第160話 幻豹とゼン
その時、弟子のフュムが何かを思い出したという顔になる。
「師匠、海賊は連合の船ばかり襲っていたようですが、どうしてだか分かりましたか?」
レオが頷いた。
「ここの航路は、連合と鬼人連盟が主に使っている。その鬼人連盟から、鬼人連盟以外の船を襲え、と金をもらって依頼されたそうだ」
「つまりは、この宙域で鬼人連盟が何か画策していると?」
「そういう事だにゃ」
◆◆◇◇◆◆◇◇◆◆
デルトコロニーのロードパレスで仕事をしていると、『幻豹』という二つ名を持つ魔導師レオが訪ねてきたという連絡があった。
「あの『幻豹』が来たって」
私が食堂で知らせると、子供たちが首を傾げた。
「『幻豹』って何?」
頭の上にある猫耳をピクピクさせながらサシャが尋ねた。猫耳が反則的に可愛い。
「ナインリングワールドでは、有名な魔導師でしゅよ」
サリオが微笑みながら答えた。
「そんな有名な魔導師さんが、何しに来るの?」
「たぶん、ゼンに用があるのだと思いましゅ」
連絡では私に会いたいという事だったので、宇宙港に会いに行く事にした。初対面の人間を信用する事はできない。だから、ロードパレスに招待せずに宇宙港で会う事を選んだ。
真空チューブの中を移動するコミューターポッドに乗り、一人で宇宙港に向かう。宇宙港のほとんどは無重力エリアだが、人が常駐している場所とホテルには人工重力があった。
宇宙港のホテルに到着し、受付でレオの居場所を確認する。すると、レストランに居ると分かったので、そちらに向かった。
入口から中を見渡すと、豹人族は二人しか居なかった。その二人に近付いて、デブ、いやふくよかな豹人に顔を向けた。レオらしい豹人の前には、五人分くらいの料理が並んでいた。大食漢だな。
「魔導師のレオ殿ですか?」
豹というより熊のような体形の豹人が、こちらに視線を向ける。
「如何にも。もしかして、ロード・ゼンかにゃ?」
「はい。私に御用があるという事ですが、どのような事でしょう?」
「珍しいにゃ。ロードにゃのに腰が低い」
「ロードと言っても、新米ですから」
「謙虚にゃ事はいい事だ。ところでニコラコロニーの調査船が、行方不明ににゃったのは知っているかにゃ」
「ええ、ネットのニュースで見ました」
「僕の知り合いが、その調査船に乗っていた。そこで七不思議の『幽霊船』が、行方不明に関係しているのではにゃいかと考え、詳しい人物を探している」
「あれっ、海賊の仕業ではなかったのですか?」
「海賊を調べたが、関係にゃかった」
「だからと言って、なぜ私なのです。七不思議の研究者ではないですよ」
「弟子の調べで、『妖精工場』『メルバリー宙域』『モンスターコロニーⅡ』で、成果を得た人物が居ると判明した。それがロード・ゼンだったからだよ」
おかしい。『妖精工場』と『メルバリー宙域』はアキヅキやイノーガー戦闘艦をデルトコロニーに持ち帰ったところを見ていた者が居るから仕方ないが、『モンスターコロニーⅡ』の礎心水晶は知られていないはずだけど。
「『モンスターコロニーⅡ』での成果とは、何の事です?」
レオが料理を口の中に詰め込んでゴクリと呑み込む。
「誤魔化そうとしても、ダメだ。二つ名を持つようにゃ魔導師にゃら、礎心水晶の事は知っている。魔導師だけじゃにゃく、一部の研究者も知っていて、礎心水晶の前で不審にゃ行動をした者を、チェックしているのを知らにゃいのか?」
礎心水晶から『離震の理』を受け取った時、長い間ボーッと立っていたのを思い出した。それが監視カメラで撮影されて不審な動きと判断されたのだろう。
「知りませんでした」
「『蒼鬼神』も、礎心水晶から何かを得て、独特の魔導技を身に付けたと言われている。これは一部の魔導師の間では有名にゃ話だ」
「そういう情報まで集めている者が居るとは……まあいい。でも、私が七不思議の『幽霊船』について、特別に何か知っている、という訳ではないですよ」
「僕は、そういう方面に
こいつ、私に丸投げするつもりじゃないんだろうな。でも、『幽霊船』については興味がある。
「最近、空間構造探査装置を購入しました。それで調べましょうか?」
メルバリー宙域で時空間黒点の重力異常を見てから、空間や重力というものに興味を持ったので購入した。またメルバリー宙域のようなところへ行った時に、役に立つだろうと思ったのだ。
ちなみに、この装置は注文生産で、製造に三ヶ月も掛かるというものだ。
「それで何が分かるのだ?」
「その宙域の空間構造で、おかしな点があれば教えてくれます」
レオが『なるほど』という顔をする。
「その何とかという装置だけ、借りる事はできるかにゃ?」
「装置はすでに屠龍戦闘艦に組み込んでいますから、無理です。なので、私も一緒に行きます」
「そうか。仕方にゃいにゃ」
仕方ないとか言っているけど、手伝って欲しくないのだろうか? もしかして手柄や成果は独り占めしたいとか、せこい事を考えているんじゃないだろうな。
「支度しますので、少しお待ちください」
「僕は、ゆっくり食事を続けているから、急がにゃくてもいいぞ。ここの肉は旨いから気に入った」
レオが食べているのは、スラ肉料理だった。それも特大のスラ肉ステーキ。
「フュム、三人分追加だ」
弟子らしい痩せた豹人の少年が呆れたという顔をする。
「まだ食べるんですか?」
「僕は成長期にゃんだよ」
「成長期? ああ、腹の周りだけが成長するというやつですね?」
その会話を聞いてクスッと笑う。この師匠と弟子は、良いコンビらしい。
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