第157話 もう一つの四等級魔導技

 デルトコロニーの文明レベルが『D』に変わってから、三ヶ月が経過した。その間に何事も起こらず、ブラッド同盟の総選挙も無事に終わった。


 私が気にしていたクルジンは、以前と同じ幹部という地位を維持できたそうである。本当に残念だ。この三ヶ月間で何をしていたかというと、人材の拡充と防衛システムの構築工事、それに農業コロニーの整備を行っていた。


 人材はクーシー族やブルシー族、青鱗族を中心に募集し、デルトコロニーの人口は十三万人にまで増えた。青鱗族が三万人ほどに増えた御蔭で、デルトコロニーと連結した農業コロニーの整備が進んだ。


 デルトコロニーの主要産業の一つになっているスラ肉は、改良が進んでやっと豚肉の味を再現できた。その結果、スラ肉は以前以上の評判となって注文が殺到した。


 構築した防衛システムの第一期は、この宇宙に多数棲息する宇宙クラゲなどの群れるモンスターに対応するものである。具体的な内容は、三連装パルスレーザー砲三百二十六基をデルトコロニーに設置するという工事で、無事に終了した。


 その三つがデルトコロニーのロードとして行ったもので、魔導師としても新しい魔導技を開発しようと努力した。


 だが、思考の袋小路に入ってしまった。何か良いアイデアが浮かぶかもと思い、ロードパレスの壁に向かって逆立ちをする。頭に血が集まれば、回転が早くなるかもとやってみたが、やはりダメだった。


 そこにサリオが入ってきた。

「ゼン、何をしているのでしゅか?」

「魔導技のアイデアが、何か浮かぶかもしれないと思って逆立ちしてみたが、ダメだ」

「地球人は、そういう姿勢を取ると、アイデアが浮かぶんでしゅか?」

「そういう地球人も居るんだ」


 サリオが少し驚いたような顔をする。

「そうなのでしゅか。珍しい種族でしゅね」

 地球人に関するイメージに悪い影響を与えてしまっただろうか。まあいい。


「新しい魔導技というと、クリムゾンレーザーを参考にしようと言って、開発していたものでしゅね?」

「そうだ。どうしても高次元の軸方向に震動するエネルギーというのが、イメージできなくて開発が止まっているんだ」


「以前に、『離震ブレード』や『離震月牙刃』という魔導技を創ったじゃないでしゅか。同じではないのでしゅか?」


「その二つとは違う。『離震月牙刃』などは、『離震の理』という公式、いや仕組みがあって、それに天震力を注ぎ込めばできたんだ。でも、今回は新しい仕組みを最初から構築しなければならない」


「魔導技というのも、難しいものなのでしゅね」

「そうなんだよ」


 サリオが少し考えてから、一つの提案を口にした。

「……情報支援バトラーに、高次元立体モデルを作ってもらったら、どうでしゅか」

「えっ、情報支援バトラーは、そんな事もできるのか?」

「できましゅ」


 私は頭の中に存在する情報支援バトラーに、いくつかの条件を出して高次元立体モデルを作るように命じた。それは高次元の軸方向の存在が、ボソル感応力で感じる情報として作られたものになった。


「これは、キツイ」

 情報支援バトラーが作った高次元立体モデルは、私の脳に大きな負荷を掛けた。本来なら感じるはずのないものが、三次元の情報と一体となり脳内に浮かび上がったのだ。


 初めは脳が拒否した。だが、高次元立体モデルの観察を続けると、高次元のものを認識できるようになった。これは種としての進化にあたいする画期的な事なのだが、それに気付いたのは相当後になってからだった。


 そうなると新しい魔導技の開発が進み始めた。この魔導技は天震力を三十光径のレーザー光に変え、それに離震軸と名付けた高次元の方向に振動するエネルギーを込める事で、威力を上げるというものだ。


 完成した新しい魔導技を『離震レーザー』と名付けた。外宇宙に向かって発動し、発動が成功するところまでは確かめている。ただ威力は確かめていなかった。


 デルトコロニーの近くで実験する場所はなかった。以前はアムダ鉱星の空洞で魔導技を試したが、今度の魔導技はアムダ鉱星を破壊するほど強力かもしれない。


「スクルド、アキヅキを出す。操縦してくれ」

「いいけど、何をするのよ?」

「新しい魔導技を試せる場所へ行く」

 私とスクルドは、アキヅキに乗って小惑星が集まっている宙域に向かう。そこは外宇宙と呼ばれる宙域で、恒星の光もほとんど届かない。


 暗い宇宙の中に直径二百メートル以上あるような小惑星が多数浮かんでいた。

「外に出る。少し離れて見ていてくれ」

「心配性すぎるんじゃないの? 標的の小惑星からかなり離れているわよ」


 私は肩を竦めてからMM型機動甲冑を着装して外に出た。アキヅキが後ろへ離れていく。私は魔道装甲を展開してから、一つの小惑星に狙いを付けた。直径が五百メートルほどの岩石小惑星だ。


「これから威力テストを始める」

「了解」

 通信機での会話が終わると、開放レベル2で天震力を取り込む。それは大型核融合炉にも匹敵するエネルギーだ。そのエネルギーの一部をレーザー光へと変換し、それに残りの天震力を離震軸に沿って振動するエネルギーに変換すると注ぎ込む。


 最初は黄色のレーザー光だったものが、紫色に変わって小惑星へと突き進んだ。その離震レーザーが小惑星に命中した瞬間、岩石が分解して原子になり、その一部が崩壊して熱と光に変わる。


 強烈な爆発で小惑星が粉々になった。その余波は放射熱と強烈な光となって展開した魔導装甲にも届く。しかも光圧で魔導装甲が押されて後ろに弾かれた。


「スクルド、記録したか?」

「記録したわよ。とんでもない威力だわ」

 この威力なら巡洋艦のバリアも突き破りそうだ。ただ連射できるような魔導技ではないので、使うタイミングは慎重に考えなければならないだろう。


 その後も何度か離震レーザーを試し、その威力を検証した。


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