第195話 デルトコロニーの急速な発展

 女王ギガアントの龍珠を加工する作業は、神経を擦り減らす難しいものだった。この作業だけで何キロも痩せたような気がする。


 龍珠製の主要部品が完成したが、それだけで星間ネットワークアクセス装置が完成した訳ではない。他の部品を購入したり、作製したりしてから組み立てる作業が必要だった。そういう作業が終わって完成するまで一ヶ月掛かった。これでも驚くほど早いのだ。


 完成して星間ネットワークに繋げるのに、毎月八十億クレビットが必要だと分かる。ナインリングワールド全域をカバーする星域ネットワークは月額二十億クレビットなのに、星と星を繋げる星間ネットワークが月額八十億クレビットというのは安いと思った。


 調べてみると理由があった。星間ネットワークはもの凄く遅いのだ。超光速が可能な遷時空スペースを使った通信だと言っても、星と星の間に広がる空間は広大である。それだけ時間が掛かるのは理解できる。ただ天神族が使う星間ネットワークは、比べ物にならないほど速いそうだ。


 他の星の情報が入り始めると、分析班が必要になったので新設した。サリオはその分析班に故郷のコラド星系と避難民が居るタリタル星系の情報を収集するように指示した。


 すると、コラド星系を奪い取ったゴブリンのゴヌヴァ帝国の活動が活発になっているという情報が入ってきた。


 それを聞いたサリオが不安そうな顔で私のところへ来た。

「ゼン、ゴヌヴァ帝国は何を企んでいると、思いましゅか?」

「近くの星に、戦争を仕掛ける気なのかもしれない」

「まさか、クーシー族が避難しているタリタル星系でしゅか?」


「それはどうだろう? 活動が活発化しているのは、タリタル星がある宙域じゃない」

「だとしたら、どこでしゅ?」

 私は活発化している宙域のデータを調べ、ゴブリンが狙っていそうな星を探した。

「活発化している辺りに、ヒューマン族の星がある」


「モラタス星でしゅね。モラタス星人は文明レベルDの星だったはずでしゅ」

 ゴブリンたちが狙う獲物として考えると、文明レベルDというのは手頃である。ゴヌヴァ帝国は現在六つの星を支配している帝国だ。それほど大きな帝国になれたのは、滅んだ種族の科学技術をあさって軍事力を増強してきたからだと言われている。


「コラド星系に戦争を仕掛けた時には、三つの星を支配している帝国だったのに、今では六つ星を支配していましゅ。このまま大きくなるとタリタル星系も危ないでしゅ」


 クーシー族が避難しているタリタル星の第二惑星ロドアでも、不安が広がっているようだ。デルトコロニーに移住したいと希望する者が増えている。


 私とサリオは話し合い、タリタル星で何かあった場合には、手を打てるように準備する事にした。


 サリオが故郷の星の情報を集めたように、私も太陽系の情報を集めた。但し、太陽系に似ている星は数百個もあり、その中から絞り込む作業となるので時間が掛かりそうだ。


「ゼン、故郷は見つかりそうなの?」

 レギナが質問してきた。

「まだ絞り込む段階だよ。これが数十個までに絞り込めたら、実際に調査に行くつもりだ」


 レギナが頷いた。

「その時は、一緒に行くよ」

「ありがとう」

 レギナが私の事を気遣ってくれているのが嬉しかった。


「でも、数十個の星を調査するとなると、大きな資金が必要になるけど、大丈夫なの?」

「金は何とかする」


  ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 その頃、スクルドは陸亀型ロボットのクベーラと話していた。

「マスターの資産運用は、どうなっている?」

「最初の四十五億クレビットが、二兆三千億ほどになっています」


 クベーラは資産管理用人工知能を搭載している。この人工知能は、文明レベルAの技術を使って作られたものなので、ナインリングワールドで使われている一般的な資産管理用人工知能より高い性能を持っていた。


「二兆三千億クレビットですか。まだまだね」

「まだまだというと、どれほどの金額を目指すのですか?」

「ナインリングワールドで一番の資産家を目指すわ」


「しかし、それを実現するには、芯部領域にあるスペースコロニーの株式市場に、参加できないと難しいです」


 芯部領域のスペースコロニーというと、第一小惑星帯から第三小惑星帯にある文明レベルBクラスの種族たちが運営している。その株式市場に参加するには、文明レベルが『C』になる必要があった。


「デルトコロニーは、文明レベルD。もう一つアップする必要があるわね」

「容易ではありません」

「マスターなら、やるわ。実際の技術レベルは、すでに文明レベルCを超えているわ。ところで、ナインリングワールドで一番の資産家は誰なの?」


「鬼人族のジェルド家です。資産額は二千四百五十六兆クレビットになります」

「ちょっとした星系国家の年間予算に、匹敵するわね」

「デルトコロニーの予算を基準として考えると、百年分くらいになります」


「今のデルトコロニーだとそうだけど、十年後はどうかしら?」

 デルトコロニーが持つ主力産業は、惑星ツカールの資源採掘事業とクーシーエンジン社の造船業である。クーシーエンジン社は、元々航宙船のエンジンを製造販売する会社だったが、造船事業にも手を広げている。なので、近々『クーシー造船』に社名を変更する予定になっていた。


「資源採掘事業が凄い勢いで伸びている上に、新スペースコロニーが完成すれば、デルトコロニーは大きく発展します。但し、問題もあります」


 クベーラがそう言うと、『分かっている』というようにスクルドが頷いた。

「人材不足ね」

「そうです。それだけの規模がある国家を支える人材が足りません」

「本来なら少しずつ発展するのに、あまりにも急速に発展した弊害へいがいね。その件については、マスターと相談してみるわ」


「ところで、運用資産について、ロード・ゼンに報告しないのですか?」

「ナインリングワールドで一番になったら、報告するつもりよ。その時のマスターの驚く顔を想像すると楽しみだわ」


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