第163話 天神族の空間

 その調査船は、コルベット艦ほどの大きさで武装していた。だが、エンジン部分が破壊されており、二度と飛行できないようだ。


「スクルド、あの調査船は何に破壊されたのだと思う?」

「巨大コガネムシね。虫にかじられたような痕があるわ」

「なるほど。武装調査船程度じゃ、あの数のモンスターを駆除できなかったか。生き残りは居るのだろうか?」


「偵察ドローンで調査しましょう」

 そうだなと思った私は、多数の偵察ドローンを放った。この偵察ドローンはデルトコロニーで製造したもので、アキヅキに設置されている大容量異層ストレージに百機ほど仕舞われている。その百機の中から五十機を偵察に向かわせたのだ。


 偵察ドローンから送られてくる映像を、メインモニターを五十分割して映し出す。

「二十三号が、見付けたわ」

 影像の一つに宇宙服を着た豹人族の姿が映っていた。

「調査団の方ですね?」

 偵察ドローンを介して通信すると、その人物が頷いた。

「調査団のローミスだ。あんたは誰だね?」


「魔導師のレオ殿と協力して、調査船を探してる者です」

「えっ、あの『幻豹』も来ているのか?」

「いいえ、レオ殿はこの空間の外で待っています。生き残りは何人です?」

「生き残ったのは、六人だけだ」

 その声には苦いものを噛み締めている響きがあった。


 生き残りをアキヅキに収容する事にした。壊れた航宙船は不安だったのだ。アキヅキに移乗してきた生き残りの中には、レオの知り合いである研究者イオハの姿もあった。


「レオが来ているというのは、本当にゃの?」

 リビングで安堵した表情を浮かべたイオハが尋ねてきた。

「本当です。但し、この空間の外で待機しているはずです」

「それにゃら、何か手を打ってくれるかもしれにゃいわね」

 レオの顔を思い出し、疑問に思った。レオは次々と手を打って問題を解決するタイプではない。


「この空間は、どういうものか分かったのですか?」

「天神族が何かの目的のために、用意した空間だというのは分かったわ」

「何か天神族のものを、見付けたのですか?」

「ええ、この空間の中央に、アウレバス天神族が建設したと思われる施設を見付けたわ」


 私は首を傾げた。その施設が、どうしてアウレバス天神族のものだと分かったのか、不思議だったのだ。それをイオハに確認した。


「簡単よ。その施設にはアウレバス天神族のマークが、刻まれていたの」

「そんな簡単な事だったのか。その時は、まだ調査船が飛べたのですね?」

「ええ、もっと詳しい調査をしようとした時に、虫型モンスターの群れに攻撃されたわ。ところで、外に出られるのですか?」


 それが一番の問題だった。

「分かりません。調査船は、どういう状況でここに入ったのです?」

 イオハの説明によると、調査船に搭載されていた空間構造探査装置を作動させた時に、空間が光りだして引き摺り込まれたようだ。


「我々の時と同じですね。やはり空間構造探査装置が切っ掛けなのか。空間探査波に天神族の施設が反応したという事か」


 この空間から脱出するには、天神族の施設を調べる必要があるようだ。その施設に近付いても危険はないとイオハは言った。但し、中はどうなっているかは分からない。


 我々はまず他に危険がないかを確認する事にした。レーダーに引っ掛かった人工物の調査を続けるという事だ。残りの人工物は輸送船や戦闘艦の難破船で巨大コガネムシに破壊されている。


 戦闘艦は文明レベルCのものだったので、特別興味を引くものはなかった。ただ遷時空跳躍フィールド発生装置とルオンドライブが残っていたので回収した。


「この空間では、遷時空跳躍フィールド発生装置が使えなかったのだろうか?」

 頭に浮かんだ疑問を口にすると、スクルドが答えをくれた。

「遷時空跳躍フィールド発生装置が使えたとしても、遷時空跳躍フィールドを潜るには、バーチ1のスピードが必要よ」


 この空間は直径が百二十キロほどある。グルグルと旋回しながらスピードを上げるのも限界があるので、バーチ1のスピードにまで加速するのは難しそうだ。


「バーチ1より遅いスピードで、遷時空跳躍フィールドに突入したら、どうなるんだろう?」

「フィールドに跳ね返されるそうよ」

 凄いスピードで突入して跳ね返されたら、その航宙船は凄まじい衝撃を受けるだろう。想像したくもない。


「スクルド、どう思う?」

「方法は二つね」

「詳しく教えてくれ」

「天神族の施設は、空間探査波に反応して通常空間とこの空間が繋げるようだわ。その方法で空間に穴を開けてアキヅキを脱出させる、というのが、方法の一つね」


「だけど、アキヅキのパワーだと脱出できない」

「もちろん、アキヅキのパワーアップは必要よ」

 私は納得して頷いた。

「もう一つは?」


「天神族の施設を調べ、その制御方法を解明するのよ。そうすれば、簡単にここから出る事ができるかもしれないわ」


「一つ目は、アキヅキを改造するのに時間が掛かりそうだ。二つ目から試してみよう」

 アキヅキを空間の中央にある天神族の施設に近付けた。それは金属で出来た巨大な卵型だった。一番長い部分で百八十メートルほどあるだろう。


 そして、縦に立てた卵と考えた場合、頂点部分に入口らしいものがあった。

「あそこから入るらしいけど、ロックが掛かっているのかな」

 イオハに確かめてみると、中に入ろうとした時に巨大コガネムシに襲われて逃げたので、確かめていないという。


 まず偵察ドローンで確かめてみたが、扉のようなものがあるだけでロックを解除するような装置はなかった。ただ攻撃される事もなかったので、私はイオハと一緒に直接調べる事にした。


 MM型機動甲冑を着装し、宇宙服を着たイオハと一緒に天神族の施設に移動する。そして、扉の近くまで行った時、私の精神がチェックされるのを感じた。


 それは私が使う意識フィールドのようなもので精神を撫でられるような感じだった。それが天神族のゾロフィエーヌによって形成された精霊雲を確認した瞬間、扉がスッと開いた。


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