第19話 暴竜ベルゴナの龍珠
サリオが魔境惑星ボランから旅立った後も、私はモンスター狩りを続けた。ただ一人になって寂しくなり、地球を思い出す事が多くなった。
「地球に帰りたいが、地球がどこにあるのか、分からないからな」
太陽系がある位置なんて記憶していない。位置が分からなければ帰れない。太陽系の惑星の種類とかで、惑星情報ネットの恒星データを検索するという事もできたが、同じ条件の恒星が数百個も見付かった。
地球を探すのを諦め、狩りに行くという日々が続いた。その日もシスカ草原で暴走ボアを仕留めて帰って来ると、買取部の責任者であるヴェゼッタから、センター長のところへ行くように言われた。
暴走ボアを換金してから、センター長室へ行く。部屋に入ると、ワーキャット族の中年男性がデカい机で仕事をしていた。センター長はワーキャット族の男性でムジーカ・デッセロという名前らしい。
「ゼン・ジングウジです。何かありましたか?」
猫の眼でジッと観察した後、センター長が椅子に座るように言う。
「君の実績を確認しました。その結果、シスカ草原以外でも十分に狩りができると判断しました。ランクFに昇格です」
ランクが上がったので、ゲストタワーの上の階へ引っ越す事になった。新しいカードキーを二枚渡された。引っ越しが終わったら、古いカードキーは返す事になる。
「ありがとうございます」
この時は知らなかったが、屠龍猟兵ギルドに登録してから、三ヶ月以内に昇格するのは珍しいらしい。普通は一年ほどシスカ草原で狩りを続け、早い者でも半年ほどはランクGで頑張るという。
私が例外的に早かったのだが、それはランクGでは倒すのが難しいと言われている暴走ボアを立て続けに狩ってきたからだそうだ。
ランクGの魔導師というのは、比較的小型の昆虫型モンスターを倒すのが精々で、暴走ボアを一撃で倒すなどという事はできないという。
「君の『粒子撃・貫通弾』は異常にゃほど、威力があるようだが、どうしてにゃのかね?」
実績収集バッジが記録した私とモンスターの戦いの映像を見たらしい。
「普通じゃないですか。宇宙でモンスターの相手をしていた時は、これくらいの威力がないと、宇宙クリオネも倒せませんでしたよ」
その時に使っていたのは『粒子撃』だったが、『粒子撃・貫通弾』も同じようなものだろう。
「ほう、君は宇宙モンスターと戦っていたのか。道理で威力のある戦術魔導技を使うはずだ」
それを聞いた私は、意味が分からなかった。センター長に尋ねると、普通は地上でモンスターと戦って腕を上げたら宇宙に行き、宇宙モンスターと戦うらしい。
モンスターは同じ脅威度でも、宇宙モンスターの方が
私はランクFになった。その狩り場は東にある黒い森ベルバか、南東にあるキリマス山岳地帯になる。ベルバの森には、恐竜型のモンスターが棲み着いており、キリマス山岳地帯には猿人タイプのモンスターが棲み着いている。
「うーん、倒した獲物をどうやって運ぶんだろう?」
黒い森ベルバとキリマス山岳地帯は、ハントカーが走れるような道はなく、屠龍猟兵たちはホバーバイクで飛び回っているらしい。なので、獲物をどうやって運ぶのか不思議に思った。
惑星情報ネットで調べてみると、面白い事が分かった。多くの屠龍猟兵は、ギルドに所属する輸送担当を呼んで運ばせるらしい。でも、その輸送代が高いようだ。
その他にもう一つの方法があり、それは地球人の私にとっては予想もしないものだった。ベルバの森に棲み着いている脅威度3の暴竜ベルゴナを倒して、その龍珠を手に入れて加工すれば『異層ストレージ』と呼ばれる装置を作れるらしい。
異層ストレージは、異次元空間に収納スペースを確保し、品物の出し入れを可能にする装置だ。但し、暴竜ベルゴナ程度の龍珠で作れる異層ストレージは、『異層ボックス』と呼ばれるもので、入れられる容量が縦・横・高さがそれぞれ二十メートルほどの空間と同じだという。
もちろん、五百万クレビットの製作費が掛かるが、作製する価値は十分にある。但し、暴竜ベルゴナを倒せる実力があればの話だ。
暴竜ベルゴナは、全長十五メートルの巨大な二足歩行の恐竜のような化け物らしい。暴竜ベルゴナの龍珠は胸の中心にあるようなので、そこを破壊しないように仕留める必要がある。
全長十五メートルの化け物か。『粒子撃』で倒せるか……いや、『粒子撃』だと爆発で龍珠が壊れるかもしれないな。頭の中で考えながらゲストタワーの部屋に戻る。
スマートグラスで惑星情報ネットを検索し、異層ストレージについて調べた。便利なアイテムなので需要は高く、購入するとなると最低でも数十億のクレビットが必要なようだ。
クレビットと日本円の価値が等しいなら、数十億クレビットというのは安すぎる気がする。但し、それは地球の価値観で考えているからだろう。異層ストレージは高価ではあるが、宙域同盟では珍しいものではないのだ。
欲しいな。私は暴竜ベルゴナを倒して龍珠を手に入れようと考えた。バラバラにして良いなら、倒せると思うけど、それじゃあ龍珠も壊れてしまう。
何か良い方法はないかと惑星情報ネットを調べた。すると、魔導師基本講座というサイトがあり、そこで魔導師の基本となる技術を紹介していた。
その中で『粒子撃』や『粒子撃・貫通弾』も紹介しており、その二つは魔導師三大基本の中の二つだという事が分かった。
三大なので残りの一つを調べると、ボソル粒子をチャクラムに似たリング状の刃物のような形状にして飛ばすという技だった。『粒子撃・円翔刃』と呼ばれているようだ。
翌日、私はシスカ草原へ行って、新しい戦術魔導技を試してみた。ボソル粒子をリング状にしたものを高速で飛翔させると飛翔軌道が安定しない事が分かった。そこで回転させる事にする。すると、ジャイロ効果なのか分からないが、軌道が安定した。
私は何度も何度も練習し、『粒子円翔刃』と呼ぶリング状の輪を正確に飛ばす事ができるコツを掴んだ。命中精度が上がったので、少しずつ飛翔速度を上げる。まずは音速まで加速する。小型航宙船を加速させるほどのパワーを持つ天震力なので、簡単なものだ。
音速にまで加速した粒子円翔刃は、直径五十センチほどの木を真っ二つに切り倒した。
これなら暴竜ベルゴナを切れるか? いや暴竜ベルゴナは岩のように頑丈だと、惑星情報ネットで探した情報に書かれていた。
試しに直径二メートルほどの岩に向かって粒子円翔刃を放つと、三十センチほど岩を切り裂いて消えた。ダメか、速度を上げてみよう。
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