第227話 灼炎アウロン
離震追尾レーザーにより胴体に穴を開けられた白蛇竜ビワントが、飛びながら藻掻き苦しみ始めた。魔導翼を操作して白蛇竜ビワントに近付くと、その首を目掛けて離震月牙刃を放つ。
天震力で形成された三日月形の刃に高次元の離震軸に沿って振動する高次元エネルギーを注ぎ込んで完成した離震月牙刃は、凄まじいスピードで飛翔すると白蛇竜ビワントの首を断ち切った。
この離震月牙刃もパワーアップしたようだ。惑星シドラのピラミッドで鍛えられた精神が影響しているのだろう。
「マスター、巨大なモンスターが近付いているわ」
スクルドからの連絡に顔をしかめた。急いで白蛇竜ビワントの死骸を回収すると、ベースキャンプに戻り始める。すると、いつも霧で充満している一階部分の空間から霧が消え始めた。
「スクルド、何が起きているんだ?」
「巨大モンスターが、膨大な熱を発しているのよ。そのせいで気温が上昇し、霧が晴れ始めているんだわ」
赤い光が見えてきた。それは全長が百八十メートルほどもある巨大フクロウのような鳥型巨大モンスターだった。急いで降下すると地面に着地し、モンスターに発見される確率を高める魔導翼を解除する。
「そいつは『灼炎アウロン』よ。近付いただけで焼け死ぬわ」
その巨大モンスターは全身から炎を放っており、不死鳥のように見える。但し、顔がフクロウのように大きかった。顔さえ小さければフェニックスと呼べたかもしれない。
私は呆然と地面に立って灼炎アウロンを見上げていた。そこに白蛇竜ビワントの群れが飛んできた。灼炎アウロンと遭遇した白蛇竜ビワントたちは、編隊を組んで巨大フクロウに襲い掛かると、次々に凍矢弾を撃ち出す。
灼炎アウロンの巨体に凍矢弾が突き刺さり、そこの部分だけ炎が消えて黒い羽根が現れた。その直後、灼炎アウロンが痛みで凄まじい叫び声を上げた。
その叫び声には強いエネルギーが込められており、身体が震え耳が痛くなる。強化アーマーを着装していても、それほどの衝撃があったのだ。何の防備もなく叫び声を浴びたら、確実に死んでいただろう。
同じ叫び声を浴びた白蛇竜ビワントたちは、動きがおかしくなった。ふらふらという感じで飛び始めたのだ。その様子を目にした灼炎アウロンは、白蛇竜ビワントに襲い掛かる。そして、鋭く巨大なクチバシで胴体を噛みちぎって仕留めると呑み込んだ。
「うわっ、丸呑みかよ」
灼炎アウロンに殺された白蛇竜ビワントの死骸を回収しようと考えていたのだが、この様子だとダメなようだ。それからも灼炎アウロンと白蛇竜ビワントの戦いが続いた。
白蛇竜ビワントの凍矢弾が何発も灼炎アウロンに撃ち込まれ、そこの炎が消えて炎のモンスターが斑模様になっていく。
その戦いの様子は強化アーマーに組み込まれているカメラで撮影し、スクルドに送った。その映像を見ていたスクルドが、話し掛けてきた。
「灼炎アウロンは、炎が全て消えると死ぬそうよ」
白蛇竜ビワントが一方的にやられているだけじゃないようだ。もう少し白蛇竜ビワントの数が多ければ、負けるのは灼炎アウロンだったかもしれない。
「今回は、灼炎アウロンが勝ちそうだ。どうしたらいいと思う?」
「チャンスなんだから、離震レーザーで灼炎アウロンを倒すべきよ」
白蛇竜ビワントの攻撃で弱っている今なら、灼炎アウロンを倒せるとスクルドは判断したようだ。
「こいつの龍珠は何に使える?」
「灼炎アウロンは、大きな紫色の龍珠を持っているそうよ。そいつで高性能な異層ストレージが作れるわ」
スクルドの話では全長四百メートルの装甲クラーケンが収納できるほどの容量がある異層ストレージが作れるという。
スクルドと話をしている間に、白蛇竜ビワントと灼炎アウロンの戦いが終わった。白蛇竜ビワントが全滅している。灼炎アウロンも大きなダメージを負っており、動きが鈍くなっていた。
「チャンスよ」
スクルドの声が聞こえた。私は魔導翼を発動し、空中に飛び上がった。灼炎アウロンは魔導翼に使われている天震力に気付き、威嚇するように叫び声を上げた。今回は魔導装甲も展開されているので、ほとんど衝撃はない。
灼炎アウロンが高熱の炎を撒き散らしながら迫ってきた。私は同じスピードで後退しながら、離震レーザーを発動する。弱っている灼炎アウロンは、スピードが出せないようだ。だから、こちらの有利な距離で戦える。
私は灼炎アウロンの下に潜り込んで、離震レーザーの照準を胸に合わせて放った。頭を狙わないのは、このモンスターも頭に龍珠があるからだ。
離震レーザーが灼炎アウロンの胸に突き刺さり、内部で爆発が起きた。この爆発は内部の肉片や体液が高熱でプラズマ化した事による爆発だろう。離震レーザーで開けられた傷口から肉片や血が噴き出して灼炎アウロンの高度が落ちた。
私は灼炎アウロンの下から退避して急上昇すると、今度は上から離震レーザーを撃ち込む。大きなダメージを受けた灼炎アウロンがこちらに向かって大きく口を開けた。嫌な予感がしたので急旋回して退避行動を行う。
次の瞬間、灼炎アウロンの口からレーザー光のようなものが放たれ、それが魔導翼に命中した。魔導翼の魔導技が強制的に解除されて翼が消えた。
「うわーーーっ!」
当然ながら地面に向かって落下する事になった。
「落ち着いて」
スクルドの声が聞こえ、慌ててもう一度魔導翼を発動する。地面にぶつかる直前に翼が展開して急ブレーキが掛かり、魔導装甲で地面を削るようにU字形の軌道で飛んで上昇した。下を見ると魔導装甲が削った土砂が宙に舞い上がっている。
あのレーザー光は危険だと判断した私は、ふらふらしている灼炎アウロンを狙って離震レーザーを連射すると穴だらけにした。タフな灼炎アウロンでも、この攻撃には耐えきれずに地面に落下。そのまま息絶えた。
「ちょっと危ない瞬間もあったけど、見事だったわ」
スクルドの声が聞こえた。私はホッとして灼炎アウロンの巨大な死骸の近くに着地した。
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