第14話 調教端子の除去

 サリオは宇宙ステーションを通じて、惑星ジョエルの惑星情報ネットに接続した。地球のインターネットより進んだ情報ネットワークである。


 探そうと考えているのは、首の後ろにある調教端子を取り出す事ができる医療マシンである。これほどの文明国になれば、レンタル医療マシンなどがあり、それを寄港した航宙船に貸し出すサービスもしているらしい。


 但し、レンタル料は高い。調べてみると一日のレンタル料が約百五十万クレビットだった。それでも必要だったので、サリオはレンタルを申し込んだ。


 翌日、小型航宙船に医療マシンが運ばれて来た。整備ロボットたちが受け取って、多目的スペースに据え付ける。


 酸素カプセルのような医療マシンを見て、本当に大丈夫なのか心配になった。

「本当に爆発するような事はないんだろうな?」

「大丈夫でしゅ。ドワーフ族の文明レベルは『D』に達していましゅから、信用できましゅ」


 初めにサリオが試す事になった。いろいろと情報を入力したサリオが上半身裸になって、医療マシンに入った。カプセルの扉が閉まると、医療マシンが検査を始める。


 検査が終わると、サリオの首の後ろに埋め込まれている調教端子を取り出す手術が始まった。医療マシンの内部では何本かのロボットアームが動き出し、麻酔で眠っているサリオの身体を切って調教端子を取り出した。


 無事に手術が成功したサリオは、医療マシンから出てきた。この医療マシンの事を聞いていたので、天神族のゾロフィエーヌに願いの一つとして言わなかったのだ。


「次はゼンの番でしゅよ」

 私も上半身裸になると医療マシンに入った。十五分ほどの検査が行われ、すぐに意識がなくなる。麻酔を射たれたようだ。意識が戻った時には手術が終わっており、医療マシンから這い出す。


 首に手を当てると絆創膏のようなものが貼ってある。だが、調教端子の膨らみは無くなっていた。私はホッとしてサリオの方を見ると、真剣な顔で検査結果のデータを見ていた。


「どうかした?」

「ゴブリン族が、使った抗体免疫ナノマシンと体内調整ナノマシンなのでしゅが、かなり性能が低いものだったようでしゅ」


 そう言われてもピンと来ない。

「どれくらい性能が低いものなの?」

「三年以内に交換しないと、身体に悪い影響が出るかもしれません」


「ま、まずいじゃないか。ここで新しいものと交換できない?」

「ジョエルには、ドワーフ族用のものしかないようでしゅ。医療関係の技術が発達した文明圏で交換した方がいいと思いましゅ」


 不安だったが、サリオがそう言うならと思った。

「次はゼンが宙域同盟の市民権を手に入れないと」

「市民権がないと何か不都合があるのか?」


 サリオの話だと、市民権がないと星間金融口座を作れなくて不便らしい。その惑星でしか使えない口座は、身分証がなくとも作れる星もあるが、放置すると没収されるようだ。


 それに様々な免許も取得できないという。小型航宙船を操縦するために必要な航宙船操縦士二級の免許も取れないそうだ。


「それで、市民権を取得する方法は?」

 市民権を取る方法は、宙域同盟に所属する国家の法人企業に正式に雇用され、半年間ちゃんと働けば準市民権がもらえ、それから宙域同盟の宙域市民権が取得できる試験を受けるというやり方と、新しい市民を募集している開拓惑星やスペースコロニーで一定期間働けば、市民権が取得可能な制度が存在するらしい。


「その他に屠龍猟兵ギルドに登録して、チラティア星でモンスター狩りをしゅれば、市民権を得る事ができましゅ」


 そこはモンスターと呼ばれる生物兵器が野放しとなっている惑星らしい。そこでモンスター狩りをして、実力を上げると市民権がもらえるという制度があるそうだ。


 これは屠龍猟兵ギルドが優秀な人材とモンスターの素材を手に入れるために行っているものだ。


「ちょっと待って。屠龍猟兵ギルドに入るのに、身分証は必要ないの?」

「実力を確認しゅるテストを受け、合格すれば必要ないでしゅ。ただ身元保証人は必要でしゅ」

 屠龍猟兵ギルドに入っただけでは、公的な身分証が発行されないので星間金融口座などは作れないらしい。


「宇宙クラゲを倒せたんだから、大丈夫かな。まず何をすべきだと思う?」

「チラティア星へ行きましょう」

「サリオの故郷へ行くんじゃないのか?」


 サリオが溜息を吐いた。

「そうしたいのでしゅが、この船で長距離航行しゅるのは無理でしゅ」

 サリオの故郷の星へ行くには、二百七十光年を旅する必要があるらしい。小型航宙船は六十光年も航行するとオーバーホールする必要があるという。


 小型航宙船は惑星間で運用する目的で建造された航宙船なので、星間航行させる事が間違いなのだ。


「そうなると、本格的な星間航宙船を手に入れるか、旅行会社のチケットを買って旅行するかだな。星間航宙船は、どれくらいのクレビットが必要になるんだろう」


「遷時空跳躍フィールド発生装置を搭載している航宙船なら、中古の小型でも数千億クレビット、遷時空跳躍フィールド発生装置なしのオンボロなら、数十億クレビットでしゅね」


「桁が違うじゃないか」

「遷時空跳躍フィールド発生装置が、超高価なのでしゅ」

 この小型航宙船に運び込んだ遷時空跳躍フィールド発生装置が、どれほどの値段になるのか知りたくなった。それをサリオに確かめると、修理できたら六千億クレビットくらいではないかという。


「売った方が良さそうな気がしてきた」

「ダメでしゅ。遷時空跳躍フィールド発生装置は二度と手に入らないかもしれないのでしゅ」

 金があっても遷時空跳躍フィールド発生装置は購入できるか分からないものらしい。なので、売るのは最後の手段にしたいと言う。


 結局、チラティア星へ行く事に決めた。その前に屠龍猟兵ギルドに登録しようと思う。屠龍猟兵ギルドの支部は宇宙ステーションの内部にも存在し、サリオはそこで登録したそうだ。


 私とサリオは屠龍猟兵ギルドの支部へ行った。身分証のない者が登録する場合、保証人が必要なのでサリオになってもらう事になっている。


 その支部は受付にロボットと髭ぼうぼうのドワーフ族だけしか居なかった。そのドワーフ族はだるそうな感じで椅子に座っている。対応したのはロボットだ。

『どのような御用件でしょうか?』


「屠龍猟兵として、登録したい」

『身分を証明するものをお持ちですか?』

「無いので、サリオが保証人になってくれる」


『承知いたしました。それでは屠龍猟兵に入れるだけの技量を持っているかテストいたします。得意な装備や艦艇はありますか?』


 私がモンスターを倒したのは、機動甲冑とスペース機関銃を使ってである。粒子弾はまだ未熟なので、機動甲冑とスペース機関銃だと言うと、シミュレーターで実力をチェックするという。


 私はシミュレーターマシンまで案内され、乗せられた。ゴブリンの船で訓練したシミュレーターに似ているが、もっと高性能なものだ。


 そのシミュレーターで宇宙クリオネや宇宙クラゲなどを撃破すると、受付ロボットが実力を承認した。

『それでは屠龍猟兵ギルドの規則を身に付けてもらいます。どのような方法が良いですか?』


 よく分からなかったので、サリオに視線を向ける。

「情報転写型ナノマシンで、お願いしましゅ」

『それですと、一万クレビットが必要ですが、よろしいですか?』


 サリオが承諾すると、屠龍猟兵ギルドの規則と宙域同盟の一般常識が入った情報転写型ナノマシンが、私の体内に注射された。すると、頭の中がぐるぐる回り始めたが、五分ほどで治って屠龍猟兵ギルドの規則と宙域同盟の一般常識が記憶されたのを確認した。


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