第5話 宇宙クラゲと裏切り
最初にディマスが報告を始めた。
「漂っている部品などは、ほとんど壊れているようです。そして、床に固定されている大きな箱を見付けました」
この報告はヴァルボの興味を引いたようだ。
「中身は何だったのだ?」
「小型連絡艇です」
長さ十五メートルほどの六人乗り連絡艇だという。
「それは動くのか?」
「分かりません。新品だったとしても、どれほど古いか分かりませんから」
ベルタとリエト、それにサリオは何も見付けられなかったようだ。私の番となり、最初に金庫の事を報告する。
「奥で床に固定された金庫を発見しました。そして……」
報告が遮られ、ヴァルボが醜い顔を歪めて質問する。
「待て、金庫だと。中を調べたのか?」
「ロックされていたので、調べられませんでした」
「チッ、役に立たん奴だ。その金庫を調べに行くぞ」
「あのー」
私が報告の続きを言おうとすると、ヴァルボが睨んだ。
「お前は黙って命令に従えばいいんだ。その金庫のところへ案内じろ」
私は金庫に案内した。金庫を見たヴァルボがニヤリと笑う。
「爆薬で金庫を開けろ」
ディマスが金庫に爆薬を仕掛ける。そして、我々は倉庫の外に避難した。爆薬が爆発し、入り口から様々なものが飛び出してきた。
爆発の影響が収まるのを待って倉庫に入る。金庫の扉が開いており、金属のインゴットが宙を漂っている。ただ整備ロボットがある部屋の入り口が、爆発で吹き飛ばされた残骸で埋まって見えなくなっていた。
ヴァルボが漂っている金属のインゴットを手に掴んで叫び声を上げた。不気味な声だと思ったが、それは喜びの叫びだったようだ。そのインゴットは『ガリチウム』という金属だったらしい。
地球に存在しない金属であるガリチウムは、特殊な宙域でのみ採掘されるものだ。十トンもあれば、中型の亜光速輸送船が買えるほどの価値がある。
「あっ」
ディマスが声を上げた。彼が見付けた小型連絡艇が、今の爆発で飛び散った残骸とぶつかり壊れていたのだ。
「チッ、あの小型連絡艇は元々壊れていたのだ。それよりギャリチウムを回収じろ」
私たちは宙を漂っているガリチウムを二トンほど回収し、偵察艦ギョガルに戻った。ヴァルボは胸を張って艦長に報告したらしい。
このような取得物は偵察艦ギョガルの所有物となり、その利益は艦長たちやヴァルボで分配するようだ。ただ発見した私やサリオたちには何もなかった。相変わらず保存食チューブが配られただけである。
この時は、ヴァルボを殺して脱走しようかと思った。だが、首の後ろに埋められている調教端子は、ボタン一つ押されただけで死ぬほどの苦痛を私に与える事ができる。
その後もポンセ宇宙港の探索を続けた。そして、整備ロボットの事を報告する機会を失ったまま時間が過ぎた。
そんな頃、宇宙クラゲの群れがポンセ宇宙港に近付いた。ヴァルボが探索を中止するだろうと思ったが、我々偵察部隊に宇宙クラゲの駆逐命令が出た。
「何で我々なんだ。機動航宙隊も居るんだろ?」
私はサリオに尋ねた。機動航宙隊というのは、宇宙の海兵隊みたいなものだ。機動航宙隊も機動甲冑に似たものを使っているが、我々の機動甲冑より高性能で武装もスペース機関銃より威力のあるものを使っている。
だから、偵察部隊に宇宙クラゲ狩りなんかさせずに、機動航宙隊にさせれば良いと思ったのだ。
「無駄でしゅよ。ゴブリン族の軍隊というのは、まず下級民の従属兵に戦わせ、それが壊滅したらゴブリン族の兵士が前に出るというやり方なのでしゅ」
このやり方は歴史的なもので変わる事はないという。我々は武装してポンセ宇宙港に向かった。他の偵察部隊も来ているはずだ。
通路を通って航宙船の荷物を積み下ろしする場所である航宙バースに向かう。航宙バースというのは貨物の積み降ろしをする場所で、ここの航宙バースは五隻の航宙船が荷物の積み降ろしができるほどの広さがある。そこへの入り口はエアロックになっており、そこを通り抜けて航宙バースへ入る。
「あれっ、宇宙クラゲが居ないじゃないか」
広い航宙バースを見渡すと宇宙クラゲの姿がない。外壁の一部が破壊されて大きな穴が開いているので、そこから出入りしているのかもしれない。
そんな事を考えていたら、穴から宇宙クラゲが入ってきた。幅が八メートルほどもあるモンスターだ。私はスペース機関銃の銃口を宇宙クラゲの核に向けて引き金を引いた。
発射時の反動が肩を叩き、その力で後ろに移動する。しまった。足裏の電磁石を作動させるのを忘れていた。電磁石を作動させ、鉄分を含んだ床に密着した。
宇宙クラゲを見ると、炸裂弾に核を破壊されて死んでいる。ホッとした次の瞬間、穴から宇宙クラゲが次々に入ってきた。
「攻撃だ。あいつらを
ヴァルボがダミ声で命じる。我々は襲ってくる宇宙クラゲを狙って引き金を引き続けた。私が四匹目を倒した時、残りの銃弾が少なくなっているのに気付いた。それは他の皆も同じだった。
「隊長、残り弾が少なくなっています」
ディマスがヴァルボに報告する。ヴァルボが目をキョロキョロさせて多数の宇宙クラゲが残っているのを確認してから命じた。
「お前らは最後まじぇ戦え、おらは報告のために戻る」
「そんな……我々に死ねと言うんですか?」
ディマスが抗議する。ヴァルボが調教端子のコントローラーを見せた。
「こいつで殺じてもいいんだぞ」
そう言うと逃げていった。ヴァルボが去り、従属兵の我々だけが残った。しかもヴァルボは出入り口のエアロックを封鎖したようだ。
「あいつ、エアロックを封鎖しやがった。どこか別の逃げ道はないか?」
ディマスが吠えるように言う。その間も宇宙クラゲが襲ってきており、私は六匹目を倒した。
「あそこを見て!」
サリオの大声が通信機から聞こえた。サリオが指差している方向にエアダクトのようなものがあった。我々はエアダクトに向かって走り出した。
その我々を宇宙クラゲが追ってくる。クソッ、百メートルくらいなのにやけに遠く感じる。最初にディマスのスペース機関銃が弾切れとなり、宇宙クラゲの触手がディマスの身体を捕まえた。
そいつの核を狙って引き金を引いたが当たらない。走りながら命中させるというのは難しいのだ。ディマスの口から血が吐き出された。触手に握り潰されたのである。
次にベルタとリエトが宇宙クラゲに捕まった。
「助けて!」
通信機から聞こえてくるベルタの声。私は立ち止まって宇宙クラゲに向かって引き金を引く。その炸裂弾が核に命中したと同時に、ベルタとリエトの身体から力が抜けた。命中した瞬間にベルタたちを握り潰したのだ。
「クソッ」
私はベルタとリエトを殺した宇宙クラゲにスペース機関銃の筒先を向けて引き金を何度も引く。
「ゼン、二人は死んだのでしゅ。逃げましゅよ」
サリオの声で私は走り出した。背後には宇宙クラゲの群れが迫っている。サリオがエアダクトに向かってスペース機関銃を撃った。爆発でエアダクトの入り口を塞いでいたダストカバーが吹き飛んだ。
最初にサリオがエアダクトに跳び込んだ。次に私が跳び込み奥へと進む。宇宙クラゲが触手を伸ばして来たが、十メートルほど進むと触手も届かないようになった。
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