第17話 ハントカー

 私が爆発音を立てたからだろう。モンスターが近付いて来た。装甲ドッグと呼ばれる体長二メートルほどの装甲をまとった犬だ。


 その皮膚は見た目がさいの皮膚に似ており、三センチ以上の厚みがあるらしい。普通の銃弾では貫通できず、炸裂弾でないと致命傷を与えられないという。防御力が高い上に自己治癒能力も高いのだ。


 私はパワー導管に繋がる制御門を開放レベルTだけ開き、流れ込んでくるボソル粒子をライフル弾形に形成し、天震力で加速する事で飛ばす。その粒子貫通弾は、装甲ドッグの肩に命中すると貫通して背中から抜けた。


 装甲ドッグが衝撃で弾き飛ばされ、地面に横たわる。それでも死んではおらず、トドメを刺すためにもう一発粒子貫通弾を発射した。頭を撃ち抜かれた装甲ドッグは死んだ。


「仕留めたのはいいけど、持って帰れないから、換金できないんだよな」

 装甲ドッグは皮と肉に価値があるらしい。つまり肉が食えるのだ。


 仕方ないので戻る事にする。このまま狩りを続けても無駄だと分かったからだ。一時間掛けて戻り、サリオに事情を話した。


「そうでしゅか。ハントカーが必要なのでしゅね」

 二人で話し合い、免許を取得してハントカーをレンタルする事にした。私は五日で免許を取り、ハントカーで狩りに出掛けた。


 ちなみにハントカーは、ロボットカーのようなものでハンドルが付いているが、人間が操作せずに目的地を入力すれば到着する。


 但し、狩りの場合は目的地がある訳ではないので、ハンドルを使って運転するようだ。その日、レンタルした小型レッカー車のような形のハントカーでシスカ草原へ向かった。ちなみに、この形のハントカーが一番安かった。


 ハントカーの乗り心地はかなり良かった。運転も簡単でハンドルと速度レバー、ブレーキを操作するだけだ。地球の車と違うのはアクセルペダルではなく、速度レバーだという点である。


 最初に遭遇したのは殺人スパイダーだった。遠くに居る大蜘蛛を発見してハントカーから降りると、パワー導管に繋がる制御門を開放する。


 殺人スパイダーは体長一メートルほどの大蜘蛛である。その牙には猛毒があり、近寄らせると厄介なモンスターなのだ。


 私はハントカーから降りて身構えた。すると、殺人スパイダーが凄い勢いで迫って来る。慌てて粒子貫通弾を発射。だが、殺人スパイダーがピョンと横に跳んで避ける。粒子貫通弾が見えたというのではなく、殺気を感じて避けたようだ。


 粒子貫通弾は地面に穴を開けただけで終わる。殺人スパイダーが六メートルほどまで迫っており、慌ててメイソン銃を抜いて引き金を引いた。


 炸裂弾は殺人スパイダーに命中して爆発し、私も爆風を受けて転んだ。

「うっ、腰を打った。……メイソン銃は近い距離に居るモンスターを撃つような武器じゃないな」

 武器屋に剣とか槍があったので、銃があるのに必要ないんじゃないかと思ったが、こういう場合は必要らしい。


 考えた末に、ボソル粒子を棒状にして武器にできないかと考えた。ボソル粒子を集めて棒状にするのは簡単だった。但し、それを維持するのは難しかった。


 このボソル粒子の棒を維持している間は、他の魔導戦術技を使えないようだ。困った。これじゃあ、ボソル粒子の武器は使えない。


 ハントカーに戻って、惑星情報ネットの情報を調べ始める。惑星情報ネットの中には膨大な情報が詰め込まれており、必要な情報を探すのにも時間が掛かる。


 調べた結果、ボソル粒子の棒を維持するという作業を呼吸しているのと同じように無意識でもできるようになれば、維持しながら他の魔導戦術技を使えるようになるらしい。


「そうなると、棒状の武器よりバリアのような防御がいいのかな。同時に両方使えれば……」


 仕方ない、地道に訓練しよう。今日は少しでもモンスターを倒して、実績を作ろう。私は胸に付けている実績収集バッジをチラリと見た。


 ハントカーに乗って草原を奥へと進む。時々、他の屠龍猟兵が乗るハントカーとすれ違う時もあったが、言葉を交わす事はなかった。


 一時間ほど走ったところで、今度は六本足の猪である暴走ボアに遭遇する。実物を見ると巨大だ。体長は三メートルほどで、肩までの高さが一メートル半ほどである。きっと体重は一トンを超えるに違いない。


 三十メートルほど離れている暴走ボアが、私に向かって走り出す。凄まじいプレッシャーを感じながら、粒子貫通弾を暴走ボアに向けて放った。


 粒子貫通弾は音速を超えて加速し、暴走ボアの胸を貫通して内臓に大ダメージを与える。致命傷ではなかったが、暴走ボアは口から血を流してふらふらと前進する。


 トドメを刺すために、暴走ボアの頭を狙って粒子貫通弾をもう一度放つ。今度は眼と眼の間に命中。暴走ボアが地面に倒れ、そのまま静かになった。


「ふうっ、仕留めたぞ」

 ハントカーに搭載されている電動ウインチからワイヤーを出し、仕留めた獲物にワイヤーを巻き付け荷台に引き上げる。車と違い獲物にはタイヤがないので、引き上げるのにパワーが必要だ。


 小型レッカー車のようなハントカーのパワーが並外れているのを理解した。さすが宇宙文明の車だと感じる。但し、やり方が地球と同じなので、ガッカリ感がある。


「形が小型レッカー車なのは、いまいちだよな」

 モンスターの死骸を乗せる荷台と運転席となると、必然的にこのような形になるようだ。ちなみに、荷台は冷蔵機能がある。


 暴走ボアを換金するために、私は屠龍猟兵ギルドへ行く。買取部には責任者であるワーキャット族のヴェゼッタという女性がやり方を教えてくれた。


 搬入口にモンスターの死骸を入れ、操作ディスプレイで売る部位と持ち帰る部位を指定するだけである。私は暴走ボアの死骸を搬入口に入れ、全部売る事にする。


 指定完了ボタンを押すと、暴走ボアの死骸が解体される。内臓が破壊されていたので、七十万クレビットほどになった。暴走ボアの内臓は旨いらしい。


「しかし、屠龍猟兵ににゃったばかりにゃんでしょ、凄いわね」

 ヴェゼッタが驚いていた。普通はもっと小物を狙うらしい。シスカ草原には、大きなネズミのようなモンスターや昆虫型のモンスターが居るそうだ。


 但し、そういう小型のモンスターは安いという。ヴェゼッタが端末を操作して、暴走ボアの傷を調べた。

「二撃で仕留めているのね。何を使って仕留めたの?」

「『粒子撃・貫通弾』です」


「へえー、魔導師にゃのね。でも、粒子貫通弾はもっと威力が弱かった気がするけど?」

「粒子貫通弾は、使う天震力の量によって威力が変わりますから、その調整が上手くできていないんです」


 ヴェゼッタは納得したという感じで頷いた。

「優秀な屠龍猟兵ににゃりそうね。でも、焦っちゃダメよ。シスカ草原で戦いに慣れてから、次の狩り場へ行った方がいいわよ」


「分かりました」


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