第191話 女王ギガアント

「女王ギガアントかよ」

 ギガアントの女王であるモンスターは、全長が十八メートルほどだろうか。スクルドが、こいつの龍珠が欲しいと言っていたのを思い出した。


 このモンスターは脅威度5の惑星モンスターだと評価されている。宇宙モンスターの巡洋サーペントよりは弱いが、狭い空間での接近戦になるのでリスクは高い。


 女王ギガアントが地響きを立てながら近付いてくる。反射的に強化粒子円翔刃を女王ギガアントに向けて放つ。ボソル粒子を圧縮してリング状に形成した刃が、女王ギガアントに命中して弾かれた。


「さすが、脅威度5というところか」

 冷静に判断するべきだと思いながら、有効な戦術を模索して頭は高速回転していた。強化粒子円翔刃がダメなら、離震月牙刃かフェアリーアームズを試すべきだろう。


 久しぶりにフェアリーアームズの流星スピアを取り出した。その時、女王ギガアントが金属同士を擦り合わせるような不快な音を出し始める。何をするつもりだと考えているうちに、その音が轟音へと変わる。それは破壊的な音になっていた。


「ううっ」

 頭が割れるように痛い。私は必死で魔道装甲を強化しようとした。だが、頭の痛みで集中できない。こんな状態では魔導装甲の調整などできない。私は天震力を流星スピアに注ぎ込み、女王ギガアントに向けてメテオシャワーを放った。


 天震力が数十本の槍を生み出し、女王ギガアントを目指して飛翔する。女王ギガアントは轟音を響かせるのをやめてメテオシャワーから逃げようとする。


 女王ギガアントは必死だったが、すべての槍を避ける事はできなかった。天震力で形成された三本の槍が、女王ギガアントの背中と足二本に突き刺さった。メテオシャワーの貫通力は凄いはずなのだが、それでも貫通できないのは女王ギガアントの外殻が頑丈だからだろう。


「はあはあ、キツイ攻撃だった」

 同じ攻撃を再び喰らいたくないので、魔導装甲を調整して音もシャットアウトする。女王ギガアントの様子を見た。ダメージを負っていたが、致命傷にはほど遠いようだ。


 女王ギガアントが怪我を無視して襲い掛かってきた。長い足が魔導装甲に当たって跳ね返される。普通なら騒がしい音がしているはずなのだが、魔導装甲が音を遮っているので中は無音だった。


 御蔭で冷静に女王ギガアントを観察する事ができた。その間にも強力で巨大なあごが魔導装甲を破ろうとするが、強化した魔導装甲が噛み付き攻撃を撥ね返した。


 女王ギガアントは頑丈そうな外殻に覆われているので、弱点となるのは大きな複眼と首くらいしかない。ただ女王ギガアントは巨体なのに動き回り、一瞬もじっとしていない。


 隙を狙っていると巨大な足が私を薙ぎ払おうと攻撃してくる。魔導装甲が受け止めたが、今回は掬い上げるように払われたので耐えきずに飛ばされた。持っている質量が違うので弾き飛ばされるのは仕方ない。


 宙を舞い壁にぶつかって落下。女王ギガアントがキョロキョロしているのに気付いた。私を見失ったようだ。チャンスだ。魔導装甲の筋力アシスト機能を使って女王ギガアントの側面に回り込む。そして、首を目掛けて離震月牙刃を発動する。


 大量に取り込んだ天震力の一部を圧縮しながら三日月型に形成し、残った天震力を高次元の離震軸に沿って振動するエネルギーに変換して三日月型の刃に注ぎ込み撃ち出した。


 青紫色に輝く三日月型の刃が音速を越えて飛び、女王ギガアントの首を切断した。動き回っていた女王ギガアントが止まり、巨大な頭部が地面に落下して転がる。続いて巨体が地面に横たわった。


 大きく深呼吸して息を吐き出す。

「ふうっ、酷い目に遭った」

 あの破壊的な轟音は、酷い攻撃だった。大気がある地上でしかできない攻撃手段だが、恐ろしい威力を持っていた。


 酷い目に遭ったが、これで星間ネットワークにアクセスできるようになる。サリオの故郷であるコラド星系や避難民が居るタリタル星系の事が気になっていたので、その情報が入手できるようになるのは嬉しい。


 女王ギガアントの死骸を異層ブレスレットに仕舞うと、ギガアントたちが守っていたらしい人工物を調べ始めた。その大きな空間に突き出している人工物というのは、巨大な機械装置の一部のようだ。


 私はカズサから持ってきた五機の偵察ドローンに調査するように命じた。ドローンが人工物の中に入り、調べ始める。その結果、その人工物は宇宙船だと分かった。


「墜落した宇宙船だったのか。この宇宙船とギガアントはどういう関係なんだろう?」

 その宇宙船は、かなり古いものだった。なので、生き残りの乗員は居ないようだ。全長は八百メートルほどで、宙域同盟に所属している種族の船ではない。


 なぜ宙域同盟に所属していないと分かったのかというと、使われている言語が独自のものだったからだ。宙域同盟に所属する種族は、公用語のガパン語を使うようになる。独自の言語も併用する事もあるが、全くガパン語を使わないという事は考えられない。


 ガパン語というのは、それだけ便利な言語なのだ。偵察ドローンによる調査を続けさせていると、金庫室のようなところを発見した。


「……お宝が、期待できるかも」

 私は急いで金庫室に向かった。その金庫室は頑丈な金属で造られており、生体認証システムで開くようになっていた。


 さて、どうしよう? 悩んでいると以前に作った『離震ブレード』という魔導技を思い出した。離震月牙刃を開発する前に、『離震の理』を確認するために実験的に開発したもので、天震力を刃の形にして離震軸に沿って振動するエネルギーを注ぎ込んだものだ。


 その離震ブレードを使って金庫室の扉を斬り裂いた。開いた穴から偵察ドローンを入れ、安全かどうかを確認させる。安全が確認されると私も中に入った。


 金庫室の中には、貴重な貴金属が溜め込まれていた。貴重なガリチウムのインゴットもあり、金やプラチナ、イリジウムやロジウムなどもあった。これだけの希少金属を換金すると、五百億クレビットを超えるかもしれない。


 それらの金属を異層ペンダントに仕舞う。他に何かないかと探すと、一番奥にある透明なケースの中に六枚のカードが飾られていた。そのカードはクレジットカードほどで、オレンジ色のガラスのようなもので作られているようだ。


 カードの内部には、文字のような模様が浮かんでいた。透明なケースを離震ブレードで真っ二つにすると、中のカードに手を伸ばす。そのカードに触れた瞬間、何かが頭の中に話し掛けてきた。


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