第187話 再びの母王スパイダー戦
暴走ボアを二匹狩った私とレギナは、街に戻って屠龍猟兵ギルドへ行った。そこの買取部にある解体マシンで暴走ボアを解体し、ステーキにする部位だけを持ち帰る事にした。残りは全部売却する。
暴走ボアの肉をカズサに持ち帰った我々は、パムたちにボアステーキを振る舞った。スラ肉も美味しいが、暴走ボアの肉は独特の香りがあり、それが美味しかった。
スクルドはパムのためにステーキを一口大に切ってあげている。パムは鳥の
初めてボアステーキを食べたソニャが目を丸くする。
「これ、肉の超新星爆発でしゅ」
意味は分からないが、美味しいと言っているのだろう。
「むむ、超新星爆発」
猫耳のサーシャとラドルもソニャの言葉を繰り返しながら満面の笑顔で食べている。
ボアステーキを堪能した私は、ギルダ峡谷で復活した母王スパイダーの事を調べた。母王スパイダーがいつ復活したのか、正確な日付は分からない。ただ一年ほど前から目撃されるようになったようだ。
「母王スパイダーに挑戦する屠龍猟兵は、居なかったのだろうか?」
レギナの疑問を口にした。
「挑戦した者は居た。だけど、失敗して逃げ帰ったみたいだ」
屠龍猟兵ギルドにあった情報を伝える。
「レギナが母王スパイダーを仕留めるとしたら、武器は何を使う?」
「そうね。新しく開発されたクリムゾンレーザー銃が、いいかな」
レギナは少し女性らしい言い方をした。長い間屠龍猟兵として生きてきたレギナは、他の屠龍猟兵に舐められないように男のような言葉遣いをしていたが、デルトコロニーで同じ女性たちと付き合っているうちに、言葉遣いが少し柔らかくなった。
但し、戦争やモンスター狩りをしている時は、元の言葉遣いに戻る事があるようだ。
「クリムゾンレーザー銃か。あれはデカくて重いのが、難点だけど」
ミネルヴァ族がレギナの要望に答えて開発したクリムゾンレーザー銃は、バズーカ砲ほどの大きさがあり、肩に担いで使う形式である。
重い垓力バッテリーが必要なので、クリムゾンレーザー銃は重く大きくなった。なので、レギナが機動甲冑を着装している時でなければ使えない。
レギナは元々『高機動型フランセスⅡ』という武装機動甲冑を使用していたが、デルトコロニーの軍が開発した機動甲冑に替えたようだ。MM型機動甲冑と同じでマイクロマシンの技術を応用したものである。
普段は小型アタッシュケースのようなパックケースを背負っているような感じだが、着装するとパックケースからマイクロマシンが全身に広がり、機動甲冑になる。これをレギナたちは『強化アーマー』と呼んでいる。
この軍用機動甲冑である強化アーマーは、使用者のパワーを二十倍ほどに強化する。武器は長い柄が付いた大刀型ディコムソードと大口径スペース機関銃が標準装備で、レギナだけは特別にクリムゾンレーザー銃も装備していた。
「天神族は、なぜ秘宝を残したんだろう?」
至るところに天神族の技術や知識が残っている。それを考えると頭に浮かぶ疑問だった。
「彼らも自分たちが永遠の存在ではない、と考えているのかも」
永遠の存在じゃないから、何かを残したいと思ったのではないか。そうレギナは考えているようだ。
「我々も、何かを残さないとダメなのだろうか?」
「あたしたちには、デルトコロニーがある」
私が後世に残すものがデルトコロニー? ちょっとピンと来ない。長命化処置を受けたので、後二百数十年の人生がある。その間、ずっとデルトコロニーを守り続けて生きるのか? それも違うような気がする。
「そう言えば、故郷の星を探しているんじゃなかったのか?」
「ああ、地球を発見したら、一度は帰るつもりだけど……すぐに宇宙に戻る事になるだろう」
日本に戻ってもう一度『
「まあいい。まず母王スパイダーを倒そう」
翌日、私とレギナはホバーバイクに乗ってギルダ峡谷へ飛んだ、前回と同じように、途中までホバーバイクで行き、糸を飛ばして攻撃してくる投網スパイダーが居る地域に近付いたので、地上に下りて歩く。
途中で人食いスパイダーと遭遇したが、レギナのディコムソードと私の粒子貫通弾で倒した。そして、母王スパイダーが巣にしている滝がある場所へ到着した。
私は魔導装甲を展開し、レギナは強化アーマーを着装する。大量の水が流れ落ちる滝を見ながら、天震力を滝に向かって放った。天震力の風が滝に向かって進み、滝の裏まで届く。その瞬間、滝の裏から母王スパイダーが飛び出してきた。
「やっぱり居たんだ」
レギナはクリムゾンレーザー銃を取り出した。私は走り出すと母王スパイダーの左側に回り込む。そして、天震力を圧縮すると三日月型の刃にして放った。
母王スパイダーが後ろに跳んで離震月牙刃を躱そうとする。天震力の刃は母王スパイダーの足一本を斬り飛ばして空に消えた。
母王スパイダーが何かを擦り合わせるような叫びを上げる。それが私の頭を痛めつけた。次の瞬間、母王スパイダーが跳躍して私に襲い掛かった。
その母王スパイダーにレギナがクリムゾンレーザーを放った。それが母王スパイダーの胴体を撃ち抜く。その痛みで苦しむ母王スパイダーが、全長二十メートルもある巨体で地面を転がりながら私とレギナを撥ね飛ばす。
苦し紛れの攻撃だったので、魔導装甲と強化アーマーが衝撃を受け止めた。レギナは少しだけ飛ばされたが、足から着地する。
私は魔導装甲が完全に受け止めたので、ダメージはゼロだ。母王スパイダーが転がるのをやめて立ち上がった瞬間、強化粒子貫通弾を撃ち込む。それが母王スパイダーの胸を撃ち抜いた。
その直後に母王スパイダーの動きが止まる。それをチャンスだと思ったレギナが、クリムゾンレーザーで母王スパイダーの頭を撃ち抜いた。
それがトドメとなって母王スパイダーは死んだ。
「レギナ、怪我はないか?」
母王スパイダーに撥ね飛ばされたので、心配して声を掛けた。
「大丈夫。この強化アーマーは優秀みたい」
それから母王スパイダーの死骸から龍珠を取り出し、残りは異層ブレスレットに仕舞う。手に入れた白龍珠は換金すると二百億クレビットになったはずだ。だが、これを加工したものがエネルギー吸収バリアの主要部品になったはずなので、売らずに加工する事にした。
レギナが深呼吸し、ワクワクしているような顔になる。
「さあ、秘宝を確かめるよ」
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