第162話 巨大コガネムシ
レーダーで人工物の位置を確かめながら進み、人工物を一個ずつ確かめる。最初のものにアキヅキの照明を当てると、それが古い貨物船だと判明した。
「違ったか。次を探そう」
それから次々に人工物を確かめていった。そして、五つ目の人工物を確かめた時、それが都市宇宙船だと分かった。全長三十キロほどの船体の上に半透明なドーム状のものがあり、その内側に建物のようなものが見える。
「これが都市宇宙船なのね」
スクルドが巨大な宇宙船を見詰めながら言った。
「船腹に大きな穴が開いている。これは難破船だろうな。時間があれば、調査してみたいところだけど、次を確認しよう」
アキヅキを次の人工物に向かわせた。それを見た私は首を傾げた。直径が百三十メートルほどの銀色に輝く球体だったのだ。
「これは船なのか?」
エンジンらしいものもないので、船かどうかが分からなかった。その時、格納庫に居た船幼虫のウェスタが騒ぎ始めた。その直前までウェスタもアキヅキのカメラが撮影した映像を見ていたはずだ。だが、銀色の球体を見た瞬間、猛烈な勢いで外に出ようとする。
私は通信機経由でウェスタに問い掛けた。
「ウェスタ、どうした?」
【あれ、美味しいもの】
「ちょっと待て、こっちでも調べてみるから」
急いで偵察ドローンを出し、その球体を調べさせた。すると、それがアバナイトと呼ばれる地球では未発見の金属だと分かった。
「アバナイトは耐熱性が高く頑丈なので、アキヅキのエンジンにも使われているわ」
スクルドの説明を聞いた直後、ウェスタが勝手に格納庫の扉を開けて外に出た。
「あっ。ウェスタ、勝手に外に出るな」
私が言った時には、ウェスタがアバナイトの球体に向かって一直線に飛んでいた。
「よほど食べたかったようね。マスター、どうしますか?」
スクルドが質問してきた。
「ああなったウェスタは、言う事を聞かないからな」
幼いウェスタは、まだ自分の欲求を我慢するという事ができないようだ。但し、私がパートナー権限を使って頼めば別である。
「すぐに満腹して、戻ってくるはずだ」
ウェスタが満腹になるのを待っていると、二十分ほど経った頃に球体からウェスタが飛び出してきた。その直後にウェスタを追い掛けるように多数の何かが放出された。
「何だ?」
スクルドが正体不明のものを調べ始める。メインモニターにそれが拡大されて映し出された。
「これは虫なのか?」
巨大なコガネムシのようなモンスターだった。それが数百という数の集団になってウェスタを追い掛けている。ただ巨大と言っても体長が五十センチほどだ。
ウェスタの方が大きいのだが、数が違う。
「戦闘用意。ウェスタから離れているモンスターから攻撃する」
三連装パルスレーザー砲で迎撃するようにアキヅキの制御脳に命じた。ウェスタの後方から追ってくる虫型モンスターに向かって攻撃が開始された。
レーザー光が命中した巨大コガネムシは、身体に穴が開いて宇宙空間を漂い始める。
「よし、仕留められる」
六基ある三連装パルスレーザー砲の中で、巨大コガネムシが迫ってくる方向とは反対側に設置されている一基を除く五基がフル稼働して巨大コガネムシを駆逐していく。
ウェスタがアキヅキに戻ってきた。そして、通信機で【怖かった】と伝えてくる。私は苦笑してから安全確認しないで行動するからだと注意した。
「三連装パルスレーザー砲を、倍くらいに増やすべきね」
「そうだな。でも、バリアを展開すると使えなくなるのが欠点だ」
バリアは防御に欠かせないものだが、欠点もある。それは内側からの攻撃も遮ってしまうという事と、レーダーが効かなくなるという事だ。
そんな事を考えていると、巨大コガネムシの数が十数匹にまで減っている。だが、アキヅキの近くにまで迫っていた。その時、巨大コガネムシが何かを発射した。それがアキヅキの船体に命中して爆発。こいつはモンスターのくせにスペース機関銃のような武器を使うらしい。
「バリア展開」
命令を出すと瞬時にバリアが展開された。巨大コガネムシの攻撃はバリアが受け止めた。
「ふうっ、攻撃を垓力波統砲に切り替える」
バリアを張ったまま攻撃するにはいくつかの方法がある。その中で一般的なのが攻撃方向のバリアを一部だけ解除し、そこから攻撃する方法だ。
アキヅキのバリアにも一部だけ解除するという機能があったが、それに対応している攻撃は主砲である三十光径荷電粒子砲と四門の垓力波統砲だけなのだ。三連装パルスレーザー砲は連射速度が速すぎてバリアの制御が間に合わない。
垓力波統砲を使って生き残っている巨大コガネムシを駆逐し、アキヅキをアバナイトの球体に近付けようとすると、ウェスタが連絡してきた。
【ダメ、あの中、大きいの、居る】
「大きいの……もしかすると、女王みたいなやつか」
スクルドがこちらに目を向けた。
「どうするの?」
「離震レーザーを試してみようかな」
「それはダメよ。あの球体が爆発してしまう」
スクルドはアバナイトの球体を回収するつもりのようだ。
「なら、離震月牙刃を使おう」
「それがいいわ。早く出撃して、その球体に撃ち込んで」
マスターの私に指示を出すロボット、おかしくないか?
「不服そうな顔をしているけど、急がないと女王のモンスターが出てくるわ」
スクルドが急がせた御蔭で、女王が出てくる前に外に出て攻撃の準備を終わらせる事ができた。球体の表面に内側から穴が開き、女王が顔を覗かせた。その瞬間、離震月牙刃の準備が完了していた。
「行け!」
天震力を圧縮して五メートルの刃を形成した上に『離震の理』をプラスした離震月牙刃を、女王の頭を目掛けて放つ。微かに青紫色の光を放つ離震月牙刃が女王の頭に命中した。
頭を真っ二つにされた女王は、『出てくるのを待つのが、パターンだろ!』と怒っているように見えた。……たぶん気のせいだ。取り敢えず、偵察ドローンを球体の内部に入れて調査させた。すると大量の卵が発見されたので、全て焼き払い全滅させた。
それからアキヅキに設置してある大容量の異層ストレージを作動させ、アバナイトの球体を収納する。巨大コガネムシがどこからアバナイトを集めて巣を作ったのかという謎は残ったが、時間がある時に研究してみよう。
アキヅキに戻って格納庫を覗いてみると、ウェスタが寝ていた。満足するまで食べたので嬉しそうだ。ブリッジを戻ると、次の人工物を確認するために移動する。
「あっ、調査船だ」
探していた調査船を発見した。だが、通信しても応答がない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます