第166話 二人の魔導師
薄緑色に輝いている空間に発生した凄まじい引力を振り切って離れる事に成功したレオたちは、ホッとしていた。
「ゼンたちは、どうにゃった?」
レオがフュムに尋ねた。フュムはレーダーをチェックし、アキヅキが消えた事を確認した。
「あの輝いていた空間に、引き込まれたようです」
「簡単に引き込まれるとは、不甲斐にゃい」
レオが光っていた宙域を見詰め、険しい顔になる。
「あれは何だと思う?」
「よく分かりません。でも、薄緑色に輝いていた奥に、都市宇宙船のようにゃものが見えました。あれが『幽霊船』にゃのだと思います」
「やはり幽霊船は存在したのか」
「師匠、どうしますか?」
「んー、分かんにゃい。ゼンが何かするのを待つか」
「ええーっ、それでいいんですか?」
「僕も何とかしたいのよ。でも、いい考えが浮かばにゃい。こういう時は待つのも手にゃのだ」
フュムは首を傾げ、本当なのか悩み始めた。
「そんにゃに考えても無駄だぞ。お前は僕と同じで、考え計画して行動するというタイプじゃにゃい」
「それじゃあ、何にも解決しませんよ」
「考えるにゃ。直感に従うんだ。僕の直感は待つ事が正解だと言っている」
という事で、レオたちは待機する事にした。レオとフュムは交代で休みながら待ち続けた。そして、何交代かした時、待機している宙域に巡洋艦が移動してきた。
「こいつら、何のつもりにゃんだ」
「巡洋艦にゃんて、派遣するだけで凄い費用が掛かるのに、何を考えているんでしょうね」
「巡洋艦を派遣するとは……『幽霊船』の七不思議には、僕たちが知らにゃい何かがあるようだにゃ」
「師匠、そんな事を考えている場合じゃにゃいです。ヤバイですよ」
「まずは、話をしてみよう」
レオは巡洋艦に通信した。すると、ブリッジのメインモニターに鬼人族の男が映し出された。
「こちらは、ニコラコロニーの魔導師レオ。あなたたちも『幽霊船』の調査にゃのか?」
「この宙域は、我々が封鎖する。関係ない者は出ていけ」
鬼人が威圧的な態度で言った。
「封鎖だと? どんな権限があって封鎖すると言っている?」
「答える義務はない。黙って出ていけ。従わない場合、排除する」
通信が切れ、巡洋艦は本気で戦闘準備を始めたようだ。
「し、師匠、戦うんですか?」
「あいつら、逃がす気がにゃいようだ」
レオは呟いてから、戦う準備を始めた。NM型機動甲冑を装着してペトロニ号から宇宙空間に出たレオは、魔導装甲を展開する。
「やめろ。なぜ戦う必要がある」
通信機を使って呼び掛けたが、返事はない。鬼人族の巡洋艦は全長千八百メートル、頑強な合金で形成された船体に多数の砲塔が組み込まれている。文明レベルBの技術力で建造された巡洋艦の外見は、四角い高層ビルを横にしたような形状をしていた。
「
巡洋艦のレーザー砲塔が動き、こちらを狙う。レオは魔導飛航術を使ってジグザグに飛び始める。その直後、巡洋艦から三十光径のレーザー光が発射された。
宇宙にレーザー光が飛び交い、その間を縫うようにレオが飛んでいる。実際はレオが自由自在に飛んでいるのを、巡洋艦の制御脳がその将来位置を計算してレーザーを放っている。
レオの勘は冴えており、予知しているかのようにレーザー光を避けて巡洋艦に近付くと、爆縮ボルテックスを発動した。圧縮した天震力が渦を巻き巡洋艦に向かって飛ぶ。レオが接近したので巡洋艦は避ける暇がない。
巡洋艦のバリアに爆縮ボルテックスが命中し、バリアを破ろうと暴れ回る。その様子を見たレオは、もう一度爆縮ボルテックスを放った。二発目の爆縮ボルテックスが巡洋艦のバリアを破り、巡洋艦の一部を消失させた。
「師匠、凄いです」
通信機からフュムの声が聞こえてきた。
「巡洋艦にゃら勝てると思ったにゃら、僕を舐めすぎだ」
「あれっ。師匠、人が出て来ましたよ」
レオが巡洋艦の方に注意を向けると、巡洋艦から一人の人間が宇宙空間に出て来たところだった。そして、ここからでも分かるような濃厚な天震力を感じた。
「あいつ、魔導師か。しかも、強敵そうだ」
その瞬間、その魔導師から赤い光が放たれ、レオを襲う。
「うわっ!」
それはレーザーだったようだ。普通のレーザー光なら、魔導装甲で簡単に受け止めるはずだが、そのレーザー攻撃は威力が違った。
レオの魔導装甲が破られそうになったのだ。
「まさか。クリムゾンレーザー……あいつ蒼鬼神なのか」
それから魔導技の撃ち合いが始まった。蒼鬼神はクリムゾンレーザー、レオは魔導レーザーで攻撃する。魔導レーザーというのは、天震力をレーザー光に変えて攻撃する魔導技の総称で、赤豪レーザーなどもその一つとなる。
ただ魔導レーザーには、クリムゾンレーザーほどの威力はなかった。簡単に蒼鬼神の魔導装甲に受け止められてしまう。
レオは追い詰められていた。レオの決め手である爆縮ボルテックスは、光より速度が遅いので距離が遠いと避けられてしまうのだ。その点、蒼鬼神のクリムゾンレーザーは遠距離攻撃を得意としていた。
「ヤバイ……フュム、ペトロニ号も攻撃しろ」
「了解」
フュムがペトロニ号を操作してレーザーキャノンによる攻撃を始めた。だが、蒼鬼神はペトロニ号のレーザー程度なら、魔導装甲で受け止められると判断し、ペトロニ号を無視してレオに攻撃を集中する。
「クソッ、ペトロニ号のレーザーを強化しておくんだった」
その時、レオの背後にある宙域が薄緑色の光を放ち始めた。レオも気付いたが、蒼鬼神から目を離す訳にはいかない。
「フュム、何が起きている?」
「あの空間から、都市宇宙船が出て来ようとしています」
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