第8話 予想外の登場

 その日、偵察部隊の隊長ヴァルボが慌てて戻ってきた。それを見た二級偵察艦ギョガルの艦長であるボォブロがヴァルボを呼んで報告させた。


「宇宙クラゲを退治する任務を命令じたはずだ。どうして一人じぇ戻ってぎた」

「艦長、部隊の全員が死んだのじぇす。おらは懸命に戦ったけど、一人じゃどうじようもなく戻ってぎまじた」


「チッ、やっぱり下級民の従属兵など使いもんにならんぎゃ。仕方ない代わりに機動航宙隊を送るぞ」

 ボォブロ艦長は機動航宙隊を使って宇宙クラゲを殲滅した。但し、それは一時的なものであり、宇宙港を完全に修理しない限り宇宙クラゲの侵入を止める事はできない。


 その頃になるとオークとの戦いが激しくなり、宇宙港の探索など後回しにする事が決まった。偵察艦ギョガルは宇宙港の傍を離れて前線に向かった。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 空気と食料、それに水の心配がなくなった我々は、また宇宙港の探索を再開した。

「これで自由になれるんだろうか?」

 サリオが首を振る。

「まだまだ自由じゃないよ。僕たちの首の後ろに調教端子がある限り、下級民のままなのでしゅ」


「取り出す事ができないのかい?」

「下手に取り出そうとすると、爆発しゅるそうでしゅ」

 私はゾッとした。

「そんな……どうにかして取り出さないと」

 サリオによれば、医療技術が発達した文明国では取り出せるという。


 我々はゴルゴナ星系を脱出し、文明国まで行かなければならないようだ。でも、あの小型航宙船では他の星系へ行けない、どうしたら良いのだ?


 それをサリオに尋ねた。

「小型航宙船だけじゃダメでしゅ。その方法を捜し出しゅしかないと思う」

 我々は宇宙港の内部を徹底的に調査し、別の修理工場を発見した。そこには半分解体された航宙クルーザーが横たわっていた。


「僕たちは運がいいかもしれません」

 サリオが突然言い出した。何の事か分からなかったが、この航宙クルーザーが関係するのだろうと思った。この船は全長五十メートルの優雅な航宙船だったようだ。


 解体途中の船に乗り込み使えそうなものを探した。すると、この航宙クルーザーでルオンドライブを発見した。ルオンドライブというのは、遷時空せんじくうスペースを移動する時に使う推進装置である。遷時空スペースというのは、超光速移動が可能になる高次元空間だ。


 但し、ルオンドライブだけでは超光速移動はできない。遷時空スペースへ転移、あるいは遷移せんいする装置が必要なのだ。それは遷時空跳躍フィールド発生装置と呼ばれている。残念ながら、航宙クルーザーにも遷時空跳躍フィールド発生装置はなかった。


「見付けたものを、小型航宙船に運びましょう」

 我々はルオンドライブを小型航宙船に運び、整備ロボットに整備させて動くようにする。整備したルオンドライブは動力室に設置し、操縦席から制御できるように改造した。私とサリオだけだったら無理だったが、多数の整備ロボットが居たので改造はすぐに終わった。


 その頃になると宇宙港の周囲にゴブリン族が居ないと気付いた。ゴブリン族のほとんどの艦艇は、オーク族との戦場になった第四惑星へ向かったのである。


 遷時空跳躍フィールド発生装置を探し回ったが、見付からずに未調査の場所も一ヵ所だけとなった。そこは厳重にロックされた部屋で、入るには扉を破壊するしかなかった。


「なぜ、この部屋だけ厳重にロックされているんだろう?」

「それほど重要なものが、保管されているのでしゅよ」

「重要なもの……何だろう?」

「新型の兵器とか。財宝かな」

 開けられないか相談すると、やはり破壊するしかないという結論になった。爆薬はゴブリン族のものがあるので、それを使う。


 爆薬を特殊合金製の扉に仕掛けると退避する。そして、起爆スイッチを押した。宇宙港全体が震えたような爆発が起こり、破壊された残骸が無重力の空間を飛び回る。それが収まってから扉に近付いた。


 扉を固定していた箇所が破壊され、特殊合金製扉が通路に倒れていた。扉より先に扉を固定していた部分が爆発に耐えられなくなったようだ。


「よし、部屋に入ろう」

「ああ、何があるのか、確かめよう」

 我々は破壊された入り口から中に入ると通路があった。破片が漂っている通路を通り、少し広い部屋に出た。その部屋にあったのは、全長三メートルほどの卵のような形をしたカプセルだった。


 青みを帯びた銀色に輝くカプセルの隣には核融合炉があり、カプセルにエネルギーを供給しているようだ。この核融合炉だけ、なぜ動いているか不思議に思ったが、核融合炉の後ろに大きな燃料タンクがあった。そのタンクから燃料が供給され続けていたようだ。たぶん整備ロボットも稼働しているのだろう。


 アヌビス族が開発した核融合炉は、膨大なエネルギーをカプセルに供給しているはずだ。そのエネルギーをカプセルは何に使っているのだろう。それを不思議に思った。


 その時、頭の中に声が聞こえた。

【ゴブリン族の従属兵たち。私の願いを聞いて欲しい】

 私はゴブリン族じゃないと考えながら、声の主を探して周囲を見回す。だが、誰も居なかった。

「まさか、カプセルの中なのか?」


【私の声に従ってくれ】

 そう言われた私は、逆らう事ができなかった。ふらふらとカプセルに近付きカプセルの表面に組み込まれている操作盤で複雑な操作をする。


「ゼン、何をしているのでしゅ?」

 その声を聞いた私は正気に戻った。

「えっ、何を?」


 カプセルの表面に亀裂が走る。床がドォウンと波打ち揺れた。そして、大きな裂け目が現れ、それが次第に大きくなる。


「な、何が起きているんだ?」

 カプセルから人が出て来た。裸の女性である。神秘的なほどの美しさを持つ女性でよく見ると細長い耳だけが地球人とは違う。ファンタジーに出てくるエルフを連想した。


 私はあり得ない事を目にして混乱するばかりだった。部屋の中は真空で空気がないのだ。裸の人間が真空中に放り出されれば、すぐに死ぬはずなのに平気な顔をしている。


 明らかに普通の人間ではなかった。人では出せない存在感を持っている。サリオが小刻みに震えていた。

「天神族の方でしゅか?」

【そうです。私はリカゲル天神族のゾロフィエーヌ】


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