第169話 鬼人族の狙い

 クラビスから短距離ワープの装置を爆破したと聞いた私は、勿体ないと思った。短距離ワープの技術が手に入ったら、膨大な利益が手に入っただろう。但し、この技術を手に入れたら、天神族に目を付けられるかもしれないというリスクがある。


 短距離ワープの技術が手に入れられなくて、良かったのかもしれない。それより気になっている事があった。


「鬼人族が独占して『幽霊船』の謎を調査しようとした事が気になる。もしかすると、短距離ワープの実験施設の事を知っていたのかもしれないな」


 レオはあまり興味がないようだ。

「そんにゃ事は、巡洋艦の生き残りを捕まえて喋らせればいい」

「なるほど。それが一番早く分かりそう」


 我々は鬼人族の生き残りを探し、二人だけ発見して都市宇宙船の中に運んだ。その鬼人族を尋問して分かった。この時に初めて知ったのだが、この宇宙には安全な自白剤というものがあるそうだ。これを射たれた者は、本人の意思とは関係なく正直に話してしまう。


 その自白剤により鬼人族の事が分かった。救助した二人の鬼人族は、ただの兵士だったので詳しい事情は知らなかったが、推測できる程度の情報は集まった。


 鬼人族が独占してまで『幽霊船』の謎を解こうとしたのは、文明レベルAの種族から『幽霊船』の謎に短距離ワープが関係していると聞いたからだという。


 文明レベルAの種族というとアステリア族が頭に浮かぶが、アステリア族とは限らない。他にも文明レベルAの種族は存在するからだ。


「イオハさんは、どう思いますか?」

 私はレオでなくイオハに尋ねた。レオは魔導師としては優秀だが、他の分野はダメダメで自己中心的な性格を持っていたからだ。


「鬼人族が短距離ワープの技術を、独占したいと考えたのは理解できるわ。でも、海賊まで使って他の種族の船を排除しようとしたのは、何か焦っている証拠じゃにゃいかしら」


「何か焦るような事が、あったのでしょうか?」

「鬼人族を支配しているのは、三家の血筋にゃの。現在はジェルド家が支配権を握っており、そのジェルド家でゴタゴタがあったらしいの。そのせいで鬼人族の社会や経済が混乱し、ジェルド家ではダメじゃにゃいか、という話が広まっているそうよ」


 そうか。そんな噂が広まれば他の家に支配権を奪われるかもしれない。そこで一発逆転を狙って短距離ワープの技術を手に入れようとしたのか。


「そんな事より、巡洋艦のサルベージはしにゃいのか?」

 レオが口を挟んできた。巡洋艦の残骸を探せば、サルベージする価値があるものが見付かるだろう。ただ鬼人族の巡洋艦が敗れた事は、仲間の鬼人族に知られたかもしれない。


「確かにサルベージする価値はあると思う。でも、こうしている間にも、鬼人族の仲間がくるかもしれない」

「それは嫌だにゃ」


 ここでゆっくりしていると、鬼人族の艦隊が来るかもしれない。なので、これ以上グズグズせずに宙域同盟地域統括センターがあるベイビスコロニーに向かう事にした。


 クラビスが天神族と連絡を取りたいと要望したので、ミネルヴァ族は都市宇宙船の進路をベイビスコロニーへと変更した。ミネルヴァ族は、クラビスが命じた事は絶対だと脳に刷り込まれているようだ。


 この都市宇宙船の存在は、すぐにナインリングワールドに広まった。わざわざ航宙船を出して見物に来る者も居た。


 都市宇宙船に近付いて乗り込もうとする者も現れたので、私が警告を出した。それでも乗り込もうとするゴブリン族の船が飛んできたので、離震レーザーで小惑星を破壊し、こちらに排除する力がある事を見せ付けた。


 ベイビスコロニーに到着し、私とクラビス、それにイオハの三人で宙域同盟地域統括センターに向かった。この宙域同盟地域統括センターには宙域同盟統括本部と繋がる通信機があり、それを使って本部に駐在している天神族と連絡ができるのだ。


「お二人は、ここで待っていてください。通信の内容には極秘事項もありますので、私一人で連絡を取ります」


 四十分ほど通信室の外で待っていると、クラビスが出てきた。天の川銀河の直径は約十万光年、ナインリングワールドから宙域同盟統括本部までは二万光年ほどあるので、こんな短時間に何万光年もの距離をへだてて通信できる技術がある事になる。


 アキヅキで宙域同盟統括本部まで行こうとしたら、何年も掛かる。地球の十五世紀に始まった大航海時代に、無線通信機を開発している種族が居るようなものだ。天神族の技術は半端じゃないと感じた。


 我々が宙域同盟地域統括センターを出ようとしたら、数人のゴブリンが現れた。咄嗟に魔導技を発動してゴブリンたちを吹き飛ばす、という願望が頭に浮かんだ。だが、そういう訳にもいかないので、何の用だと尋ねた。


「そこのロボットに用ぎゃある。ごっちに来い」

 ゴブリンがクラビスを捕らえようとした。私はその間に割り込んで、ゴブリンたちを睨んだ。

「このクラビスは、天神族の所有物だ。それに手を出すという事は、天神族と敵対するという事になる。それでいいんだな?」


 天神族と敵対すると聞いたゴブリンは、顔を歪めた。

「外にある都市宇宙船も、天神族のものなのぎゃ?」

 私が答えようとする前に、クラビスが喋り始めていた。

「元は天神族のものでしたが、所有権を放棄すると言われたので、現在はミネルヴァ族のものになります」


 このままでは都市宇宙船が攻撃されると考えた私は、クラビスの言葉に付け足す事にした。

「あの都市宇宙船の中には、私と魔導師『幻豹』の船が停泊している。都市宇宙船を攻撃した場合には、二人の魔導師を敵に回す事になるぞ」


 『幻豹』の名前を聞いたゴブリンは、腰が引けたように見えた。

「小惑星を吹き飛ばじたのは、『幻豹』なのぎゃ?」

「いや、私だ。魔導師ゼンと覚えておいてくれ」


 ゴブリンたちが逃げて行った。失礼なやつらだ。


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