第4話 ゴルゴナ星系の宇宙港

 補給艦ブラバに積まれていた補給物資が宇宙ステーションに運び込まれ、我々は補給艦ブラバから二級偵察艦ギョガルに引っ越した。


 二級偵察艦ギョガルは、全長百二十メートルほどの戦闘艦である。武装はレーザーキャノンと高速ミサイルだけという軽武装だ。但し、ゴブリン艦隊の中では最速の性能を持っていた。


 私とサリオは偵察部隊の他のメンバーと合流した。偵察部隊は六人チームで、部隊長であるヴァルボが指揮する。


 他の三人はワーキャット族のベルタとリエト、ワーウルフ族のディマスである。ワーキャット族の二人は身長百五十センチほどで素早く若い。そして、ディマスは身長百九十センチほどで歳は六十歳だという。


 チームを組んだ我々は一緒に訓練した。ワーキャット族のベルタとリエトは陽気でおしゃべりである。それに反してワーウルフ族のディマスは無口な男だった。ちなみにベルタだけが女性である。


 訓練が終わって食事の時間になると、例の保存食チューブが渡された。それを見て顔をしかめる。ベルタがそれを見ていたようだ。


「ゼンも保存食チューブが苦手にゃの?」

 ベルタが話し掛けてきた。ワーキャット族は大型の猫を人間にしたような種族だ。二足歩行のヒューマノイド型だが、全身が毛に覆われて顔は猫だ。ベルタは猫のソマリに似ている。そして、『な』の発音が『にゃ』になるのが、ワーキャット族の特徴だった。


「この保存食チューブは、食べ物じゃない。拷問装置だ」

 それを聞いたベルタの相棒であるリエトが頷いた。

「その気持ち、分かるにゃあ」


 ベルタとリエトは小さい時に闇シンジケートに売られた後、ゴブリン族の偵察兵になったという。二人の家族は故郷の星をなくした流浪るろうの民で、二人を育てられなかったらしい。


 もう一人のディマスは戦争で捕虜になってゴブリン族に売られたそうだ。故郷に残した家族の元に帰りたいとポツリと言った事がある。


 訓練期間が終わり、偵察部隊が初めての任務に向かう事になった。我々は指揮官のヴァルボから、作戦の内容を聞いた。


「最初の目標は、いくつか存在する宇宙港の中のポンセ宇宙港と呼ばれているものだ。貴様らはポンセ宇宙港の中を調べ、その構造を調査しろ」


 そのポンセ宇宙港というのは、アヌビス族が建造したものである。このゴルゴナ星系は元々アヌビス族のものだった。


 アヌビス族というのは、サリオたちクーシー族と同じ犬人間の種族だが、クーシー族が柴犬なら、アヌビス族はドーベルマンだ。アヌビス族は文明レベルCの種族で、三百ほどの恒星を支配していた時代もあった。但し、天神族と敵対した事が原因で今は滅んでいる。


 それを聞いた時、私は自殺願望があるか、馬鹿だと思った。天神族は圧倒的な力を持つ存在である。三百ほどの恒星を支配していたと言っても、文明レベルCの種族が敵対するとは考えられない愚行ぐこうだ。


 アヌビス族の最後をサリオから聞いたが、リカゲル天神族に一日ほどで滅ぼされたという。背筋が寒くなるような話だ。天神族の圧倒的な力を感じさせる情報だった。


 我々は部屋に戻って機動甲冑を着装すると、偵察艦ギョガルがポンセ宇宙港に着くのを待った。偵察艦ギョガルがポンセ宇宙港の近くまで接近すると、我々に出撃の命令が下った。


 その出撃命令で、我々の部隊を含めた三つの偵察部隊が出撃した。偵察艦ギョガルのエアロックから宇宙空間に飛び出した我々は、背中にあるスラスターパックからガスを噴出させてポンセ宇宙港へ向かう。


 私にとっては初めての宇宙空間だ。何も問題は起きていないのだが、ただ宇宙空間に居るというだけで呼吸が早くなり嫌な汗が背中に噴き出す。


 暗い宇宙空間の中で私一人だったらパニックになっただろう。しかし、私の前にはサリオたちが飛んでいた。仲間の存在によりパニックに陥らずにポンセ宇宙港まで飛べた。


 ポンセ宇宙港は長さ三キロほどもある巨大なものだったが、破壊されていた。外壁にはいくつかの穴が開いており、その中の恒星側にある直径五メートルほどの穴から中に入る。私とサリオは組んで行動するように命令されているので一緒に通路を進んだ。


「ゼン、帰るのにスラスターパックを使わなきゃならない。無駄遣いはダメでしゅ」

「分かった」

 我々は空気も重力もない通路を先に進んだ。先頭はベルタとリエト、真ん中に部隊長のヴァルボとディマス、最後尾に私とサリオという順番だった。


 無重力なので床はもちろん壁や天井を蹴って前進する。

「この先に扉ぎゃある。その中を調べるんだ」

 扉があると知っているという事は、偵察マシンで一度調べているのだろう。偵察マシンというのは小さなドローンのようなものである。


 リエトが扉の前に行ってロックされているかどうかを確認した。

「ヴァルボ隊長、扉はロックされています」

「さっさと破壊じろ」

 こういう時のために爆薬を持ってきていた。ベルタとリエトが扉に爆薬を仕掛けて戻ってくる。


「やれ」

 ヴァルボの命令で起爆スイッチが押され、扉が爆破された。空気がないので爆発音は聞こえないが、壁に触れていた手に振動が伝わった。


 扉の破片が飛び散り、しばらくは近付けない。それが収まった後、我々は爆破した扉から中に入った。その部屋は広い倉庫だったようだ。様々な荷物が宙を漂っている。


 何かの部品だと思われるものが多い。たぶんポンセ宇宙港で使われていた機械の修理用部品なのではないかと思う。但し、ほとんどが壊れているようだ。


「奥まで行って丹念に調べろ。何きゃ使えるものぎゃないきゃ探すんだ」

 ヴァルボが曖昧な命令を出した。爆発の影響で漂っている荷物が邪魔で、奥へ行くのが難しくなっていた。それでも命令なので奥へ行くと一畳ほどの広さがありそうな金庫が床に固定されていた。但し、鍵の部分が壊れている。


 金庫か、壊れているから使えるものじゃないな。いや、中身が問題か? 保留だな。周りを見るとサリオやベルタたちは漂う荷物のせいで姿が見えなくなっている。


 私は他に何かないか探した。そして、倉庫の奥に部屋があるのを発見する。ドアが開いており、中に入ると新品の宇宙服らしいものが宙を浮いていた。私は近付いてヘルメットの中を覗いた。


「うわっ!」

 反射的に跳び退いた。宇宙服の中にミイラのような遺体が入っていたのだ。落ち着いてから、他に何かないか探す。すると、部屋の奥にシートを被せている荷物があるのに気付いた。そのシートの御蔭で荷物が散らばらず破損もせずに済んだらしい。


 シートは金具で床に固定されている。その金具を一個だけ外す。すると、一部分だけシートがめくれて中が見えた。中にあったのは整備ロボットのようだ。箱に最新型の軍用整備ロボットだと書かれていた。但し、何十年も前に最新型だったものだ。


 その箱が五十個ほど積まれているようだ。

「戻ってこい」

 通信機からヴァルボの声が聞こえてきた。私は急いで入り口の方へ向かい、皆と合流した。


「全員揃ったな。報告じろ」


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