第82話 装甲スパイダー
魔導師育成学校の生徒たちを草原の入り口付近まで送った後、レギナと一緒に草原の奥へと進んだ。草原のあちこちで屠龍猟兵が戦っているのを見た。ここには大勢の屠龍猟兵が居る。それだけモンスターが多いという事だろう。
一番多いのが肉スライムである。背の高い草むらや水辺に棲息しているので目立つ存在ではないのだが、数が多いので見付けるのは簡単だった。
途中でホバーバイクを降下させ、肉スライムを探した。草むらに潜んでいた肉スライムを見付ける。それは長さが七十センチほどのナメクジのような形をしていた。このスライムは全体が緑色のゼリーのようで、中心部にピンク色の板のような物と白い核があった。そのピンク色の物体が筋肉らしい。それは厚さが三センチほどで長さが五十センチほどだった。
この肉スライムは普通のスライムとは違い、尺取り虫のような感じで移動する。急所は白い核で、それを攻撃すると肉スライムは死ぬ。
我々と遭遇した肉スライムは懸命に逃げようとする。私はホバーバイクから降りてボソル粒子で槍を形成し、後ろから核を貫いた。すると、肉スライムが力を失いでろりと草原に横たわる。
「ここの人たちは、この肉を食べているのか。本当に美味しいんだろうか?」
レギナには美味しそうに見えなかったようだ。
「持ち帰って試してみよう」
私は異層ペンダントの中に仕舞っているキャンプ道具の中から、トングと水、それにビニール袋のようなものを取り出した。トングで肉を挟んで持ち上げ、水で洗ってからビニール袋に仕舞う。ちなみに、ビニール袋と呼んでいるものは、ビニール製ではない。だが、見た目がビニール袋なのでそう呼んでいる。
地元では肉スライムの肉を『スラ肉』と呼んでいるそうだ。そのスラ肉を異層ペンダントに仕舞い、我々は草原の奥へとホバーバイクで移動する。
林があるのを見付け、その近くにホバーバイクを着陸させる。この林の中にモンスターの気配を感じたのだ。ホバーバイクを異層ボックスに仕舞って中に入る。同時に用心のために魔導装甲を展開した。
その林は
「レギナは自分用の戦闘機を開発しようとしていたようだけど、進んでいるのかい?」
「正確に言うと戦闘機ではなく、戦闘支援ビークルだ」
戦闘支援ビークルというのは、宇宙空間で兵士が戦闘しやすいように補助する乗り物の事だという。
元々は武装機動甲冑などを着装して戦う兵士のために開発された。武装機動甲冑に組み込まれているスラスターでは、航続距離も短くスピードも出ない。それをアシストするために生まれた乗り物のようだ。
戦闘支援ビークルは大きなサーフボードのようなものにエンジンを組み込み、そこに小さな帆柱のような背もたれが取り付けられている。サーフボードのようなと説明したが、それは長さが七メートルほどもある大きなものだ。
推進剤タンクやバッテリー、制御装置、超小型エンジンなどが組み込まれているので、サーフボードのようなシンプルなものではない。それを脳波センサーにより制御する。
ちなみに、脳波制御と思考制御は違う。脳波制御の場合は大まかな制御ができるだけで、繊細な制御はできなかった。
「その戦闘支援ビークルは、どこまで開発できたんだ?」
「設計はほぼ終わっているわ。ただ航続距離が足りないんだ」
「推進剤タンクやバッテリーを大きくすれば、いいんじゃないのか?」
「そうすると、機動性が犠牲になるんだ」
レギナが悔しそうに言う。
機体を大きくすると、その分素早い動きができなくなるという。航続距離なら垓力集積器と加速力場ジェネレーターの組み合わせで改善できるかと考えたが、それだとやはり大型化してしまう。要研究だな。
レギナと話しながら林の中を歩いていると、モンスターの気配が強くなった。そして、三匹の装甲スパイダーと遭遇した。
「こいつは防御力が高い、気を付けろ」
レギナがそう言うと、走り出した。私は正面の装甲スパイダーに向かって粒子円翔刃を放つ。装甲スパイダーは避けようと横にジャンプした。そのせいで足二本を切り離しただけで粒子円翔刃は後ろに飛び去った。
レギナが武装機動甲冑を着装してディコムソードを振り回す。ディコムソードから伸びた分解力場が装甲スパイダーの強固な外殻を切り裂いた。その直後、別の装甲スパイダーが側面から襲ってきた。
「ウォーッ!」
レギナが叫んで装甲スパイダーの頭にディコムソードを叩き込む。絶妙なタイミングの一撃だったので、装甲スパイダーの頭が真っ二つになった。
すると、手負いの装甲スパイダーが攻撃してきた。振り下ろす足をディコムソードで受け流し、側面に回り込もうとするレギナ。装甲スパイダーがジャンプして距離を取り、噛み付こうとする。その口に向かってディコムソードが振り下ろされた。
レギナと装甲スパイダーが激しい戦いを繰り広げている時、私は逃げ回っていた。装甲スパイダーが尻から糸を吐き出し、私を捕縛しようとしたからだ。
蜘蛛の糸を避けて粒子貫通弾を放つ。それを装甲スパイダーがジャンプして避ける。
「宇宙だと、こんな風に避けられる事はなかったんだが」
後ろに跳んで距離を取った私は、装甲スパイダーの動きを観察する。すると、また蜘蛛の糸を出そうとした。同じタイミングで粒子貫通弾を放つ。蜘蛛の糸が私を絡め取ろうとしたので不動プレートを出して防ぐと駆け出す。
側面に回り込んだ私は、粒子円翔刃を装甲スパイダーの首に向かって放った。それが命中して装甲スパイダーの頭がポトリと地面に落ちる。
レギナの方を見ると、二匹目の装甲スパイダーを仕留めたところだった。
「二匹目も仕留めたのか。お見事」
「ゼンは、手間取ったようだな」
「身体が地上戦の勘を思い出していない感じだ」
それを聞いたレギナが笑った。それから装甲スパイダーの死骸を異層ブレスレットに仕舞い、他のモンスターを探したが、肉スライム以外は見付けられなかった。それで今日の狩りは終わりにした。
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