第20話 爪撃ラプトル

 粒子円翔刃の飛翔速度を音速の五倍まで上げる。マッハ5で飛んだ粒子円翔刃は、直径二メートルほどの岩を切断し、背後にある岩に食い込んで止まった。


「おっ、いいね。これで音速の十倍まで速度を上げると、どうなるんだ?」

 威力としてはマッハ5で十分なのだが、試しに音速の十倍まで上げてみる。先ほどの二倍まで速度が上がった粒子円翔刃が、岩に食い込んだ瞬間に爆発した。


 ヤバイと思い地面に身を伏せて両腕で頭をかばう。爆風が通り過ぎた後、頭を上げると周囲が酷い事になっていた。岩の近くにあった木々がへし折れている。


 私は溜息を漏らして、立ち上がった。

「酷い目にあった。マッハ5でやめとくかな」

 妥協しようかと思ったが、考え直して実験を続けた。そして、マッハ7なら爆発しない事が判明した。


「攻撃手段は手に入れたが、相手の攻撃を受ける事もあるだろうから、防御も必要だな」

 今まで防御を考えていなかったのが、ちょっと怖くなった。惑星情報ネットを調べたら、防御方法とかの情報もあると思うのだが、惑星情報ネットは内容が膨大で調べるのに時間が掛かりすぎる。


 惑星情報ネットだけではない。リカゲル天神族のゾロフィエーヌから与えられた『文明レベルCの一般常識』と『天震力駆動工学』も、その一つ一つに膨大な情報が含まれており、それを理解するには何年、何十年という時間が必要だろう。


 そんな時間を掛ける訳にはいかないのだけどと思い、サリオに相談した事がある。サリオによれば、解決するには『情報支援バトラー』というものを購入して使えば良いという話だった。


 情報支援バトラーという製品は、脳内の膨大な知識や惑星情報ネットの情報を整理し、効率的に調査できるようにする機能があるらしい。ただ情報支援バトラーは医学が発達した星にしかなく、惑星ボランでは購入できない。


 魔導師基本講座に何か有益な情報がないかと調べた。すると、魔導師の防御として『粒子装甲』という防御方法があると分かった。これはボソル粒子で身体を覆い、天震力で強化する事で強固な防御手段とするというものだ。


 天震力はボソル粒子の塊を鋼鉄のように頑強にしたり、ゴムのように弾力のあるものにできる。自由度が高いので、『粒子装甲』は種族ごとにデザインや構造を変えるのだという。


 中には自分独自の粒子装甲を考案する魔導師も居るらしい。魔導師基本講座には詳しい事までは記載されていなかったので、ネットを探して『ヒューマン用標準型粒子装甲』というものを見付け、それを参考に自分用の粒子装甲を構築する事にした。


 この標準型粒子装甲というのは、パワードスーツとは違う。筋力をアシストする機能はなく高性能な鎧というものである。


 ゲストタワーの自分の部屋で、ネットから仕入れた情報を基に粒子装甲を構築する。まず全身をボソル粒子で包み、天震力を使って最初に頑強にする部分を加工する。


 ボソル粒子は天震力を継手として結合する事ができる。その組み方により硬くも柔らかくもなる。今回は硬く頑丈になるように組み上げる。


 次に関節部分を頑丈だが、弾力があるように加工する。重さはあまり感じないが、動き難かった。それで時間を掛けて調整する。満足できる粒子装甲が完成したのは、三日後だった。


 それから粒子装甲を意識せずに維持する訓練を行い、三時間ほど維持できるようになった。


 その日、粒子装甲が使えるか、試しに狩りに行く事にした。屠龍猟兵ギルドへ寄ってギルドに所属する輸送担当を呼ぶ通信端末を借りてから、黒い森ベルバへ向かう。


 ベルバは巨木の森だった。かしの木に似ている巨木が密集しており、その木の下は薄暗い場所となっている。屠龍猟兵たちは、ホバーバイクを使って木の上を飛んで狩り場に直行し、狙った獲物を狩るという。


 その巨木の下には三メートルもある巨大なキノコや大きなシダ類が生い茂っており、モンスターの餌となっているようだ。


 この森の獲物は多く、暴竜ベルゴナ以外にも恐竜型のモンスターが居る。今回は森の外縁部に棲み着いてる独角サウルスを狩ろうと思っている。


 独角サウルスは頭にある角で体当りするように攻撃してくるらしい。そして、屠龍猟兵が狙っている部位は、その角だそうだ。その角は薬の材料となる貴重なもので、屠龍猟兵ギルドで換金しても百二十万クレビットになるという。


 森の入り口で粒子装甲を着装した。まだ違和感があるが、ちょっとずつ調整していけば身体にぴったりの粒子装甲になるはずだ。


 この粒子装甲は透明なものなので、基本的には見えない。但し、ボソル感応力を持つ者が見ると、黄色の光をまとっているように見える。


 狙っていたのは独角サウルスだったのだが、遭遇したのは爪撃ラプトルと呼ばれる体長百五十センチほどの素早い動きをする恐竜型モンスターだった。


 二足歩行で鶏のように動く爪撃ラプトルは、鋭い爪を持っていた。カミソリのような切れ味を持つ爪は、屠龍猟兵にとって脅威らしい。


 とは言え、全身を粒子装甲で防御しているので、脅威になるとは思っていない。ただ数が多いと厄介である。その時も五匹の爪撃ラプトルに囲まれてしまった。


 爪撃ラプトルは胸の前に鋭い爪を構え、素早く私の周囲を回っている。こいつらは集団で狩りをするのが得意らしい。


 一匹が飛び掛かってきて爪を私の胸に突き立てようとした。それが粒子装甲に当って弾かれる。粒子装甲の防御力がどれほどのものなのか、実際には分からない。


 惑星情報ネットで調べた標準型の粒子装甲は、脅威度3の惑星モンスターの通常攻撃までなら受け止められると書かれていた。但し、同じ脅威度3でも宇宙モンスターの攻撃はダメらしい。惑星上に棲み着いているモンスターより、宇宙モンスターの方が強力だという事だ。


 爪撃ラプトルや独角サウルスは、脅威度1の惑星モンスターなので、その攻撃は粒子装甲で受け止められる。


 四方を囲まれた私は、粒子貫通弾を爪撃ラプトルに向けて放った。一撃で爪撃ラプトルの胸を貫通した粒子貫通弾は、背後の木の幹に命中して穴を開けた。


 そいつが倒れた隙間から逃げ出すと、残り四匹が追ってくる。

「しつこいな」

 粒子装甲が有効だったので、割と余裕を持って戦えた。逃げながら追ってくる爪撃ラプトルに粒子貫通弾を放ち、一匹ずつ仕留める。


 最後の一匹を倒した時、へとへとになっていた。ゴブリン族の宇宙船でオーク型ロボットを相手に鍛えたけど、そんな程度じゃ老化による衰えは誤魔化せない。身体を鍛えようかな。


 爪撃ラプトルから爪を剥ぎ取った。この爪は特殊電池で使う触媒に使われるらしい。これを換金すると二万クレビットくらいになるようだ。ちなみに、爪撃ラプトルの肉や皮はあまり価値がない。特に肉は不味いそうだ。


 爪を回収するのに少し時間が掛かった。終わった後に、また黒い森ベルバの外縁を歩き始める。すると、目的の独角サウルスと遭遇した。


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