第23話 ランクCと暴竜ベルゴナ

 宙域同盟の正式な市民となった事により、星間金融口座を作れる事になっただけでなく、土地や建物を購入できるようになった。


 そこでエレベーター街の郊外にある小さな倉庫を買った。本当はレンタルにしたかったが、レンタルだと倉庫内で自由に作業する事ができないようなのだ。


 その倉庫に遷時空跳躍フィールド発生装置とルオンドライブ、それに整備ロボットを移した。整備ロボットを再起動し、中断していた遷時空跳躍フィールド発生装置の修理を再開させる。


 これまで遷時空跳躍フィールド発生装置を修理できなかったのは、足りない部品や修理に必要な装置がなかった事が原因だった。だが、倉庫を購入してからは部品や装置を購入したり、レンタルして遷時空跳躍フィールド発生装置を完璧に修理した。


「これが六千億クレビットか」

 遷時空跳躍フィールド発生装置は、飲食店の厨房によくある四枚扉の業務用冷蔵庫を一回り大きくしたほどの大きさで、中は複雑な構造になっている。仕組みは全く分からないが、整備ロボットの報告によれば完璧に直ったそうだ。


 専門家にチェックしてもらわないと実際には使えないが、取り敢えず遷時空跳躍フィールド発生装置とルオンドライブを異層ペンダントの中に収納した。


 狂乱コングを確実に仕留められるようになったので、狩り場を黒い森ベルバに戻した。狙いは暴竜ベルゴナである。暴竜ベルゴナを後四匹倒してランクCに昇格しようと考えているのだ。


 ちなみに、ランクCの屠龍猟兵は割と大勢居るという。屠龍猟兵のランクは『G』から『S』まで存在する。但し、非公式ではあるが『SS』と『SSS』があるという噂だ。


 ランクCまでは時間を掛けて努力すれば、昇格できる者が多い。だが、ランクCからランクBへの昇格は格段に難しくなるそうだ。


 そして、ランクDになると『一人前』という評価になり、もう一つ上のランクCになると宇宙に出て宇宙のモンスターを狩るようになるという。


 私が短期間にランクDになれたのは、やはりゾロフィエーヌから与えられた『高次元アクセス法』の御蔭らしい。簡単にボソル粒子と天震力を手に入れられるので、戦術魔導技の上達が異常に早い。


 暴竜ベルゴナ狩りを始めた日、私は黒い森ベルバの上空をホバーバイクで飛んでいた。もちろん、免許は取っているので無免許運転ではない。


 太陽に照らされたベルバの木は、あまり光を反射しないせいか黒く見える。それらの木々の上をゆっくりと飛んでいると、地面を覆い隠すように広がる葉っぱの間から、赤銅色をした巨大な生物が動いたのが見えた。


 木々の間を縫うように着地させたホバーバイクを異層ペンダントに収納すると、粒子装甲を着装する。今では粒子装甲を着装したまま五時間ほど活動できるようになっていた。


 巨大なシダ類やツワブキに似た下草が生えている地面を調べると、暴竜ベルゴナのものらしい新しい足跡を見付けた。それを追って進む。すると、前方に存在する巨大な生物の気配に気付いた。足音を殺して近付き、巨木の陰から顔だけ出して覗く。


 暴竜ベルゴナがホーンサウルスを仕留めて食べているところだった。鋭い牙がずらりと並んだ口を開け、ゾッとするほどのパワーでホーンサウルスの肉を噛み千切る。周りに血の臭いが漂い始めた。


 気付かれていない今こそチャンスだと判断し、暴竜ベルゴナの首を狙って粒子円翔刃を飛ばす。その瞬間、自分の身体から天震力が漏れ出るのが分かった。天震力を完全に制御できていないのだ。


 暴竜ベルゴナも天震力に気付いたようでホーンサウルスの肉から口を離す。それによって狙いが少しズレた。粒子円翔刃は暴竜ベルゴナの腹を切り裂いた。


 その腹から真っ赤な血が噴き出すと同時に、耳を圧する咆哮が周囲に響き渡る。追撃の粒子円翔刃を撃ち出そうとした時、ベルゴナが突進してきた。そして、粒子装甲で覆われた身体が鞭のような尻尾で叩かれ、弾き飛ばされる。巨木の枝をへし折りながら飛んだ私は、地面に叩き付けられた。


 倒れている私に向かってドスドスと足音を響かせながら近付く暴竜ベルゴナに気付き、急いで立ち上がって粒子円翔刃を撃ち出す。


 狙いが逸れて粒子円翔刃は暴竜ベルゴナの肩を切り裂いた。暴竜ベルゴナが血を噴き出しながら麻痺ガスを口から吐き出した。


「まずい」

 私は必死で後退して麻痺ガスを避ける。粒子装甲があるので、ガスマスクを着けられない。だからと言って粒子装甲を解除する気にはなれない。走り回って麻痺ガスを回避した私は、暴竜ベルゴナの足に向かって粒子円翔刃を放つ。


 足への攻撃は暴竜ベルゴナも予想していなかったようだ。あたふたする暴竜ベルゴナの右足を粒子円翔刃が切断した。地響きを立てて倒れた暴竜ベルゴナの頭に、粒子貫通弾を撃つ。


 直径が百二十センチもありそうな頭に八センチほどの穴が開いた。人間なら即死間違いなしだが、暴竜ベルゴナは死なずに暴れた。そこで三連発の粒子貫通弾を巨大な頭に撃ち込んで仕留めた。


「ふうっ、やっぱり暴竜ベルゴナは手強い。だけど、仕留められたという事は、私の実力も一人前に達したという事だな」


 返事をしてくれる相手が居ないのは寂しい。サリオの事を考えていると何かが近付いてくる気配を感じ、倒れている暴竜ベルゴナの死骸を異層ペンダントに収納した。


「チェッ、モンスターじゃなく人間じゃねえか」

 現れたのは同じ屠龍猟兵のようだった。但し、ワータイガー族と呼ばれる虎人間の種族だ。このワータイガー族は粗暴で問題をよく起こす事が知られており、近付かない方が無難だろう。


「あんた、暴竜ベルゴナを見なかったか?」

「見た。だが、もう居ない」

 そのワータイガー族がギラギラする目をこちらに向ける。

「強そうには見えないが、あんたが倒したのか。見掛けによらないんだな」


 余計なお世話だ。歳のせいで顔にシワやたるみがあり、弱そうに見えるらしい。御蔭で偶に見下される事がある。本気で長命化処置を受けようかな。


「私の狩りは終わったので、失礼する」

「屠龍猟兵らしくないな。あんた、名前は?」

「ランクDのゼンだ。君は?」

「俺はランクCのゼデッガーだ」


 ゼデッガーの身長は二メートルほどで、体重は百二十キロもありそうだ。顔が虎そっくりなので迫力がある。


 ゼデッガーと別れた私は、屠龍猟兵ギルドに行って暴竜ベルゴナの解体とブレスレット型の異層ボックスを製作依頼した。ちなみに、龍珠以外は換金したので異層ブレスレットの製作費を差し引いた百五十万クレビットが口座に入金された。


 私が二つ目の異層ボックスを作るのは、最初のものは遷時空跳躍フィールド発生装置とルオンドライブ、それに使用していない整備ロボットを保管するために使用しているからだ。倒した獲物を収納するため、専用のものがもう一つ欲しかったのである。


 容量だけを考えても、一緒に入れられるのは暴竜ベルゴナがギリギリだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る