド発生装置となると、特別なものが必要になる。そのような特別な遷時空跳躍フィールド発生装置は軍事用に限られるので、他の種族が売ったとは考えられない。


「他の種族が建造した巨大戦艦を、ゴブリン族が手に入れたという事か?」

 ベアータが頷いた。

「建造したのは、文明レベルB以上の種族でしょう」


 それを聞いたサリオが溜息を漏らす。

「はーっ、これだけの戦力を手に入れたゴブリン族が何を考えるのか。不安でしゅ」


 私はモニターに映る巨大戦艦を見詰めた。

「こいつの進路は?」

「第七小惑星帯にあるハイオーク族のコロニーを目指し、一直線に進んでいましゅ」


 ハイオーク族のコロニーというのは、ナインリングワールドのオーク族全体を支配しているボアコロニーだった。そのボアコロニーのロードはオークキングと呼ばれているようだ。


「昔からオーク族とゴブリン族は仲が悪かった。あれがゴブリン族の戦艦だとすると、ボアコロニーを攻撃するつもりかもしれん」


 オーク族とゴブリン族が戦った場合、今までならオーク族が勝っていた。だが、あの巨大戦艦がゴブリン族の戦力に加わると、オーク族は敗北するだろう。


「オーク族の次に狙われるとしたら、どこだろう?」

 全員の視線がこちらに向いた。

「我々という可能性もありましゅ」

 サリオが言うと、皆が頷いた。私はゴブリン族に恨まれているのだろうか?


「ちょっかいを出してきたゴブリン族を、返り討ちにしただけなんだが……。仕方ない、戦争の準備を始めよう。グルード、新しい屠龍戦闘艦はどうなった?」


 新しくコロニー運営メンバーに加わったミネルヴァ族のグルードに確かめた。

「早めても、後一ヶ月は掛かるぞ」

 後一ヶ月で完成するというのは、驚異的な早さなのだが、巨大戦艦の事を考えるとギリギリだろう。

「分かった。ブルシー族は、駆逐艦の強化を頼む」


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