最終章:エピローグ
第88話 冒険の末に得たもの
魔界の穴が閉じられた。
そのニュースは王都中を駆け巡り。
王都から国中に伝わり。
やがてそれは、世界に伝わった。
まあ、それは後の話。
王都帰還時。
まず王城に出向いた。
結果報告。
これが一番大事だもの。
すると即謁見の予定が組まれた。
即日だ。
国にとって、何より優先しないといけないことってことだな。
まあ、当然だけど。
俺にとって、人生2度目の謁見。
正直、辛い。
大変な名誉ではあるんだけど。
国王陛下の前に、城勤めの役人の案内で連れてこられて。
膝を折って、畏まる。
2度目の赤い絨毯の、白い広間。
2度目の玉座。
「ブラケル討伐の使命完遂……この度はご苦労であった」
国王陛下の声には喜びなんてものは何も無くて。
相変わらず、人間の声に聞こえない。
「アシハラ王国の危機を取り除いた功績、朕は高く評価する。此度については通常の状況では無い。……近衛兵として最大級の厚遇を約束しよう。それが不要であるならば、上奏を許す」
上奏ってのは、王様に意見や事情を述べることだ。
つまり……近衛兵になりたくないなら、その他の褒賞を許してくれるらしい。
すっげえな……。
「まず、近衛兵に加わりたい者は……立つがいい。朕の玉座前までの接近を許す」
おお……
俺は当然立った。
これから先、俺は家族を養わないといけないし。
近衛兵として最大級の好待遇で召し抱えて貰えるなら、受ける以外あり得ない。
「こちらへ」
役人の案内で、玉座近くの段差の前に導かれる。
ここで控えろってことか。
……俺の他には、ミナとタマミが立った。
ある意味、予想通りだった。
タマミは豪華な宿舎が目当てだろな。
……ちゃんと仕事してくれよ?
マジで。
残ったのは……
リン、おやっさん、エンジュ、そしてエリオス。
彼らと彼女らは、近衛兵は希望しない。
代わりに、何を望むのか?
それは……
「近衛兵以外に何を望む? 上奏するがいい」
すると端から、上奏が開始された。
まずは……リンだった。
彼女は
「王都神殿勤めの神官としての地位を希望します」
……ブラケルと戦う前の3日間で。
言ってた通りの内容だ。
冒険者を辞めて神官になる、って。
まあ、彼女が忍者になった唯一の目的がこの仕事で達成されてしまったんだから。
当たり前だよな。
そして
「……そして、できれば権力から遠い地位が良いです」
「……良かろう」
このときの陛下の表情を少しだけ盗み見た。
どうしても気になったので。
すると
……ほんの少しだけ、渋いものが混じったのが分かった。
やっぱ気になるよな。ブラケルの乱の件があるし。
で……
俺の嫁さんは、黒だからそんな要求をしちゃうのか。
危ないから、やっぱり権力から遠い方がいいよ。
陛下とは関わらない方がいい。
おやっさんとエンジュは
「ウチらは王都に家を1軒確保していただけたらええです。陛下」
ウチに関しては、マジックアイテム「絵の屋敷」をウチのもんにすることの確約がいただけるなら、それすら要らんくらいです。
そんな上奏。
おやっさんも頷いていたから、それが2人の総意なんだろう。
「……朕は、一度下賜したものを奉還せよとは言わぬ」
そう、無感情な様子で仰られる。
そして
「ならば、王都に1軒、管理人を置いた屋敷を1つ確保しよう。……それで良いな?」
「何も文句ありません!」
「同じく」
エンジュとおやっさんが平伏する。
……多分この2人、冒険者を続けるんだろうな。
で、王都に実家代わりにできる家が1軒あればそれで良いんだ。
ま、らしいと言うか……
ふたりとも、自分の人生を生きるために冒険者になったんだし。
偉くなるのが目的じゃないしな。
そして。
最後はエリオスだったんだけど。
彼は
「……僕は宮廷魔術師になりたいです」
そんなことを希望した。
え……? と思った。
高級役人になって、政治に関わる。
これじゃないのか?
宮廷魔術師って……陛下に仕えているという「魔法使いの最高峰」ってだけで、政治家じゃ無いんだぞ?
お前、政治家になって女の権利を制限する政策をこの国に布くって言ってたよな?
おかしくね?(いや、元の望みも相当おかしいんだけどさ)
そんな俺の混乱を他所に。
陛下は
「良かろう……お前を宮廷魔術師に加える」
そう仰られ。
エリオスの宮廷魔術師入りが決まった。
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