第15話 魔境惑星ボラン
宇宙ステーションの屠龍猟兵ギルドには、二つの施設がある。一つは受付カウンターのある事務処理施設、もう一つはスーパーマーケットのような商業施設だ。
新しい屠龍猟兵カードを受け取った私は、サリオと一緒に買い物に行った。どうしても美味しい食事が欲しかったのである。
「ここで売っているものは、全部食べられるのか?」
「いえ、食料品は種類分けしてあり、その中から食べられるものを選ぶのでしゅ」
私とサリオでも、食べられるものが違うらしい。もちろん共通して食べられるものの方が多いらしいが、気を付けなければならない。
私は自分の遺伝子分類コードをレンタル医療マシンで調べて知っていた。その遺伝子分類コードが印刷されている食べ物は大丈夫らしい。
売り場を回って食べられそうなものをカートに入れる。一番多いのが味と匂い付きの保存食チューブである。味見させて欲しいが、そういうシステムはないようだ。
他に保存食がないか調べると、冷凍食品の種類が多いのが分かった。大量の冷凍食品を購入して船に運んでもらうように手続きする。
「あっ、冷蔵庫がない」
今まで保存食チューブだったので、冷蔵庫が必要なかったのだ。それに電子レンジのような調理器具や食器、スプーンなどもなかったので購入する。ちなみに、
生活に必要な様々なものを購入して小型航宙船に戻る。それから購入した品物が届くのを待った。届くまでは保存食チューブなので、一刻も早く届くのを願って過ごす。
宇宙ステーションに飲食店があるのなら、そこで料理を食べたかったのだが、中に飲食店はなかった。
その購入品が届いて冷蔵庫などを設置すると、我々は久しぶりにまともな食事を食べた。
「味がする。だけど、久しぶり過ぎて、旨いかどうか分からない」
実際、微妙な味だったのだ。期待が大きかっただけに、ちょっとがっかりである。
我々はチラティア星へ向かう事にした。当然、遷時空跳躍フィールドをどうするかという話になるが、こういう文明圏には、遷時空跳躍フィールド発生リングという装置があるという。
恒星から離れた位置に設置されている遷時空跳躍フィールド発生リング、通称『跳躍リング』というものに金を払うと、遷時空跳躍フィールドを発生してくれる。
我々は小型航宙船で跳躍リングに向かった。直径三キロほどありそうなドーナツ型の建造物である跳躍リングに近付くと、通信機に連絡が来た。
『跳躍リングを使われますか?』
サリオが通信機で『使う』と返事をすると、指定口座に送金するように指示された。サリオは自分の星間金融口座の機能を使って送金する。
『入金を確認しました。バーチ1以上に加速して、リング内を通過するコースを進んでください』
サリオは進路を微調整し、跳躍リングを通り抜けるコースを飛んだ。そして、もう少しで跳躍リングを潜ろうとした時に、ドーナツ型建造物の内側に遷時空跳躍フィールドが発生した。
我々の小型航宙船は遷時空跳躍スペースに遷移した。また内臓が捻られるような感覚を覚える。まだ慣れないようだ。
「サリオ、料金はいくらだった?」
「遷時空跳躍フィールドの発生に掛かった料金は、およそ三百万クレビットでしゅ」
私は溜息を漏らした。
チラティア星に到着した我々は、立体ディスプレイに映し出された恒星を見た。太陽に似ているが、少し赤みが強いように感じる。
この恒星も太陽と同じ黄色矮星で、第五惑星に人が住んでいる。その第五惑星に五日で到着した。その惑星は青い海と緑に覆われた陸地が存在し、地球を連想させる惑星だった。惑星に近付くと巨大な構造物が目に入る。
「あれは?」
尋ねると、サリオが立体ディスプレイに映し出された惑星をチラッと見る。
「あれは宇宙エレベーターでしゅよ。宇宙に出ている部分が宇宙港になっていましゅ」
その宇宙港は直径三十キロほどの大きさがあった。その宇宙港に近付き、管制システムと交信する。管制システムが係留ポイントと飛行ルートを送ってきたので、それに従って近付きドッキングした。
我々は着替えとか装備を保管ケースに入れ、ハッチからチラティア宇宙港に入る。そこで保安システムによる検査が行われた。
悪性の病原菌を持っていないか調べられ、荷物も検査された。検査しているのはアンドロイドである。但し、そのアンドロイドは猫耳だった。
製作した種族が猫耳なのだろう。それをサリオに聞いてみた。
「この惑星を管理しているのは、ワーキャット族でしゅ。文明レベルは『D』でしゅが、アウレバス天神族の眷属でしゅから、逆らってはいけません」
ワーキャット族の一部は、天神族に従属している。そして、天神族のために働いているという。同じワーキャット族でも、死んだベルタやリエトとは全く違うようだ。
宇宙港内は基本的に無重力らしい。どんな種族が訪れるのか分からないので、人工重力は無効にしているようだ。空気は宙域同盟で標準と言われている空気成分になっている。私も呼吸できるタイプのものだった。
宇宙エレベーターで地上に下りる事にした。一人二十五万クレビットもしたので驚いたが、この値段は安いらしい。我々はエレベーターの中で話し合う。
「ここでモンスター狩りをすると、宙域市民権を手に入れられるんだよな?」
「そうでしゅ。但し、屠龍猟兵のランクDになる必要がありましゅ」
「ん? どういう事?」
屠龍猟兵にはランクというものがあり、登録したばかりだとランクGになる。モンスターを倒して実績を上げるとG、F、E、D、C、B、A、Sの順番でランクは上がるというのは知っていたが、ランクDになると宙域市民権が手に入るというのは知らなかった。
「ランクDというと、どれだけのモンスターを倒さないとダメなんだ?」
「脅威度3のモンスターを、倒せるようにならなければなりません」
宇宙クリオネや宇宙クラゲが脅威度1なので、宙域市民権への道は遠い。だが、サリオは私がすぐにランクDになれると思っているようだ。ゾロフィエーヌからもらった『高次元アクセス法』を過大評価しているとしか思えない。
「サリオもモンスター狩りをするのか?」
「まさか、僕にはボソル感応力もパワーもないのでしゅよ。その代わりに航宙船操縦士二級の免許を取るつもりでしゅ」
ボソル感応力もパワーもない種族が地上で狩りをする場合、機動剛兵が使う武装機動甲冑などを装備して戦うらしい。
この武装機動甲冑というのは、強力な武器が組み込まれている機動甲冑というもので、使用者の力を十数倍にも増幅し、組み込まれた武器で戦うそうだ。
「だったら、それを購入して一緒にランクDを目指さないか」
「武装機動甲冑は、安いものでも三億クレビットはするのでしゅ」
私とサリオの全財産は、少し減って四千万クレビットなので到底買えない。私だけでモンスター狩りする事が決定である。
エレベーターが地上に到着し、我々は魔境惑星ボランに降り立った。宇宙エレベーターの基礎部分は、エレベーター街として発展していた。その一画に屠龍猟兵ギルドの育成センターがあり、その登録カウンターへ行く。
ここのカウンターで育成プログラムに登録すると、屠龍猟兵ギルドが用意した『ゲストタワー』と呼ばれる宿泊施設を使えるようになり、実績収集バッジが貸し出される。
実績収集バッジというのは直径五センチほどの丸いバッジである。私が倒したモンスターをカウントし、実績として報告する機能があるという。
ここのカウンターにはロボットだけではなく、ワーキャット族の女性職員が数人居た。ロボットの対応を嫌う屠龍猟兵が居るらしい。担当は女性職員のアデリナというワーキャット族だった。猫耳がピコピコ動いて可愛い。
「これがゲストタワーの部屋のカードキーです。失くさないでください」
アデリナから、カードキーを二枚渡された。宇宙エレベーターの傍にあるゲストタワーの二階にある部屋のキーである。二枚なのは家族で来る者も居るので、習慣として二枚用意しているそうだ。
ランクが上がるに従い上の階の部屋を使えるようになるという。このゲストタワーは巨大であり、屠龍猟兵一万人ほどが生活できる部屋を備えていた。
部屋に入ると八畳ほどの広さで、トイレとシャワーが付いている。サリオは一緒に生活するという。ホテル代が勿体ないからだ。
食事は食堂とスーパーマーケットのような店があると登録カウンターのロボットが言っていた。
「そう言えば、私は装備を買わなくてもいいんだろうか?」
地上でモンスター狩りをすると思うと、何となくファンタジー小説を思い出し、鎧とか剣? じゃなくて銃を購入しなくても良いのだろうか、と思ったのだ。
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