第210話 ワーラクーン族

 デルトコロニーの警備部隊がゼネクたちを捕縛すると、全員を調査船ダルクの中に運んだ。そして、徹底的に情報を吐き出させた。


「ほう、ゼネクがリーダーか。これからは尋問の中心をゼネクにする」

 尋問係の主任がゼネクをメインに尋問を開始し、ゼネクから重要な情報を引き出した。それはクルジンがブラッド同盟の資金を横領しているという事実だ。クルジンコロニーの資金なら、どれほど横領してもクルジンの権力でもみ消せるが、ブラッド同盟の資金はクルジンの命に関わる大問題になるものだった。


 この情報を手に入れたデルトコロニーの情報部は、どうやってクルジンを失脚させるか、その策を練り始めた。


  ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 デルトコロニーからタリタル星系で起きる戦争を指揮するのは難しい。そこでタリタル星へ移動する事になった。行くのは、私とサリオ、それにスクルドの三人である。スクルドを人間に数えるのは疑問に思ったが、自我に目覚めたロボットは、すでに知的生命体だと思う。


 レギナは子供たちの世話があるので留守番だ。もちろん、子供たちのためだけではなくデルトコロニーを統括する者が必要なのだ。


 クーシー族であるソニャも行くと言ったのだが、さすがにサリオが止めた。

「ソニャはデルトコロニーに残って、ここに避難してくる同朋の世話を頼む」

 私が言うと、ソニャが渋々承諾した。


 我々は屠龍戦闘艦カズサに乗ってタリタル星へ向かった。高性能な偵察艦でも二ヶ月ほど掛かる距離なのだが、カズサに搭載されているルオンドライブは、一ヶ月ほどでタリタル星系の外縁部に到着するほどの性能を持っていた。


 タリタル星系政府と話し合い、ゴヌヴァ帝国に戦争の口実を与えないように注意する事になっていた。だが、モラタス星の第三惑星ヴァイアを制圧したゴブリン族は、大義名分たいぎめいぶんなど力で何とでもなると考え始めているのが分かった。


 ゴブリンたちは駆逐艦を数隻派遣し、タリタル星系の軍艦に襲い掛かった。そして、自分たちがタリタル星系軍に襲い掛かられたと主張した。やり方が雑になっている。


 タリタル星系政府は、戦争を回避しようとゴヌヴァ帝国と交渉した。だが、目的が戦争であるゴブリンたちは、巨額の賠償金を払わなければ戦争だと主張して譲らず、そのまま戦争へと向かう。


 惑星ロドアに到着したカズサは、惑星ロドアとその月のラグランジュポイントに存在する巨大な宇宙港に停泊した。その宇宙港はハーモニカのような形をしたもので、幅が二十キロほどあった。ここは軍港にもなっており、タリタル星系政府の宇宙軍司令部はここにある。


「サリオ、惑星ロドアの様子はどうだ?」

 カーシー族の様子を調べていたサリオに尋ねた。

「まだパニックにはなっていないようでしゅ。でも、街には不安が広がっていましゅ。本格的に戦争が始まれば、タリタル星系から逃げる住民が増えると思いましゅ」


 カーシー族はゴヌヴァ帝国と戦えば負けると思っている者が多いようだ。住民にはデルトコロニーから援軍が来る事を伝えていない。それは軍事機密となっているのだ。


 先に出発したのにカズサより遅れて到着したタリタル星系派遣艦隊は、目立たないように宇宙港に入って停泊した。


「スクルド、ゴブリンたちがタリタル星系派遣艦隊に気付いた、と思うか?」

 この宇宙港に出入りする航宙船は多い。その中にまぎれるように入港したので、気付かない可能性もあると考えたのだ。


「それはゴブリンを甘く見すぎているわ。いくら馬鹿でチョロいゴブリンでも気付いたと考えて作戦を練るべきね」


 スクルドの指摘は的確だった。相手がゴブリンなので甘く考えた部分もあったようだ。ただ相手を高評価しすぎるのも、作戦を誤る原因になる。だが、この場合はタリタル星系派遣艦隊の事を知られていると考えた方が良いだろう。


「分かった。ところで、馬鹿でチョロいゴブリンに巡洋艦は建造できない。どの種族が建造したものだと思う?」

「デザインや性能を考えると、鬼人族という可能性が高そうね。でも、一つだけ矛盾する点があるわ」

「矛盾……それは何でしゅか?」

 サリオが首を傾げている。

「巡洋艦の副砲よ。鬼人族の巡洋艦に搭載されているのは、三十光径レーザーキャノンである事が多いのだけど、ゴブリンの巡洋艦はクリムゾンレーザーを搭載している」


 クリムゾンレーザーというとイノーガー軍団を思い出す。

「ゴブリンの背後に、イノーガー軍団が居ると?」

 私はスクルドに確認した。

「クリムゾンレーザーを発明した種族は、イノーガー軍団じゃないわよ。ワーフォックス族よ」

「それはおかしい。ワーフォックス族はゴブリンを嫌っている」


 それを聞いたサリオも頷いた。ワーフォックス族がゴブリンを嫌っているのは有名な事だった。私はスクルドに目を向けた。


「嫌っているゴブリンを、援助するとは思えない」

「ワーフォックス族は狡賢ずるがしこい種族なの。嫌っていても利用するかもしれないわよ」

「利用する? どう利用すると言うんだ?」

「具体的な事は分からないわ。ただクーシー族の故郷であるコラド星を調べた報告書をチェックしたのだけど、ワーラクーン族の航宙船が頻繁に訪れているそうよ」


 ワーラクーン族と言うのは、アライグマを人間にしたような種族である。

「ワーフォックス族とワーラクーン族は、何か関係があるのか?」

「マスターはまだまだね。ワーラクーン族はワーフォックス族の手下よ」


「僕も知りませんでした」

 サリオが言った。スクルドはワーラクーン族とワーフォックス族の関係を一般常識のように言ったが、知っている者の方が少ない情報だったようだ。ワーフォックス族か、何を考えているのだろう?


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