第6話 宇宙港の探索
「助かった。危なかったでしゅ」
通信機からサリオの声が聞こえてくる。私は狭いエアダクトの中で頭を抱えてうずくまり、死んだ三人の姿を思い出していた。
こんな世界はクソッタレだ。何でこんな事になるんだ? ベルタ、リエト、ディマス……済まない。
「ゼン、僕らは兵士なのでしゅ。仲間が死んでも悲しんでいる暇はないのでしゅ」
サリオが言っている事は分かるが、我々は見捨てられたという事実もある。それを指摘するとサリオが溜息を吐く。
「まさか、偵察艦ギョガルに戻るつもりなのか?」
「僕だって戻りたくはないでしゅが、このままでは機動甲冑の水がなくなって死にましゅ」
機動甲冑の空気は再生して使っているので、電源が尽きるまで使える。ただ水は少ししかなかった。このままなら四、五日で死ぬだろう。
私とサリオは話し合い、この宇宙港で生き残る方法を最後まで探すという事になった。見付からなかったら偵察艦ギョガルに戻るという事だ。
我々はエアダクトを奥へと進んだ。そして、空気の流れを制御していただろう施設に辿り着いた。だが、そこは完全に破壊されており、大きな穴が開いているだけとなっていた。
私とサリオはそこから通路へ出た。その通路を辿って進み、途中にあった部屋を調べる。宇宙港は一つの町ほどの規模があり、店舗や工場、住居などもある。我々は工場や修理用ドックがある区画へ向かった。
宇宙港の外壁に近いところに造船ドックや修理工場が集中していた。そこになら何かあるのではないかと考えたのだ。大きな修理用ドックや工場から先に調べたが、何も残っていなかった。天神族は徹底的に航宙船の製造施設を破壊したようだ。
「ここまで破壊する必要があったのか、というくらい破壊されているな」
瓦礫の山に中で私が呟くと、サリオが頷いた。
「何か探しているようにも見えましゅね」
サリオが意外な事を言った。
「探してる? これだけ破壊しているのに?」
「機械装置だけでなく、何かを保管しゅる箱なども破壊していましゅ」
「私には全てのものを破壊しているようにしか見えないよ。それにしてもアヌビス族は、何が原因で天神族の敵になったのだろう?」
「分かりません」
何時間か探しているうちに 工場街の一画に場違いに豪華な屋敷があるのを見付けた。そこも破壊されているのだが、残った構築物から昔は豪華だったのだと分かる。
「これは大富豪か、貴族の屋敷だったのかもしれませんよ」
「こんな工業地帯に?」
「変でしゅね? ちょっと調べてみましょう」
壊れた屋敷の中を調べてみたが、徹底的に破壊されている。
「あれっ、これは地下通路じゃないか?」
床が陥没して地下通路のようなものが顔を覗かせているのを発見した。サリオが近付いてきて陥没している床を覗き込む。
「あっ、本当でしゅね。ここも調べてみましょう」
瓦礫をどかして地下通路に入ると宇宙港の外側へ続いていた。そこを進むと頑丈そうな扉があり、サリオが扉を調べて開きそうだという。元々は電子ロックされていたようだが、電源が切れて手動で開くようになっているそうだ。
扉を開けると、小型航宙船の格納庫だった。そこには新品同様の豪華小型航宙船があり、私とサリオは小型航宙船に近付いて調べ始めた。船は全長五十メートルほどで最大幅が二十メートル、高さが八メートルだった。外観は将棋の香車の駒に似ている。但し、角ばってはおらず流線形だ。
「これはアヌビス族の王族が使っていた航宙船でしゅ。但し、このタイプは惑星間を移動しゅるだけに使われているものでしゅ」
「というと、他の星には行けないという事?」
「そうでしゅ。それに小型航宙船は死んではいません。まだ機能しているので入り口のハッチを開けられません」
残念そうにサリオが言ったので、本当なのか確かめようと入り口らしいハッチに近付いた。その時、ハッチが開いた。
「うわっ」
驚いて後ろに跳び退くと、ハッチからロボットが現れた。それをサリオが見て納得した顔になる。
「なるほど、整備ロボットが居たのでしゅね」
この小型航宙船は整備ロボットが生き残っており、整備を続けていたので船が完全な状態で残っていたようだ。その整備ロボットは船から降りようとして後ろに倒れた。船は整備していたが、自分自身の整備はしていなかったらしい。
船の床に倒れた整備ロボットは、倒れたまま起き上がらない。打ちどころが悪くて完全に機能停止してしまったようだ。こんなの二時間推理ドラマでしか見た事がない。但し、ここで倒れているのは人間ではなくロボットだ。
ハッチが開いている間に中に入った私とサリオは、人工重力が働いているのに驚いた。こんなハッチにまで人工重力を発生させている航宙船は珍しい。そのせいで整備ロボットは倒れてしまったのだが、御蔭で中に入る事ができた。
中を調べると動力機関もエンジンも正常で、水もあった。ただ食料だけがなかった。
「食料さえ調達できれば、この船で外に出れましゅ」
小型航宙船は超小型核融合炉二基、プラズマエンジン二基、推進剤タンク、五光径レーザーキャノン二基を備えた船だった。燃料の重水素も満タンで整備ロボットがどこからか調達して定期的に入れ替えていたようだ。ただ本当に動かすには詳しくチェックする必要があり、二人では何ヶ月も掛かりそうだ。
「チェックの件なんだけど、整備用のロボットがある場所を知っている」
サリオが首を傾げた。
「どういう事?」
「我々がガリチウムを発見した倉庫があっただろ。あそこに整備ロボットもあったんだ」
サリオがすぐに探しに行こうと言い出した。我々は慎重に宇宙港の通路を倉庫に向かった。何事もなく倉庫に到着し、中に入ると奥の残骸が積み重なっている場所まで行く。
「この残骸の向こうにドアがあるんだ」
「それじゃあ、残骸を片付けよう」
惑星上だったら大変な作業だったが、重力がないここだと短時間で片付いた。我々はドアを開けて中に入った。以前に見た通り、そこに整備ロボットが箱に梱包された状態で置かれていた。
「これは軍用の整備ロボットでしゅね。五十体くらいありましゅよ。どれか一つ動かしてみましょう」
サリオと私は整備ロボットを箱から出してスイッチを入れた。地球のテクノロジーで作られたものなら、何十年も放置されていたなら絶対に動かなかっただろう。
しかし、ここにあるロボットは自己チェックを行った後に動き出した。電源は倉庫にあった非常時電源装置を使った。非常時電源装置というのは、使い切りタイプの化学電池だ。
『マスターはどなたですか?』
私はサリオにマスターになるように目で合図する。すると、サリオが一歩前に出て言う。
「僕が第一マスターのサリオ・バラケルでしゅ。そして、こちらが第二マスターでしゅ」
「第二マスターのゼン・ジングウジだ」
こういうロボットは声と顔で人を見分けるらしい。我々は五十体の整備ロボットを全部起動させて半分ずつ第一マスターとなった。
アヌビス族の軍用整備ロボットは、アヌビス族に似せて作られており、金属製だという以外はよく似ているとサリオが言う。
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