第93話 順調なコロニー
戦いを終えた我々は、デルトコロニーへ戻った。
「やっとのんびりできる」
宇宙港に降りた私は、背伸びしながら声を上げた。その声を聞いたレギナが微笑む。
「あたしは、何のために戦場まで行ったのだろう。ゼンは一発だけど超磁場発生弾を撃ったからいいけど、あたしは何もしていないんだぞ」
レギナは不満そうだ。
「それはジルベール提督のせいだ。超磁場発生弾を撃った後、かなりの激戦になると思ったのに、除け者にされたからな」
「レギナが戦いたいのなら、モンスターを相手に戦ったらいいでしゅよ」
サリオの言葉の意味が分からなかったレギナは首を傾げた。
「どういう事? 近くにモンスターが来ているの?」
サリオが頷いた。
「ネットで調べたら、砲撃ダンゴムシの群れが近付いているようでしゅ」
レギナはタリムに連絡して情報をもらった。砲撃ダンゴムシの件を確認すると、留守部隊のライジンが出撃するという。レギナがモンスター退治に行くのか、と思っていたら行かないらしい。
「弟妹たちに会わずにモンスター退治に行ったら、怒られてしまう」
レギナは笑って言う。我々は真空チューブの中を移動するコミューターポッドに乗って居住区へ向かった。
ちょっと留守にしていただけで、居住区の様子が少し変わっていた。子供たちのための学校が完成していたのだ。優秀な人材を育てるには、学校が必要だと優先的に建設したものだ。
知識を詰め込むだけなら、マシンを使えば簡単だ。だが、それは記憶しただけで理解した訳ではない。学校は理解力を高める施設となる。それに学校は他の子供たちとコミュニケーションをとる場だった。学校にはスポーツ施設や各種シミュレーターがあり、乗り物の操縦などを学習する事ができた。
それに加えて疑似体験学習という授業もあり、ソフトを変えるだけで軍事訓練に使うような戦闘シミュレーションやモンスター狩りのようなシミュレーションも可能だった。
このようなソフトは一種のゲームソフトのようなもので、人気のソフトを開発すると一財産築けると言われている。
居住区の中に入ると、住民が徒歩で移動しているのが目に入る。一部しか開発されていない居住区は交通機関が不足しており、整備されたのは宇宙港との行き来で使うコミューターポッドだけなのだ。
居住区の開発が進んだら、個人や少人数で移動する車のようなものも用意しようと考えている。但し、スペースコロニー内の乗り物は工夫が必要だった。
スペースコロニーの人工重力は、遠心力である。なので、スペースコロニーの回転と逆方向に車を走らせると遠心力が打ち消されて人工重力が弱まるのだ。最後には無重力となって車が浮いてしまう。
そんな事を考えていると、コミューターポッドがロードパレスの前に止まった。降りるとロードパレスに入って子供たちの様子を見に行った。
ソニャはサリオの顔を見ると、駆け寄って抱きついた。サシャとラドルも歓声を上げてレギナの下へ走って行く。留守番していた子供たちは寂しかったのだろう。
「子供たちの顔を見ると、帰ってきたという感じがする」
私の言葉にレギナとサリオが頷いた。
「閣下、報告があるのでしゅが、よろしいでしゅか?」
子供の世話を頼んだクーシー族のミシクが、姿を見せて声を掛けてきた。
「ああ、もちろんいいよ。向こうの部屋で聞こう」
私の執務室へ行って報告を聞く。ミシクは元議員だったというだけあって人を動かし、纏める事が上手い。その能力を使い、
青鱗族のビジェやブルシー族のブリクと話し合ってコロニーの開発を進めてくれていた。
「青鱗族に任せている食料生産工場は、人口分の食料生産ができるようになりました」
ミシクが報告している食料生産というのは、モンスター肉から作る保存食チューブの事ではない。輸入した材料を使って作る人造小麦粉と人造米粉の事である。
私は人造小麦粉、人造米粉と呼んでいるが、正式な名前は違う。人造小麦粉、人造米粉などの食料は似たようなものが数多くあり、その中から小麦粉と米粉に味が似ているものをサリオとレギナに相談して選んで生産させている。
クーシー族やブルシー族、青鱗族にも人造小麦粉や人造米粉から作ったパンを食べてもらい味を確かめさせたが、美味しいという。
「野菜生産も、水耕栽培が軌道に乗りました」
肉スライムも水耕栽培で出た残渣を餌にして順調に育っているようだ。この肉スライムを一万匹くらいまで増やしたら、販売開始しようと考えている。デルトコロニーの人口は二万三千人ほどになっているので、将来的な人口増を考えたら、肉スライム一万匹は必要だろうと推測していた。
「それなら、食料問題は解決したという事だな」
「はい。後は質をどこまで上げられるかになりましゅ」
「質か。スラ肉の改良と香辛料を栽培して欲しいな」
「シュラ肉の改良というのは、どういう意味でしょう?」
「味を六足豚の肉に近付けないか。研究して欲しい」
六足豚というのは文字通り六本足の豚である。肉の味も豚肉で宙域同盟の多くの惑星で飼育されている。
「分かりました。次にクーシーエンジン社でしゅが、この調子だと今期の売上が、五千億クレビットを超えると思われましゅ」
それらを考えると税収も期待できそうだ。その他にもアムダ鉱星からの上がる利益が膨大だった。現在採掘している金属は鉄、金、銅がメインとなっているが、プラチナの鉱脈も発見している。近々採掘を開始する事になっているので、利益が大幅に増加する。
来期のコロニー運営資金は大丈夫そうだ。このままコロニー運営が順調に続けば、コロニーの運営をミシクたちに任せ、我々は屠龍猟兵や魔導師としての活動を再開できるだろう。
但し、問題が発生する事も考えられる。ゴブリン族やホブゴブリン族、それに味方であるはずの連合、さらにはナインリングワールドの管理種族であるチャービスもアムダ鉱星から膨大な利益が上がると知れば、何か言ってくるかもしれない。
「もっと優秀な人材が欲しいな」
子供たちを優秀な人材にしようと教育にも力を入れているが、その成果が手に入るのには時間が掛る。これから積極的に人材も探そう。そう決意した。
―――――――――――――――――
【あとがき】
今回の投稿で『第2章 ナインリングワールド編』が終了となります。次章もよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます