第155話 蒼鬼神

 待っていても中々宇宙港からの出港許可が下りないので、もっと情報を集める事にした。ある程度の情報が集まるとブリッジで話し合う。


「鬼人族は、航行している船を止めて臨検し、調べて少しでも怪しいと、乗組員を逮捕しているようでしゅ。特に乗組員や乗客の中に魔導師が居ると、逮捕されるようでしゅ」


 私自身が魔導師だから、外に出るのは危ないという事か。

「この騒ぎには魔導師が関係しているのだろうか?」

 サリオとレギナ、それにスクルドに質問を投げた。

「ヴォラドコロニーの宇宙港を攻撃したのは、魔導師かもしれないな」

 レギナが言う。


「どうして、そう思う?」

「攻撃された宇宙港に停泊していた船の乗組員が、証言している。外から赤いビームのようなもので、攻撃されたと」


 レギナの集めた情報は、攻撃で生き残った船乗りたちの証言だった。宇宙港から逃げ出して母港に帰った船乗りが、ネットに証言を上げているらしい。


「戦闘艦で宇宙港に近付き、攻撃して逃げるのは無理そうでしゅ」

 ヴォラドコロニーには立派な軍隊がある。フリゲート艦やコルベット艦が数隻というような小さなものではなく、駆逐艦や巡洋艦などが揃っている本格的な航宙軍だ。戦闘艦に攻撃されたのなら、それらの軍艦が黙っていないはず。


「だけど、宇宙港は頑丈に造られているものだ。それを破壊するには、地仙級以上の実力を持つ魔導師でないと、無理だぞ」


「ゼンは、地仙級なのでしゅか?」

「開放レベル2の天震力を扱えるようになったし、四等級魔導技も使えるから、地仙級かな」


 その時、座席の陰からサシャが飛び出してきた。そして、私を指差す。

「犯人は、あなたです」

 レギナが溜息を吐いてサシャを後ろからハグした。

「すまん。サシャはミステリードラマに嵌っているんだ」


 宇宙には様々な娯楽がある。その中の一つにネットで流れている二時間ほどのミステリードラマがあった。これはワーキャット族が数多くの作品を作っており、主人公の探偵役がワーキャット族という作品が多い。


 ちなみに、ナインリングワールドには、テレビというものはない。全ての映像作品はネット経由で見れるものになる。


 サシャはミステリーごっこをして遊んでいるようだ。

「ゼンは犯人じゃないぞ。犯行時間にアリバイがあるからな」

「む……振り出しに戻ってしまったのね」


 サシャが子供たちが居るリビングに行ってしまうと、また話を再開した。スクルドが端末を操作して魔導師を調べた。

「ナインリングワールドで有名な魔導師を調べると、『紅姫』『使徒』『幻豹』『蒼鬼神』というふたつ名が出てきたわ。この四人なら鬼人族に気付かれずに近付いて、宇宙港を破壊できそうよ」


「もう一人忘れていましゅ。ヴェルナさんなら可能でしゅ」

 サリオが一人付け足した。

「ヴェルナさんは、ナインリングワールドに来たばかりだ。ヴォラドコロニーの鬼人に恨みはないだろう」

 レギナはそう言ったが、複雑な事情があるのかもしれない。


「問題は、鬼人族の臨検がいつまで続くかだ。今は待つしかないかな」

 この状況が終わるまで待つしかないのかと思い始めた頃、鬼人たちの臨検が突然終わった。その御蔭で宇宙港から出ても良いという許可が下りたので、我々は急いでデルトコロニーへ戻る事にした。


 宇宙港を出てベイビスコロニーを離れようとした時、前方にエネルギー反応を観測した。

「ゼン、前方で何かが戦っていましゅ」

「宇宙モンスターか?」


「おかしいでしゅ。鬼人族の艦隊が何かを攻撃しているようでしゅが、その何かが見えません」

 私は感覚を研ぎ澄まして前方を探った。最初に天震力を漲らせた魔導師を見付け、その背後を探ると大勢の人間が乗る巡洋艦を感知し、次に何隻かの駆逐艦を感知した。


「ヤバイ、魔導師だ。例の魔導師と鬼人族の艦隊が戦っているんだ。離れるぞ」

 アキヅキを限界まで加速し、戦っている宙域から離れようとする。

「おかしい。鬼人族の艦隊が追ってくる」

 私の言葉を聞いたレギナが顔をしかめた。

「あの魔導師は、敵の戦力を分散させるために、我々を巻き込む気だ」


 戦術的には間違っていないが、こいつは外道だ。平気で一般人を巻き込んで犠牲にしようとしている。

「ゼン、どうする?」

 レギナが尋ねた。

「このままだと鬼人族と戦いに巻き込まれる。全力で逃げるぞ」


 我々は巻き込まれるのを避けるために、アキヅキのエンジンを全開にした。だが、まだあの魔導師の方が速いようだ。


「加速力場ジェネレーターを併用する」

「了解でしゅ」

 座席に座っていた我々に、強烈なジーが掛かる。


   ◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆


 鬼人族の軍艦と戦っていた蒼鬼神は、偶然見付けた航宙船を巻き込もうとした。だが、その航宙船は普通のものとは違ったようだ。


「クソッ、大人しく巻き込まれればいいのに」

 宇宙服の中でブツブツと文句を言う。その目は正常な者の目ではなかった。長い間、時空間黒点に捕らわれていた蒼鬼神の精神は狂気に侵されていたのだ。


「蒼鬼神、大人しく降伏しろ」

 宇宙服の通信機から声が聞こえてきた。

「五月蝿い。帰ってロード・ジェルドに伝えろ。『お前がやった事を公表してやる』とな」

 その瞬間、鬼人族の艦隊が一斉攻撃を始めた。


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