第186話 懐かしい魔境惑星ボラン

 現在のデルトコロニーは、新しいスペースコロニーを建造している。おおよそ六割ほどが完成しており、後一年ほどで完成する予定だ。


 もし、地球の科学でスペースコロニーを建造するなら、百年掛けても建造できないだろうが、ここはナインリングワールドである。二十万体の製造ロボットを導入して建造を進めているので、三年で建設できる。


「ロード・ゼン、長い休暇を取られるそうですね」

 青鱗族の代表であるビジェが声を掛けてきた。

「ああ、留守の間はよろしく頼む」

「お任せください」


 トカゲ人間である青鱗族の外見は怖いが、その心は穏やかで優しい種族である。農業コロニーは彼らに任せる事になるが、大丈夫だろう。


「何か、ご指示はありますか?」

「新スペースコロニーの食糧供給計画を、立ててくれ。米の栽培計画も含めてだ」

 この二年間で様々な発見があった。その一つが米の発見である。日本米に近い作物が存在するという情報を見付け、その種籾を輸入したのだ。


 かなり遠くから輸入したので、輸送するだけで五千万クレビットほどが必要だった。これで米が食べられるようになるのだ。五千万クレビットくらい安いものだと思っている。


「分かりました。休暇を楽しんでください」

「ありがとう」

 ロードとしての仕事は、コロニー運営メンバーに任せる事にした。この二年間に様々な専門家をコロニー運営メンバーに加えたので、人数が二十三人に増えている。


 戦争などが起こらない限り、コロニー運営メンバーに任せれば対処できるだろう。それにデルトコロニーは小さなコロニーなのに、過剰なほどの戦力がある。なので、戦争を仕掛けてこれるような種族は限られている。


 私とパム、それにサリオとレギナとその家族は、もはや一つの家族と言って良いほどのきずなで結ばれている。その全員が屠龍戦闘艦カズサに乗って出発した。もちろん、スクルドと生体戦闘機になったウェスタたちも一緒である。


 ナインリングワールドの外縁部まで飛んだカズサは、そこで遷時空スペースに遷移した。ここから魔境惑星ボランがあるチラティア星系まで移動するのに五日が必要だ。


 最初にチラティア星系からナインリングワールドへ来た時は七日ほど必要だったが、カズサに搭載しているルオンドライブが高性能なので五日に短縮された。


 通常空間に戻ってから第五惑星のボランまで行くと、宇宙エレベーターと直結している巨大な宇宙港が見えてきた。その宇宙港に停泊すると惑星に降りる準備を始める。


 宇宙港で様々な検査を受け、大丈夫と分かると惑星ボランに降りる事が許された。今回は宇宙エレベーターで降りずに、カズサに乗って地上の宇宙港に着陸する事にした。


 カズサで惑星ボランの地上へ降下していると、パムがモニターに映る地上の様子をジッと見ていた。

「パム、惑星が珍しいみたいね」

 その様子に気付いたスクルドが近付いて言った。

「ふしぎ……」

 パムにとって、惑星は謎の存在のようだ。


 地上の宇宙港に着陸したカズサで生活しながら、モンスター狩りをする事になった。子供たちは惑星ボランでの暮らしを楽しむ事になる。


 惑星ボランにはモンスターが棲み着いておらず、自然を楽しめる場所もある。そういう場所で子供たちが自然を学べるはずだ。特にパムは以前の記憶を失っているので、惑星での生活は初めてだった。


 最初の数日は、皆で観光して回った。前回惑星ボランで生活していた時は、狩りばかりしていたのでほとんど観光地を見ていなかった。


 惑星ボランには、ナイアガラの滝みたいな雄大な滝やモリス高原と呼ばれる惑星ボランの原生種しか存在しない場所もあり、それらを観光して回るのは楽しかった。


「ゼン、これから何を狩るんだ?」

 レギナが尋ねた。

「まず南のシスカ草原で、暴走ボアを狩ってボアステーキを食べたい」

 それを聞いたレギナが笑う。

「それはいい。あたしもボアステーキが食べたくなったよ」


「ねえ、ボアステーキというのは、美味しいのでしゅか?」

 ソニャが質問してきた。

「食べた事がなかったか。もちろん美味しい。今度一緒に食べよう」

「パムも」


 それから準備すると、レギナと一緒に南のシスカ草原に向かった。

「本当に久しぶりだ」

 レギナがシスカ草原を懐かしそうに見回す。見覚えのある雑草が生い茂る草原と遠くに森が見えた。十分に懐かしんでから、戦いの勘を取り戻すために殺人スパイダーや装甲ドッグと戦い。暴走ボアを探した。


 草原を走り回ってモンスターと戦っていると、段々と戦いの勘を取り戻してきた。宇宙空間ではモンスターと戦っていたのだが、やはり重力のある惑星上で戦う感覚を取り戻すには、時間が必要だった。


「おっ、ステーキ発見」

 前方に暴走ボアが現れた。最初の頃は必死だったなと思い出しながら、粒子貫通弾の一撃で倒す。魔導師としてのレベルが上ったので、粒子貫通弾など簡単だ。倒した暴走ボアは異層ブレスレットに仕舞う。


 レギナも殺人スパイダーや装甲ドッグと戦い、もう一匹の暴走ボアを倒した。

「段々と思い出してきた。やはり地上の狩りはいい」

 晴れ晴れとした顔をしたレギナが言う。私も同感だ。


「ところで、北西のギルダ峡谷について調べたら、母王スパイダーが復活しているのが分かった」

 レギナが頷く。

「なるほど、もう一度母王スパイダーを倒し、天神族が残した秘宝を手にれようと言うのだな」


「そこで問題になるのが、一度倒して秘宝を手に入れた者が、もう一度手に入れられるか、という点だ」

「それは大丈夫じゃないか」

 レギナは大丈夫だというが、まだ二度目の秘宝を手に入れた者が居るという情報はない。


「そこで、二人で母王スパイダーを倒そう」

「なるほど。二度目がダメだった時、あたしだけでも秘宝を手に入れようという事だな」

「二人で倒して、二つの秘宝を手に入れた事例があるので、それで大丈夫だろう」

「了解。明日は母王スパイダーの狩りに行こう」


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