第22話 狂乱コングの龍珠

 屠龍猟兵ギルドを出る時、独角サウルスの角も回収した事を思い出した。暴竜ベルゴナと戦っている間に紛失したようだ。思わず溜息が漏れる。


「でも、異層ペンダントが出来れば、こういう事もなくなるはず」

 そう思って自分を慰めた。


 その翌日、屠龍猟兵ギルドへ行くと、良い報せが待っていた。幸運にも暴竜ベルゴナを倒した事で、ランクEの屠龍猟兵に昇格したのだ。ランクFの屠龍猟兵が脅威度3のモンスターを倒した場合、ランクEに昇格させるというルールがあるのだそうだ。


 まだ宙域市民権がないので星間金融口座は作っていないが、惑星ボランの銀行に地方口座を作って使っている。その口座には四千二百万クレビットが溜まっていた。八光径荷電粒子砲を換金した残りと狩りで稼いだ金額を合わせたものである。


 私は黒い森ベルバで狩りを続けながら、ペンダント型異層ボックスと防具が出来上がるのを待つ。その日も独角サウルス二匹を仕留めて帰った。二本の角を屠龍猟兵ギルドで換金すると、二百四十万クレビットになった。それを地方口座に入金してから、ギルドの装備カウンターに向かう。


 この装備カウンターでは屠龍猟兵の装備品などの購入や整備を行う事ができる。

「頼んだものは出来ていますか?」

 カウンターで接客をしている接客ロボットに尋ねる。

『ベルゴナアーマーセットと、異層ペンダントは出来ております』


 猫耳タイプの接客ロボットがベルゴナアーマーセットと異層ペンダントを持ってきてカウンターに並べた。異層空間収納機能を持つ異層ペンダントにはセキュリティ機能があり、使用者を設定すると他の者は使えないようになる。


 異層ペンダントを首に掛け、その中にベルゴナアーマーセットを収納する。アーマーセットは一人前の屠龍猟兵なら所有しているものだ。私が中二病に罹って注文した訳ではない。但し、暴竜ベルゴナの革を使ったアーマーセットを持っている者は少ないだろう。


 そして、それを収納した異層ペンダントのペンダントトップは、長さが五センチほどのラグビーボールのような形をしており、収納容量は縦・横・高さがそれぞれ十九メートルの空間と同じになったという。龍珠の質で若干容量が変わるらしい。


 ちなみに、異層ペンダントの容量が小さいと言われているのは、本格的な異層ストレージだと小型航宙船を入れられるほど大きな容量を持っているからだ。


 狩りのためにホバーバイクも購入した。小型のホバーバイクで馬力だけは大きく、時速三百キロほどの速度が出る。


 ホバーバイクも異層ペンダントに収納し、ゲストタワーの部屋に戻った。

「はあっ、疲れた」

 こういう時の独り言は日本語になる。現在の狩り場にしている黒い森ベルバは二つの区画に分かれており、第一区が脅威度1と2、第二区が脅威度2と3のモンスターが棲息する場所となっている。そして、私が狩りをしているのは第一区と第二区の境目辺りになる。


 惑星ボランには狩り場が八つ存在するが、その中で西・北西・南西の狩り場は、ランクによる制限が行われている。この制限区画へ狩りに行けるのは、北西がランクC以上、南西がランクB以上、西がランクA以上となっている。


 制限区画になっている北西の狩り場が気になったので、惑星情報ネットで調べる事にした。スマートグラスを装着すると、言葉で検索を指示する。膨大な量の情報がヒットするので、それに条件を追加して絞り込んで目的の情報を手に入れた。


 北西の狩り場であるギルダ峡谷は、広大な峡谷地帯になっている。そこは蜘蛛型を中心とするモンスターが棲息しており、その頂点は脅威度4の母王スパイダーだという。この母王スパイダーは全長二十メートルの巨大蜘蛛で、口から強烈な酸を出すらしい。


 そして、不確かな情報だが、ギルダ峡谷の奥には天神族が残した秘宝が眠っているという。この情報は噂程度のものなので、信憑性に欠ける。ちなみにランクCになるには、暴竜ベルゴナを五匹仕留めるのが早道だと言われている。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 サリオが旅立ってから五ヶ月が経過した。その頃にはベルバだけではなく、南東のキリマス山岳地帯にも狩りに行くようになった。その間はずっと戦術魔導技の技術を磨いたので、『粒子撃』『粒子撃・貫通弾』『粒子撃・円翔刃』は約一秒で発動できるほどになっている。


 現在、狩りをしているキリマス山岳地帯の奥には凶暴な猿が棲み着いている。その中でも全長五メートルある狂乱コングは、怪力で知られていた。


「うあっ!」

 その日、運が悪く狂乱コングに捕らえられてしまった。その巨大な右手で胴体を掴まれ、巨木に向かって放り投げられる。くるくる回転しながら飛んで背中から巨木の幹に衝突し、巨木を大きく揺らしてドサリと地面に落ちた。


「ううっ、痛い。もの凄く痛い」

 こういう時は、自分は何をやっているだと考えてしまう。粒子装甲があるので死ななかったが、なかったら死んでいただろう。


 狂乱コングの方を見るとドスドスと足音を立てながら迫ってくる。その狂乱コングを狙って粒子円翔刃を飛ばす。身体から溢れ出たボソル粒子をリング状に形成した粒子円翔刃は、マッハ7で飛翔すると狂乱コングの首を刎ねた。首を失った肉体が地響きを立てて倒れる。


 私は止めていた息を吐き出す。

「危なかった。若い時なら、こんなドジは踏まなかったのだけど。長命化処置を本気で考えるかな」

 寿命を三百歳にまで伸ばす長命化処置なら、二十億クレビットである。頑張れば届かない金額でもなかった。


 狂乱コングの頭を回収し、額のところにある直径二センチほどの龍珠を回収する。この緑色をした龍珠は、制御脳の部品となるらしく、ギルドで換金すると五千万クレビットになる。今回の狂乱コングで三匹目になるので、合計一億五千万クレビットが口座に入金される事になる。


 命懸けだが、モンスター狩りをする生活というのは楽しい。この狩りは一種のギャンブルだからだ。命を賭け金としてモンスターを倒すと、大金が手に入る事もある。その時は脳内でドーパミンという快楽物質が大量に作られ放出される。すると、気持ち良いワクワク感や多幸感などが得られる。


 ギャンブル依存症のような状態なのだが、狩りをしていると怪我や死にそうになる事もあり、それがストッパーになって慎重に行動するようにもなる。


 ちなみに、二度ほど怪我をして入院している。その時に粗悪品だと指摘された『抗体免疫ナノマシン』と『体内調整ナノマシン』は、標準タイプと呼ばれているものに交換した。二つで千二百万クレビットだ。高すぎると思ったが、標準タイプではなく高性能なものにすると億単位のクレビットになるらしい。


 狂乱コングの死骸は、龍珠しか価値がないので残りは放置する。この山岳地帯に棲む野生動物や虫の食欲は旺盛で、これくらいの死骸なら三日ほどで食べ尽くしてしまう。


 ホバーバイクに乗って屠龍猟兵ギルドの支部へ行くと、買取カウンターで龍珠を換金した。すると、センター長に呼ばれた。買取カウンターの情報がセンター長に伝わって呼ばれたようだ。部屋へ行くとホイスラーセンター長が待っていた。


「おめでとう。今日から君はランクDだ」

 ランクEになってから半年ほどでランクDである。標準からすれば早すぎるのだが、立て続けに狂乱コングを倒したのが認められたのだろう。


「ありがとうございます。でも、こんなに早くていいんですか?」

「早すぎると儂も思う。もっと経験を積むべきだと思うのだが、君は規格外にゃのだよ」

 

「規格外とはどういう事です?」

「君は『粒子撃』『粒子撃・貫通弾』『粒子撃・円翔刃』だけで、脅威度3のモンスターを何匹も倒している。本来ならあり得ないのだよ」


「なぜです? 十分に威力のある三大基本なら、脅威度3までのモンスターを倒せる、と聞いています」


「平均的な魔導師が、三大基本で倒せるのは脅威度1の独角サウルスくらいまでなのだ。それ以上のモンスターを倒す場合は、基本ではなくもっと高度な戦術魔導技を学ぶのだよ」


 もっと高度な戦術魔導技というのには興味があった。ただ平均的な魔導師が三大基本で脅威度1のモンスターまでしか倒せないというのは、天震力の制御に問題があるからだろう。


 私はリカゲル天神族のゾロフィエーヌから天震力制御の基本を教えられている。その点が平均的な魔導師と違うのだ。


「たぶん天震力制御を鍛錬すれば、威力も変わるのだと思います。それよりランクDという事は、宙域市民権をもらえるのですか?」


 ホイスラーセンター長が頷いた。

「もちろんだ。すぐに手続きをする」

 その日、私は宙域市民権を手に入れた。これにより宙域同盟の正式な市民となり、星間金融口座を作れるようになった。もちろん、すぐに星間金融口座を作り、地方口座にある残額を新しい口座に移した。


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