第168話 蒼鬼神の執念

 巡洋艦の攻撃から逃げ回っているアキヅキが不運に見舞われた。巡洋艦が放ったプラズマ弾がバリアを突き破ってアキヅキの船尾を貫通したのである。


「ああっ」

 アキヅキは爆発する事はなかった。ただエンジンが損傷したようだ。

「スクルド、大丈夫か?」

 アキヅキと通信回線を繋いで、状況を確認する。

「プラズマエンジンが全損、その影響で核融合炉が緊急停止という状況よ」


 私は巡洋艦へ鋭い視線を向け、離震レーザーでの攻撃を準備する。この巡洋艦は全長が千八百メートルもある頑丈な構造をしているので、離震レーザーが命中しても大したダメージを与えられない事がある。


 大きなダメージを与えるには、エンジンや動力炉、ブリッジなどの弱点となる箇所に命中させる必要があるようだ。倉庫などに命中すると貫通して大したダメージは与えられないだろう。そう思った私は、スクルドに構造を確認した。


「巡洋艦の中心より少し後ろの部分、ここの中央部に機関室があるはずよ」

 スクルドから図と説明を受けると、私は巡洋艦の側面に回り込んだ。巡洋艦はアキヅキにトドメを刺そうと近寄ってくるところだった。


 巡洋艦はレーダーなどの統合探査システムに障害が起きているらしく、小さなサイズのものを認識できないようだ。なので、的確な戦闘行動ができていないのだろう。


 巡洋艦の側面に回り込んだ私は、機関室があると教えられた場所に向かって離震レーザーを放った。距離としては三十キロほど離れた場所からだったので瞬時に巡洋艦のバリアにぶつかって突き破ると船体に食い込んだ。


 巡洋艦の表面が分解されて原子となり、その一部が崩壊して熱と光に変わる。それは凄まじい爆発で頑強な巡洋艦の舷側に大きな穴が開いた。それと同時に巡洋艦の動きがにぶくなる。


「巡洋艦の動力炉が、停止したようね」

 スクルドの声が聞こえた。動力炉を破壊する事はできなかったが、アキヅキと同じように爆発の衝撃で緊急停止したようだ。


 その時、レオが居る方向から天震力が爆発したような凄まじいパワーを感じた。

「何だ?」

 そちらに注意を向けると、蒼鬼神と思われる存在が殺気を放ちながら、こちらに向かって飛んでくる。


「あいつ、巡洋艦を狙っているのか」

 私の横を素通りした蒼鬼神は、巡洋艦に向かって突貫した。蒼鬼神は殺気の塊となって巡洋艦を攻撃する。動力炉が停止した巡洋艦はバリアを張れず、クリムゾンレーザーにより何度も爆発。最終的には巡洋艦がロストという結果になった。


 巡洋艦を破壊した蒼鬼神は、魔導飛航術を使って去っていった。魔導飛航術……いいな。どういう仕組みなんだろう?


 その後、破壊されたアキヅキを都市宇宙船の宇宙港に入れて固定する。その都市宇宙船にレオのペトロニ号が入ってきた。私がミネルヴァ族に説明して許可を取ったのだ。


 宇宙港で合流すると、宇宙港の隣りにあるホテルに向かった。営業していないが、設備は修理してあるという。私とイオハ、それに管理者クラビスがホテルに入り、続いてレオとフュムが入る。


 ホテルには呼吸できる空気があり、宇宙服は不要だった。そのロビーにあるソファーに座った私は、あの特殊な空間に引き込まれた後の事をレオとフュムに説明した。


 レオは元気なイオハの姿を見てホッとしたようだ。

「ロード・ゼン、その空間にあった天神族の実験施設だが、どんにゃ実験をしていたのか教えて欲しい」

 珍しく真剣な顔のレオが頼んできた。


「詳しい事は、イオハさんに聞いて欲しいのだが、あの実験施設は短距離ワープの装置を実験していたようだ」


 それを聞いたレオが身を乗り出した。

「短距離ワープだって、やっぱり天神族はその技術を持っていたんだにゃ」

 レオの話では、天神族が短距離ワープの技術を持っているのではないかという噂があったようだ。

「その技術は、手に入ったのかにゃ?」


 私は首を振って否定した。

「にゃんだ。手に入れられにゃかったのか」

「天神族の許可がなければ、技術を渡せないそうですよ」

 レオがクラビスに視線を向けた。

「短距離ワープは、天神族も秘密にしている技術だという事です」


 レオがガッカリした顔になる。その顔を見たイオハが笑う。

「でも、七不思議の一つである『幽霊船』の謎は、解けたわ。それで十分じゃにゃい」

「いやいや、調査船が失われたんだぞ。その代償に少しくらいの技術や知識が欲しいじゃにゃいか」


 イオハが認めるように頷いた。

「それはそうだけど……そうだわ。都市宇宙船に使われている技術にゃら、手に入るかもしれにゃいわ」


 イオハはクラビスに目を向けた。

「それは許されるの?」

「都市宇宙船に使われている技術は、古典的な技術です。そんな技術を天神族が気にするはずもありません」


 レオがニヤッと笑う。

「その技術は、豹人族がもらうぞ」

 それを聞いた私は、レオをジロリと睨む。

「豹人族が、ではなく。豹人族とデルトコロニーがです」

 レオが肩を竦めた。

「そうだにゃ」


 クラビスの許可も出たので、都市宇宙船に使われている『垓力蓄積装置』と『大加速力場ジェネレーター』の技術は、手に入れられそうだ。今回の件は『骨折り損のくたびれ儲け』にはならなかったようだ。


「そう言えば、蒼鬼神の洗脳が解けたんですね」

 レオに確認した。

「そうにゃんだ。でも、あいつは一言の礼も言わずに、巡洋艦を破壊して居にゃくなってしまった。全く恩知らずなやつだよ」


 その時、空間が振動した。巨大な都市宇宙船も揺れる。

「これは何だ?」

 レオが声を上げた。すると、クラビスが宣言した。

「実験の終了です。あの空間が消失し、短距離ワープの装置が爆発したのです」


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