第18話 サリオの旅

 僕はサリオ・バラケル、文明レベルEのコラド星の第四惑星ジルタで生まれた。一般的な家庭で育ち、将来は航宙船のパイロットになりたいと思っていたクーシー族である。


 しかし、運悪く乗っていた航宙船が海賊に襲われて捕まってしまう。金持ちの子供ではなかった僕は、下級民マーケットに売られ、ゴブリン族の軍に買われた。


 それ以降はゴブリン族からこき使われる毎日を過ごした。だが、ゼンという地球人と知り合い、ゴブリン族から逃げ出す事ができた。ただ故郷のコラド星に帰るには、莫大な金か長距離の超光速航行ができる航宙船が必要だった。


 僕とゼンは小型航宙船を手に入れたが、性能の問題でコラド星まで行く事はできない。そこで惑星間輸送業を始め、金を貯めてからコラド星へ帰ろうと計画している。


 その輸送業を始める準備をしている時に、あるニュースが入ってきた。ゲストタワーの部屋でスマートグラスを使って輸送業を始める申請書を作成していると、コラド星という単語が目に入った。コラド星で戦争が起きたというニュースだ。


「どういう事?」

 コラド星を検索して調べると、コラド星とゴブリン族のゴヌヴァ帝国が戦争状態になったというニュースだった。


 そんな……惑星ジルタはどうなった? 家族は大丈夫なのか? それから徹底的に調べたが、故郷である惑星ジルタがどうなったか分からない。


 心だけが焦ってジッとしていられなくなった。立ち上がると部屋の中を行ったり来たりし始める。そして、すぐにでもコラド星へ戻りたいという気持ちになった。


「どうしたらいいのだろう?」

 コラド星までの二百七十光年を旅するとなると、二億クレビットほどの旅費が必要になる。そんな金はないので、何かを売って旅費を用意するしかなかった。


 僕が売れるものと言ったら、小型航宙船くらいしかない。でも、あれはゼンのものでもある。頭の中にある知識を売れないかと考えたが、難しいと気付いた。


 そういう知識を売るマーケットがある星は、少し遠いのだ。そうなると小型航宙船を売るしかない。頭の中がぐるぐるしてきた時、ゼンが帰ってきた。


 僕の顔を見たゼンが、変だと気付いたようだ。

「サリオ、何かあったのか?」

 僕はコラド星で起きている事をゼンに話した。

「もしかして、コラド星に戻りたいのかい?」

「そうだけど、旅費がないでしゅ。二億クレビットくらい必要なのでしゅ」


 ゼンは少し考えてから、一つの提案をした。

「小型航宙船を売ろう」

「いいのでしゅか。売ったら、二度と手に入らないかもしれませんよ」

「手に入らないのは、遷時空跳躍フィールド発生装置とルオンドライブだろ。それだけ取り外して売ればいい」


 なるほどと納得した。小型航宙船は文明レベルCのアヌビス族が建造した惑星間航宙船だが、数十億クレビットも出せば買える航宙船である。


 僕はすぐに小型航宙船を売りに出した。小型航宙船に積んでいた遷時空跳躍フィールド発生装置とルオンドライブは整備ロボットと一緒に、借りた倉庫に保管する事にした。


 小型航宙船は売り急いだせいで、安く買い叩かれ十億クレビットほどで売れた。僕はその半額をゼンに渡そうとしたが、ゼンが断った。


「コラド星へ行った後、家族を見付けて避難しなきゃならないだろう。それにここに帰ろうと思ったら、大金が必要になる。私はここで稼ぐから、その金は全部サリオが使ってくれ」


 そう言われて涙が出そうになる。

「ありがとう」

「礼なんかいいよ。それより遷時空跳躍フィールド発生装置とルオンドライブを預かっているのが、私だという事を忘れるなよ。あれは小型航宙船なんかより、ずっと高価なんだからな。必ず戻って来い」


 僕はゼンと別れてコラド星への旅に出た。もちろん、コラド星行きという船はないので、複数の船を乗り継いでコラド星へ向かう。


 そして、五ヶ月の時間を掛け、コラド星の一歩手前のタリタル星外縁部に到着した。そこからタリタル星の第二惑星ロドアに時間を掛けて行き、ファラウ宇宙港に降り立った。


 ここまでの旅でクーシー族の多くがロドアに避難したと聞いており、ここで情報を集めようと僕は考えていた。


 ロドアはカーシー族が支配する惑星である。カーシー族というのは、数千年前にクーシー族と分かれて発展した種族だ。外見はクーシー族と同じで、文明レベルも同じだ。


 宇宙港の近くで情報を集めると、惑星ジルタからの避難民がロドアのダリア島で生活しているという情報を得た。そこでサリオはダリア島に向かう。


 タリタル星政府は大量の難民を受け入れたくなかったようだ。ただクーシー族とカーシー族が結婚するという事は珍しい事ではないので、ロドアで暮らしている者の中にもクーシー族が居る。その人々が難民の受け入れを政府に要請したらしい。


 そこで未開発の無人島だったダリア島を、一時的に避難民の居住地として開放した。クーシー族が自分で開拓して生活できるようにしろ、という訳である。


 クーシー族は戦火を逃れて避難したので、それほど資金を持っていない。そういう状況なので、やっと生活するだけの基盤を整備するのが精一杯だった。


 小さな島に一千万人ほどのクーシー族が暮らすのは大変な事である。僕はダリア島に到着すると家族を探した。ちなみに、僕の家族は両親と兄と妹の五人家族だった。


 ダリア島には無数とも思われる仮設住宅が建っていた。その小さな住宅でクーシー族の家族が暮らしている。


 惑星情報ネットで家族の名前を検索したが、ヒットしなかった。そこでダリア島の仮設の役所みたいなところに行って家族の安否を確かめる方法がないか尋ねた。


 男性職員が対応してくれた。

「オリンサラ州に住んでおられたバラケル御一家でしゅね。独自のリストがありましゅので、検索しましゅ。……分かりました。ソニャさんがダリア島に居られるようでしゅ」


 僕は身分証を見せて兄である事を証明し、ソニャの住所を教えてもらった。その住所へ行くと、見覚えのある少女が疲れたような顔で道をこちらに歩いて来る姿が目に入る。


「ソニャ」

 その少女が僕を見て首を傾げる。

「僕でしゅよ。サリオでしゅ」

 ソニャが大きく目を見開いて駆け出した。そして、僕に飛び付くと泣き出した。僕が居なくなってから数年経つが、ソニャは覚えていた。

「サリオ兄……」


 泣きやむのを待って事情を聞いてみる。戦争が始まった時、ソニャは学校に居たらしい。ゴブリン族が惑星ジルタを攻撃する中、学校は生徒たちを宇宙港へ送り、惑星ロドアへ避難させたそうだ。そのせいで家族とは離れ離れになったが、ソニャだけは生き残ったという。


 両親と兄が居た地域は、ゴブリン族の最初の奇襲で壊滅状態になったようだ。両親と兄はたぶん死んだのだろう。僕の心にゴブリン族へ憎しみが湧き起こった。


「サリオ兄、これからどうしゅるの?」

 ソニャは孤児院みたいなところで生活している。そこは家族が見付かるまでの一時的な預かり施設で、家族が見付かったら出て行かなければならない。


 僕は考えた末に一度チラティア星に戻る事を考えた。ゼンと相談して決めようと思ったのである。

「一緒にチラティア星へ行こう。そこには兄さんの友達が居るんだよ」


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