第7話 食料と水

 整備ロボットを手に入れた我々は、小型航宙船のところまで戻って整備ロボットたちに船をチェックして整備するように命じた。


 その後は宇宙港の探索を続ける。探すのは水と食料である。水は小型航宙船に最低限の量があったが、不十分だと判断した。宇宙港の通路を進んでいると、通路を横切っている機動航宙隊のゴブリン兵の姿に気付いた。私とサリオは近くの通路に飛び込んで隠れる。


 ゴブリン兵たちが見えなくなるとホッとした。

「どうする?」

 私が通信機でサリオに尋ねた。この通信は周波数を変えているので、ゴブリンたちに聞かれる事はない。


「そうでしゅね。この通路の先を調べてみましょう」

 我々は通路を進み始め、途中で避難シェルターを見付けた。エアロックを通って中に入ると、急に明かりが点いた。ここの電源は生きていたようだ。


「ここは空気があるようでしゅ」

 そう言ったサリオがヘルメットを脱いだ。

「大丈夫なのか?」

 私が慌てて尋ねると、サリオが頷いた。

「変な臭いがしたら、また被ればいいのでしゅ」


 宇宙に生きる柴犬なのにアバウトである。私もヘルメットを脱いだ。このシェルターには空気を浄化する装置が備え付けられているようで、何の臭いもせず綺麗な空気である。


 シェルターは二十メートル四方の広さがあり、壁際には三十個ほどの保管箱が固定されていた。我々は保管箱を片っ端から開け始めた。


「また腐った食料だ」

 古くなってダメになった食料が五箱続いた後、次の保管箱を開けると、透明なポリタンクのようなものに水が入っていた。


「サリオ、水だ」

「本当でしゅか」

 サリオが確かめに来た。一個の保管箱の中には透明なタンクに小分けして九百リットルほどの水が入っていた。こういうシェルターに保管されている水は、永久保存水なのだそうだ。腐るような不純物が含まれていないので、永久に腐る事はないという。


「助かりましたね。小型航宙船に保存してある水だけだと不安でしたから」

 我々はどんどん箱を開け、六トンほどの水を発見した。サリオに聞いたら、当分の水は確保できたようだ。


 このシェルターには、水の他に新品の情報端末もあった。新品と言っても遥か昔に新品だったという事であるが、その情報端末が壊れておらず動いた。さすが文明レベルCだ。


 その端末はメガネ型端末またはスマートグラスと呼ばれるもので、顔に装着すると眼の前のレンズに情報が映し出される。それを操作するには、短縮言語と言われる言葉と視線の向き、グローブ型コントローラーを使うようだ。


 使い方は分からないが、私とサリオで一個ずつ確保する。地球にもスマートグラスはあるが、それのみでは簡単な機能しか実行できない。複雑な事をするにはスマホやパソコン、ゲーム機などと通信回線を繋げる必要がある。


 一方、アヌビス族が作ったもの、省略してアヌビス製だとスマートグラスだけで高機能なパソコン以上の性能があり、様々な機能を実行できるようだ。


 それに鼻あてや耳に掛けるツルはなく、左右のレンズを繋ぐブリッジに吸着盤があり、その吸着盤を眉間に密着させて使う。時間がないので、後でサリオに使い方を教えてもらう事にした。


 その後も保管箱を調べていると、何かをサリオが発見した。

「あっ」

「どうした?」

「食料製造装置を発見しました」

 それを聞いて大喜びした。これで自由へ一歩近付いた。でも、食料製造装置というと何か材料が必要なはずだ。装置だけでは食料は作れないはず。


「凄いじゃないか。その製造装置は、どんな食料を作れるんだい?」

「保存食チューブでしゅ」

 肩をガクリと落とした。あの保存食チューブだけは食べたくないと思っていたからだ。

「でも、保存食チューブの材料はどうする?」

「この製造装置は、モンスター加工装置とも言われていましゅ。材料は宇宙クリオネや宇宙クラゲでしゅ」


 そんなものが材料だったのか、一気にテンションが下がった。それにしてもモンスターが食料になるとは知らなかった。宇宙クラゲなら近くに居るので、倒して食料にする事ができそうだ。だけど……保存食チューブか。


 その後もシェルターの中を調べ、服や生活雑貨を見付けた。使えそうなものは全て確保する。水と食料製造装置を小型航宙船がある格納庫へ運んだ。格納庫では整備ロボットが小型航宙船を整備していたが、もう一日あれば整備が終わりそうだ。


 整備ロボットから報告を受けたサリオが説明してくれたが、超小型核融合炉と小型プラズマエンジンは問題がなかったようだ。空気還元浄化システムは少し問題があったが、修理できたという。ちなみに、この超小型核融合炉は重水素だけで動くタイプだった。


 それからも食料を探して宇宙港を探し回ったが、発見できずに小型航宙船に戻った。その後、チェックが完了した超小型核融合炉を稼働させた。無事に稼働したのでホッとする。


 整備ロボットも電気で駆動しているので、バッテリーが切れる前に超小型核融合炉が稼働できて幸運だった。空気還元浄化システムも動き出し、小型航宙船の中なら機動甲冑と宇宙服を脱いで生活できるようになった。


 私とサリオは久しぶりに宇宙服を脱いで寛いだ。服はシェルターにあったものを使っている。

「この小型航宙船では、別の恒星へ行く事はできないのでしゅ」

 その事は私も分かっていた。こいつは惑星間航宙船なのだ。星間航宙船ではないので、超光速の移動は無理である。


「どうやって、この星から抜け出すんだ?」

「まだ分かりません。でもチャンスはあると思っていましゅ」

 サリオは嘘を吐かない。きっと本当の事なのだろうが、不安だった。それからも宇宙港中を調べて役に立ちそうなものを小型航宙船に運んできた。


 その中にはプラズマエンジンに使う推進剤や宇宙服などもある。ゴブリン製の機動甲冑より、アヌビス製の宇宙服の方が性能が上だった。ただ戦闘には使えない。


 小型航宙船の電源が回復したので、サリオが電子系統の自己チェックプログラムを走らせる。問題がなかったようで、航宙船用制御脳を起動した。その時、私とサリオ自身を船の乗組員として登録する。もちろん、セキュリティがあったが、古いタイプだったので、サリオが解除した。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 我々がゴブリンに見捨てられて三日ほどが過ぎていた。その間は水だけで何も食べていない。

「宇宙クラゲ狩りに行きましょう」

 我々は機動甲冑を着装し、あの航宙バースへ向かった。エアダクトを通って航宙バースへの出口まで来ると中を覗く、広い航宙バースに二匹の宇宙クラゲが漂っていた。ゴブリン族は居ないようだ。


 自分のスペース機関銃の残弾を調べた。十四発しか残っていない。貴重な銃弾なので大事に使おう。私とサリオは話し合い、宇宙クラゲを一匹ずつ倒す事にした。


 二人が航宙バースに飛び出すと、すぐに宇宙クラゲが気付いて近寄ってきた。その飛び方は海のクラゲと似ている。全身を丸く膨らませた後に後部からガスを噴き出して前進するようだ。


 上手い具合に宇宙クラゲが二手に分かれた。私に近付いてくる宇宙クラゲを観察すると、幅が八メートルくらいあり、中心部に赤い核があるのが分かる。


 一発で仕留めてやる。そのためには引き付けるんだ。巨大なモンスターが近付いてくるのをジッと待っているのは度胸が要る。心臓はバクバクと拍動し、呼吸が速くなる。


 もう少しで宇宙クラゲと接触するというところまで引き付けて引き金を引いた。炸裂弾が宇宙クラゲの身体に潜り込み、核に命中して爆発。狙い通り核を一撃で壊せたようだ。


 サリオは二発で仕留めた。宇宙クラゲの死骸を解体するために、整備ロボットを呼んできた。整備ロボットに手伝わせて宇宙クラゲを解体し、小型航宙船に運ぶ。


 小型航宙船に運び込んだモンスター加工装置には、付属品として大量の空チューブが付いていた。我々は宇宙クラゲの死骸を材料に保存食チューブを大量生産する事ができた。


 生産した保存食チューブの数は、三千食分である。一日二食として二人で七百五十日分だ。二年もこれを食べ続けるのかと思った時、目眩ままいを覚えた。


「これで、二年くらいは食糧の心配をしなくてよくなったでしゅ」

「こんなものを二年以上食べ続けるなんて、絶対嫌だ」

 私は正直な気持ちを言葉に出した。それを聞いてサリオが笑う。


「笑い事じゃないぞ。美味しいモンスターの肉とかないのか?」

「宇宙に居るモンスターは大抵不味いでしゅ。ただ惑星に住み着いた中には、旨い肉になるモンスターが居るらしいでしゅよ」


 旨いモンスター肉を食べるには、どこかの惑星に行かないとダメらしい。


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