第193話 デルトコロニーへの帰還

 地底迷宮で手に入れたオレンジ色のカードを調べようとしたが、実際に使うしか調査する方法が見付からなかった。最初に試したカードは高等マギヌ教育システムⅢだった。調査した結果、カードは高等マギヌ教育システムのⅠ~Ⅵだという事が分かった。


 それにカード自体には問題がなく、ただの教育システムだと判明した。特別なのは中に詰まっている知識なのだ。

「ゼン、もう少し研究してから、試した方がいいんじゃないでしゅか」

 私が試してみると言ったので、サリオが心配したようだ。


「このカード自体は、思念を使った教育装置だと分かっている。これ以上の調査は実際に使ってみないと分からない。それに情報支援バトラーに監視させるから、おかしな事をしようとしたら、止められる」


 サリオは納得している訳ではないが、仕方ないというように頷いた。それを見て高等マギヌ教育システムⅠを使った。


 すると、大量の知識が頭に流れ込んできた。それは魔導師レオから習った小技マギヌや魔導アシスト機能の知識と似ていた。


 それらの知識を持っていた御蔭で、流れ込んできた知識がどういうものかが理解できた。メルモス星人のマギヌ技術は、精妙に構築された芸術のような技術だった。


 ほぼ宇宙全域に広がっている垓力を吸収する機能や、それを様々なエネルギーに変換する機能、変換したエネルギーを制御して仕事をさせる機能などがある。


「ゼン、大丈夫でしゅか?」

「ああ、大丈夫。頭がパンクしそうな感じがしているが、ゾロフィエーヌに三つの贈り物をもらった時と同じだ」


 ゾロフィエーヌの時は気絶してしまったが、今回は気絶するほどの衝撃はなかった。それだけ流れ込んだ知識の量が少なかったからだ。たぶん膨大な知識量を六つに分ける事で、人間が耐えられるように考えてあるのだろう。


「どんな知識だったのでしゅ?」

「具体的なマギヌの知識ではなく、垓力というエネルギーの基礎知識や、垓力サーキットと呼ばれるものを構築する技術だった」


「垓力サーキット? それは何でしゅ?」

「マギヌを使う時に構築する垓力構造体だ。これがないとマギヌは発動しない」

「それは、頭の中に構築しゅるのでしゅか?」


「小技マギヌ程度なら、頭の中に構築すれば十分だ。だが、メルモス星人のマギヌは、強力なので空間に垓力を使って構築する」


「どれほど強力なのか、調べてみたいでしゅね」

「凄いぞ。メルモス星人のマギヌなら、戦艦並みのレーザー攻撃が可能だ」

 このマギヌなら膨大なエネルギーを扱う事ができる。但し、垓力は無尽蔵と思えるほどの量があるが、垓力吸収サーキットで吸収できる単位時間当たりの量は限られているので、使える量は小型核融合炉から出力されるエネルギーほどになる。


 それで十分な気がするが、天震力と比べると少ない。但し、今までのマギヌと比べるとメルモス星人のマギヌは凄い。


 メルモス星人の垓力吸収サーキットを使うから、それだけ凄いマギヌが使えるのだ。レオが教えてくれた方法だと、その百分の一も使えなかった。


 レオが教えてくれた方法は、魔導師の間に広まっている一般的なものなので、メルモス星人が凄いという事になる。


 高等マギヌ教育システムのカードは、ⅠとⅡが基礎知識で、ⅢとⅣが開発方法に関する知識。個別のマギヌに関するものは、ⅤとⅥのカードの中にあった。


 サリオとレギナにマギヌの扱いについて相談した。

「マギヌは、ボソル感応力がある者しか扱えないのでしゅね?」

「いや、そうとも言えない」

「どういう事でしゅか?」


「マギヌの垓力サーキットを、機械に置き換える事も可能なんだ」

「という事は、僕も機械を使えば、マギヌが使えるのでしゅか?」

「そうだ」

「それなら、僕も研究してみましゅ」


「ソニャやパムに教えると約束したんだけど、どうする?」

「このまま教えるのは、無理だろう」

 レギナが言った。

「基礎的な知識がないから、カードを使っても理解できないと思う」

「それなら情報支援バトラーに、基礎知識を纏めさせればいいでしゅ。そして、子供たちに教えられる範囲を選んで、子供用の教育ソフトを作ればいいのでしゅ」

 サリオの提案に私とレギナは賛成した。


 そろそろ長期休暇は終わりである。惑星ボランではいろいろあったが、有意義な旅行になった。ちなみに、生体戦闘機に成長したウェスタたちは、惑星ボランの周辺に棲息している宇宙クラゲや凶牙ボールなどの宇宙モンスターを狩って楽しんだようだ。


 ウェスタたち生体戦闘機の武器は、垓力収束砲である。ウェスタたちはブルシー族に人気があるようで、どうやらブルシー族が垓力収束砲の事を教えたらしい。


 デルトコロニーへ帰還する間、我々はマギヌについて研究し、レギナは高等マギヌ教育システムを使って学習した。サリオには情報支援バトラーが纏めた情報を渡し、この技術をデルトコロニーの産業に活かす方法を考えてもらう。


「デルトコロニーが見えてきた」

 我々のデルトコロニーは、新スペースコロニーの建造が進んでおり、数多くの航宙船が飛び回っていた。


「何だかデルトコロニーの姿を見ると、ホッとしましゅ」

 サリオがしみじみと言う。それについては、私も同感だ。いつの間にかデルトコロニーが第二の故郷のような存在になっていた。


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