第16話 戦術魔導技

 魔境惑星ボランのビゼラ大陸にある屠龍猟兵ギルドの育成センターには、九つの出入り口がある。一つはエレベーター街と繋がっており、残りの八つはモンスターが棲息する地域と繋がっている。


 育成センターからエレベーター街に出て、防具や武器を売っている店に行く。膨大な品揃えのある店で、種族ごとに区分けされていた。ちなみに、エレベーター街には三百万人ほどの知的生命体が暮らしており、決して小さな町ではなかった。


 我々はヒューマン族の区画に行って、まず防具をチェックした。防刃効果がある防護服と耐衝撃ベストが一般的装備らしい。


「見てください。ドラゴンアーマーでしゅよ」

 サリオの目の前にあるガラスケースには、ドラゴンの鱗で作られたアーマーが飾られていた。値段は七千万クレビットだ。高すぎるだろう。二人の全財産を出しても買えない。


 私は一般的な防護服と耐衝撃ベストを選んだ。それから軍用ブーツも買う。それだけで二十万クレビットほどした。


「武器は何にしゅる?」

「魔導師の武器は、何だろう?」

 暇そうにしている店員に尋ねた。その店員はワーキャット族の若い男性で、なんとなくイケメンの雰囲気がある。なんとなくというのは、私にはワーキャット族の美的センスが理解できなかったからだ。


「お客さんは魔導師なんですか?」

「そうだ」

「でしたら、小型の盾とメイソン銃をお勧めします」

 メイソン銃というのは、弾頭内部に強力な炸薬が仕込まれている炸裂弾を発射する銃で、グレネードランチャーに似ているがもっと小型の銃弾を発射するものだった。


「六連発か。炸裂弾が大きいから仕方ないのか」

 もう少し多くの弾を連発できる方が良かったが、店員に聞くと一発命中すれば、脅威度1のモンスターなら仕留められるそうだ。


 盾は買わずメイソン銃だけを買った。初めて魔境に行くのなら、南のシスカ草原がお勧めだと店員から聞いた。脅威度1のモンスターしか居ないので、モンスター狩りに慣れるのにちょうど良いという。


 その後、シスカ草原で遭遇するモンスターの資料を、アヌビス製のスマートグラスで調べた。惑星ボランの惑星情報ネットには膨大な量の情報が存在しており、情報を絞るのが大変なほどだ。


 調べた結果、シスカ草原には六本足の猪のような『暴走ボア』、装甲のような皮膚を持つ『装甲ドッグ』、全長一メートルの大蜘蛛『殺人スパイダー』などが居ると分かった。


 私はシスカ草原のモンスターについて調べた後、射撃練習場へ行って、購入したメイソン銃を使った射撃練習を行う。もちろん、練習に使う銃弾は炸薬を抜いたものだ。


 納得いくまで射撃の練習をした後、狩りに行く事にした。朝早く装備に着替えて実績収集バッジを付けてシスカ草原に通じている通路を草原へと向かう。すると、軍用車のように頑丈そうな車が何台も追い抜いて行く。


 その中の一台が止まって、運転席から赤い髪の若い男が降りた。二十代前半で逞しい体格をしている。

「おい、新人か?」

「そうです」

「そうだと思ったぜ。シスカ草原で狩りをする連中は大勢居るが、ほとんどは車を使うからな。途中まで送ってやる。歩くと一時間くらいは掛かるぞ」


 私は乗せてもらう事にした。こういう車をハントカーというらしい。

「車がないと、倒した獲物も運べないだろう。どうするつもりだったんだ?」

 そう言えば、倒した獲物を持ち帰る手段をまだ考えていなかった。ここで活動している屠龍猟兵の収入源は、獲物を持ち帰って換金する事らしいので、そういう手段が必要なのだ。


「今日はどんなモンスターが居るか、確かめるだけにしようと思っていたんです」

「へえー、初日なのか。まあ、頑張るんだな」


 シスカ草原の入り口まで乗せてもらって、車から降りた私は広々とした草原を見渡した。

「やっぱり車は必要だな」

 車の免許は取得しているが、日本の免許証を所持していたとしても、ここでは役に立たないだろう。宙域同盟の免許を取るべきだろうか?


 天震力ドライブを使って飛べないだろうかと考えたが、天震力ドライブは小型航宙船を加速するだけのパワーがあるのだ。それを人間に対して使ったら、恐ろしい事になりそうである。やめた方が良いだろう。


「もしかして、天震力ドライブでモンスターを飛ばしたら、一撃必殺になる? いや、ダメだな。天震力ドライブを発動するには、時間が掛かる」


 天震力ドライブは発動に五秒ほど掛かるのだ。ちなみに『粒子撃』は一秒ほどで撃てるまでに上達している。


「同じモンスター狩りでも、宇宙とは全く違っているな」

 何か新鮮な感じがするし、モンスターと遭遇したら恐怖を感じそうだ。腰のベルトに吊るしているメイソン銃に視線を向けた。


 射撃場での練習では、的に命中するようになっていた。但し、この銃を使うのは最後の手段だと考えている。魔導師として成長するつもりなら、『粒子撃』でモンスターを仕留めたいと考えているのだ。


 そうだ、地上で『粒子撃』を使った事がなかった。ここで練習しておこう。

 パワー導管に繋がる制御門を開放レベルTだけ開いた。その瞬間、私の身体の中にボソル粒子と天震力が流れ込む。


 草原の中に一本の木が生えていた。その幹は直径二十センチほどあり丈夫そうだ。その幹に向けて『粒子撃』を放った。


 粒子弾が天震力により加速し音速を超える。木の幹の命中した瞬間、ドカンという轟音が響き渡り幹が爆発して粉々になった。


「うわっ!」

 爆風を受けて地面に倒れた。威力があり過ぎたのだ。ここが宇宙じゃないのを理解していなかった。宇宙は空気がないから爆風もないが、ここは違う。それに爆発力が強すぎて獲物が爆散してしまう。


「もっと威力を絞らないとダメだな」

 試しにボソル粒子の量を制限して野球のボールほどになった粒子弾を加速して木の幹に向かって放つ。


 命中した瞬間、前回より規模が小さな爆発が起きた。爆風で倒れた私は地面に尻餅をついた。

「げほっ」

 失敗した。もう少し間合いを取るべきだった。


 次はボソル粒子をいつもの一パーセントだけに制限して加速し木の幹にぶつけた。命中して爆発したが、その爆発力は大したものではない。中途半端な威力である。


 そこでボソル粒子の量をいつもの一割ほどにして、長さ八センチほどのライフル弾のような形に形成して加速を抑えて放った。今度は木の幹を貫通しただけで爆発しなかった。形状に問題があったようだ。


 狙った通りの効果が発生したのを見届けた私は、貫通させるには球形よりライフル弾の形が良いと判明した。この形状なら粒子弾をマッハ10にまで加速しても大丈夫だと分かった。


 今度こそ成功だと確信した。この戦術魔導技をスマートグラスを使い惑星情報ネットで調べると、同じものが存在した。『粒子撃・貫通弾』と呼ばれており、ボソル粒子の投射体は『粒子貫通弾』と呼ぶらしい。


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