第242話 ワーキャット族との契約

「ゼン閣下。あの石柱ムカデは、クルジンが仕組んだ事だったのですにゃ?」

 オセアコロニーの代表であるムローンが確認してきた。その顔を見てペルシャ猫に似ていると思った。


「この映像データは、フェイクではありませんよ」

「信じます。ただ善意で教えてくれた訳ではにゃいでしょう。目的は何ですか?」


「駆け引きは好きではないので、簡潔かんけつに言います。惑星キオアをデルトコロニーに売るか、共同開発の契約を結んでもらえませんか。そうすれば、この問題を解決して差し上げます」


 ムローン代表が、嘘ならば見破ろうという目を向けてきた。当然の事だろう。

「クルジンより、ゼン閣下が信用できるという保証はありません」

「私がナインリングワールドへ来てから、何をしたかを調べてもらえれば、信用できると分かるはずです」


「分かりました。ですが、すぐには決められません。時間を頂きますよ」

「もちろんです。お渡しした映像データも念入りに調べてください」


 ムローンが頷いてから真剣な顔になる。

「一つ聞いても良いですか?」

「何でしょう?」

「以前からクルジンの動きを監視していたのですか?」

 そう聞かれた私は苦笑いした。


「ええ。クルジンは、何度もデルトコロニーにちょっかいを出してきましたから、用心のためです」

「にゃるほど、ヒューマン族は用心深いのですね」

「相手がクルジンだから、用心しているのです。誰にでも偵察艦を派遣して見張るような事をすれば、コロニーの財政が破綻はたんします」


 それからムローンと情報交換した。惑星キオアの状況は厳しいようだ。ガリチウム採掘事業の一環で造り上げたドーム状の街が完全に孤立しており、オセアコロニーの戦力では石柱ムカデを倒せないという。


 ワーキャット族は地道に惑星キオアの調査を行ってガリチウムの鉱脈を発見したようだ。その調査にも膨大な資金と人材を投入したので、それを無駄にする事はできないだろう。


 私は屠龍戦闘艦カズサに戻り、ワーキャット族がどう決定するか待つ事にした。それから連れてきた子供たちと一緒にオセアコロニーを観光しながら時間を過ごした。


 三日が経過した時、ムローン代表から連絡があった。会いに行くと共同開発する契約を結ぶ事に決定したようだ。惑星キオアの開発は、正式に手続きして共同事業という事になった。


「ゼン閣下、石柱ムカデはどうするのです?」

 ムローンが質問してきた。

「私と屠龍戦闘艦カズサで、倒せると考えています」

「そうでした。ゼン閣下は魔導師でしたね。しかし、デルトコロニーの軍は使わにゃいのですか?」


「宇宙モンスターを相手にするなら、軍艦より屠龍戦闘艦の方が適しています。問題は、その後です」

「というと?」

「失敗したと分かったら、クルジンとワーラクーン族が次の手を打とうとするでしょう。その前にクルジンだけでも、何としないと……」


「何か手があるようにゃご様子にゃので、ゼン閣下にお任せします。我々は惑星キオアに取り残された者たちを助ける準備を始めます」


 共同開発する契約も終わったので、カズサでデルトコロニーに戻ってジャロル星系へ行く準備をした。今回同行するのは、レギナとスクルドだけだ。サリオは子供たちを世話をするために残る事になった。


 ナインリングワールドからジャロル星系は、それほど離れていないのでカズサの性能だと二日で到着する。ジャロル星系に到着したカズサは、惑星キオアを目指して飛んだ。


「ゼン、石柱ムカデを倒せるの?」

 レギナが質問してきた。

「艦首砲が命中すれば、石柱ムカデを倒せると思う」

「あの背中の武器は?」


「バリアで防げると思うけど、何発も撃ち込まれると厳しいかもしれない」

 狙い撃ちされないようにランダムな軌道で近付き、一気に仕留めるしかないだろう。


 数日掛けて惑星キオアまで行った。

「慣性力抑制装置もあるんだから、大推力のエンジンが欲しいな」

 私の言葉にレギナが笑う。

「カズサの大加速力場ジェネレーターは、十分強力なエンジンだと思うけど」


「それでも外縁部から、惑星キオアまで二日半ほど掛かるからな。希望としては一日で到着できるほどの推力が欲しい」


「ゼンが、天震力を使って加速すれば、それくらいの時間で到着するんじゃない?」

「まあ、そうだけど。そうなると私が天震力を大加速力場ジェネレーターに注ぎ続けないといけない。寝ていても到着するのが理想なんだ」


「文明レベルAの軍艦の中には、そのくらいのスピードを出せる船がある、と聞いた事があるわ」

 レギナはデルトコロニーの軍事担当になってから、様々な種族の軍事力を調べたので知っていたのだ。


「アステリア族の船なら、それくらいの推力があったかも」

 スクルドが言った。

「そうかもしれないな。これが終わったら探してみよう」


 惑星キオアに近付き、その衛星である宇宙ステーションから石柱ムカデが飛び出してきた。カズサに気付いたのだ。石柱の形状になって加速した後、ムカデの戦闘モードになって背中の砲塔を動かし始める。


「バリアを強化する」

 バリアへのエネルギー供給を増やし、ランダムな軌道を描くようにスクルドに指示する。それから艦首砲管制室へ向かった。


 艦首砲の照準作業を始めたが、もう一歩のところで石柱ムカデに先を越された。石柱ムカデの二十門ほどある砲塔が一斉に発射されたのだ。気付いた時には、青白い光線がカズサのバリアに命中していた。強化したはずのバリアが揺らぎ、二本の光線がカズサの船体に突き刺さった。


 カズサの内部で爆発が起き、船全体が大きく揺さぶられる。

「被弾、大加速力場ジェネレーターが損傷よ」

 スクルドが大きな声を上げた。

「まずい。ゼン、攻撃を中止して、天震力ドライブでカズサを動かして」

 レギナが叫んだ。

「了解、攻撃はレギナに任せる」

 決して油断していた訳ではない。ただ想像以上に石柱ムカデが装備している武器の射程が長かったのだ。


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