第185話 久しぶりの休暇
デルトコロニーの総力を結集してイノーガー巡洋艦の調査を始めた。最初に巡洋艦の切り札と思われる兵器の正体を調べさせた。
その調査の中心となったのは、ミネルヴァ族のグルードである。
「グルード。あの兵器について、何か分かったか?」
「ありゃあ、重力子ビーム砲ですな。人工的に作った重力子を特殊なレーザー光を使って撃ち出す仕組みのようです」
地球の科学では、重力波を媒介する粒子を重力子と呼んでいるが、それが本当に存在するのかどうかさえ判明していない。
一方、宙域同盟の進んだ科学は、重力波を媒介する粒子を人工的に作り出す事に成功している。その重力子を兵器に応用したのが、重力子ビーム砲なのだ。
「重力子ビーム砲は、膨大なエネルギーが必要なので実用的ではない、と聞いた事がある」
「それを可能にしたのが、イノーガー巡洋艦のメイン動力炉なんです」
「核融合炉じゃないのか?」
グルードが頷いた。
「イノーガー巡洋艦は、疑似ブラックホールを使ったブラックホールエンジンを使っているようですぜ」
そのブラックホールエンジンというのは、人工的に発生させた極小ブラックホールに物質を供給し、その物質が崩壊してエネルギーに変換されるものだ。
「そのブラックホールエンジンというのは、物質の質量を全てエネルギーに変換できるのか?」
それが可能だとしたら、反物質を使った対消滅リアクターと同等規模のエネルギーが使えるという事になる。
「確かに、質量のほとんどをエネルギーに変換するんですが、疑似ブラックホールの維持に膨大なエネルギーを消費するんで、取り出した全エネルギーの六割程度しか利用できんようですな」
疑似ブラックホールの維持に掛かるエネルギーか、それは仕方ないだろう。それでも核融合炉とは段違いのエネルギーが手に入る。
デルトコロニーの科学者や技術者が徹底的に調査し、重力子ビーム砲とブラックホールエンジンの仕組みを解明した。
その他にも文明レベルBに相当する技術をいくつか手に入れた。その中には新機軸の重力制御技術もあった。
イノーガー巡洋艦の調査と並行して巨大造船ドックの調査も行う。但し、この調査はワーフォックス族と共同で行う事になっていたので、リンファルを筆頭とするワーフォックス族と一緒に巨大造船ドックを制圧する作戦を始めた。
ここには少人数のゴブリン族が居るというのが判明していた。輸送船を中心とする制圧部隊が、惑星チダータの月に近付くとゴブリン族から通信が入った。
「この施設は我々のものだ。近付く容赦じないぞ」
ゴブリン族のダミ声を聞いたリンファルが、顔をしかめているのがモニター越しに見えた。リンファルはワーフォックス族の強襲揚陸艦に搭乗しており、そのブリッジから通信しているようだ。
「ゴブリン族に告げる。ナインリングワールドのゴブリン艦隊はほぼ全滅した。降伏して巨大造船ドックを明け渡せ」
それを聞いたゴブリン族は、巨大造船ドックに備え付けてあるレーザーキャノンで攻撃してきた。二十光径ほどのレーザーキャノンだったので、強襲揚陸艦のバリアに受け止められて無効化された。
強襲揚陸艦は堂々と月に着陸し、ワーフォックス族のロボット兵が続々と巨大造船ドックに侵入する。我々が何もしないうちに巨大造船ドックはワーフォックス族により制圧された。ほとんどのゴブリン族は死んだらしい。
それから調査が始まったのだが、凄い人数のワーフォックス族が投入された。イノーガー駆逐艦はカズサの攻撃でバラバラに破壊されたので、巨大造船ドックに全力を注ぐ事にしたのだろう。
デルトコロニーでも調査団を出して調べ、それにより巨大構造物の建造ノウハウが手に入った。それらの技術情報をナインリングワールドに持ち帰ると、巨大戦艦の残骸を材料に新たなスペースコロニーの建設が計画された。
新たに建造するのは、百万人が暮らせるスペースコロニーである。これをデルトコロニーと連結して使用する予定だ。ただデルトコロニーの拡張は、これで終りとなる。
スペースコロニーを建造する計画を立てる前に、管理種族から売りに出ているスペースコロニーを購入してデルトコロニーに連結する案も出たのだが、近くで売りに出ている物件は、収容人数が三十万人ほどのコロニーしかなく、それだと宇宙港が小さかった。
第七小惑星帯で売られているスペースコロニーを購入しようかとも考えたが、デルトコロニーの周辺にあるスペースコロニーと経済圏を築いているので、引っ越すのも難しい。
結局、新しいスペースコロニーを建造する事になり。今は総力を挙げて新ペースコロニーの建設を進めている。
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
新スペースコロニーの建造を始めて二年ほどが経過した。その間にデルトコロニーの人口が二十八万人まで増えている。
サリオの妹ソニャやレギナの弟妹であるサシャとラドルも大きくなった。ただアステリア族のパムはほとんど成長していないように見える。元々が成長が遅い種族なのだろう。
「じぇん、パルカに会いにいく」
パムが生体航宙船のパルカに会いたいというので、ビートル牧場へ行く事にした。ソニャも行くというので、私とパム、スクルド、ソニャの四人で移動する。
船幼虫たちは、この二年間で生体戦闘機にまで成長した。以前までは昆虫のような外見だったが、今は戦闘機にしか見えない。ただ小惑星などに着地する時は、下部から六本の脚が出てきて着地するので生体航宙船だと分かる。
パムとソニャは、パルカとウェスタに乗って飛び回って遊んだ。十分に遊んだパムたちが戻ってきた。
「楽しかったかい?」
パムは大きく頷いた。本当に楽しかったようだ。
「ソニャは?」
「楽しかった。でも、今度は宇宙じゃなく、空を飛びたいでしゅ」
「そう言えば、長い間惑星に降りていないな」
「パムも、惑星にいく」
「そうか。それじゃあ、久しぶりに休暇を取って惑星に行こうか」
「わーい!」
その様子を見て、久しぶりに魔境惑星ボランへ行ってモンスター狩りでもしようかと考えた。
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