第47話 魔導装甲

 先日、砲撃シャークというモンスターを倒して五百億クレビットという大金を手に入れた。五百億クレビットというのは、大型惑星間航宙船が買えるほどの金額である。


 昔、大型カーフェリーの建造費が百数十億円だと聞いた事がある。その宇宙版を五百億クレビットなら買えるという事だ。


 その他に倒した砲撃シャークの死骸から紅龍珠を回収した。運搬と解体は屠龍猟兵ギルドに頼んだので、その分の費用は引かれたが、回収した部位は高値で換金できた。


 その中の紅龍珠は兵器の部品となるので、百五十億クレビットほど。その他の部位が三十億クレビットほどで換金できた。それらを合計すると、約六百八十億クレビットの資金が出来た事になる。


「ゼン、大金でしゅよ。何に使うのでしゅか?」

「まず、ルナダガーを武装化しよう」

 ゲストタワーの最上階に近い部屋で、武装化の提案をした。

「そういう事なら、海賊船からサルベージした武器が使えるか、調べないとダメでしゅね」


 武器だけでなく、高性能核融合炉やMM型機動甲冑、円盤型偵察ドローンも調査した方がいいだろう。その調査はサリオに任せる事にした。


「あの武器は、ルナダガーに搭載できる?」

「たぶん搭載できると思いましゅ」

 調査した結果、修理すれば全部が使えると判明した。ルナダガーの改造には、合計で五億クレビットほどが必要になるという。修理工場のレンタルや部品の購入が必要なのだ。


 建造当初の武装を上回る事になるが、そのせいで船体重量が増えて最高速度が落ちるという。但し、それは天震力ドライブを使わなかった場合の話だ。武装化はサリオに任せる事にした。


 私はその間に母王スパイダーの巣穴で手に入れた『初級魔導装甲』を調べて粒子装甲を魔導装甲に進化させようと考えている。この進化は全身鎧がパワードスーツに変化するようなものだ。


 初級版の魔導装甲は、粒子装甲と同じボソル粒子による装甲と純粋な天震力による装甲の二重構造になっている。粒子装甲の内側に『強化スキン』と呼ばれる天震力の膜を纏うような構造だ。


 その強化スキンが身体の動きを感知し、その動きに合わせてアシストする。私はアシスト機能で筋力を二十倍にするように調整した。


 それから二十日ほどの時間を掛けて魔導装甲を完成させる。その魔導装甲は簡易宇宙服を着ていれば、宇宙でも活動できるものになった。


 ただ地面のない宇宙で活動する場合、何らかの推進装置が必要だ。魔導装甲の上から推進装置を取り付けるのは難しいので、地面の代わりとなる足場『不動プレート』が発生するような仕組みを魔導装甲に組み込んだ。


 不動プレートは重力がある惑星上や宇宙空間でも任意の位置に一瞬で発生させる事ができる。それは足場として使う事もできるが、盾として使う事もできた。但し、同時に発生できるのは一つだけである。


「よし、使い勝手を試すか」

 南東のキリマス山岳地帯へ行くために部屋を出ようとした。

「ゼン、どこに行くのでしゅ?」

 サリオが出ようとする私を目にすると声を掛けた。

「魔導装甲を試しに、キリマス山岳地帯へ行って来る。そうだ。ルナダガーの武装はどうなった?」


「注文していた部品が届いたので、明日から改造に入れましゅ」

「何日掛かる?」

「たぶん五日もあれば、終わると思いましゅ」


 私はルナダガーの事をサリオに頼み、ホバーバイクでキリマス山岳地帯へ向かった。キリマス山岳の南西にある岩山の麓には岩畳の広い平地がある。そこは岩平原と呼ばれ、その場所で試す事にした。


 岩平原に下りてホバーバイクを異層ペンダントに仕舞う。周りを見回すとゴツゴツした岩畳の所々に岩が突き出しており、それが良い標的になりそうだ。


 精神を集中して天震力を制御し、身体の周りに強化スキンを発生させる。その後、ボソル粒子で構成された装甲部分を構築した。


 その状態で軽く真上にジャンプすると、三メートルほど跳び上がった。思っていた以上に高く跳び上がったので、驚いてバランスを崩した状態で地面に倒れた。その拍子に地面を片手で押してしまい、その力で身体が浮き上がる。


 ドタバタしながら巨大なパワーに慣れるのに時間が掛かった。転んだりしても魔導装甲があるので怪我はしないのだが、とにかく制御が難しかった。一週間ほど練習を続けると、簡単な動きならイメージ通りに動けるようになった。


 そして、二週間ほどで慣れてきた。その成果を試そうと、大岩に向かって飛ぶように直進した私は、標的に向かって拳を叩き付けた。普通なら拳が粉々になるのだが、魔導装甲に守られた拳は岩にめり込んで破片を撒き散らす。その時、ドカッという音が周囲に響いた。


 標的にした岩を調べると直径三十センチほどが陥没しており、その威力を考えると暴走ボアくらいなら、撲殺できそうだった。但し、本格的に武術や格闘技を習った事がないので、動きがぎこちない。


 宇宙に来てから二年ほどが経過したが、魔導師なのでほとんど接近戦はやった事がない。例外的に接近戦をした時は必ずと言って良いほど苦戦している。


 苦戦と言っても粒子装甲を開発してからは、攻撃されても装甲がほとんどの威力を受け止めたので、深刻な怪我を負う事はなかった。今回の改造で防御力が上がったので、脅威度5までのモンスターなら、その攻撃を防げるだろう。


 但し、特殊な攻撃手段を持つモンスターも存在するので、そういう特殊な攻撃は例外である。


 その日の練習が終わってキリマス山岳から街に戻ろうとした時、近くで何かが戦っている気配を感じて近付いた。戦っていたのは狂乱コングと武装機動甲冑を着装した屠龍猟兵だった。


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