第39話 300年前の真実

「許す。申せ」


 陛下は表情を何も浮かべず、ミナの言葉を許可した。

 俺は胸を撫でおろしたが


 続く言葉で再度ゾッとする。


「新生魔王はブラケルを自称し、ブラケルは300年もこの国を滅ぼすために待ち続けたと言っていました。……何故ブラケルはここまでこの国を憎むのですか?」


 ちょっと待て!

 それは俺も気になったけど!


 それはこの国の暗部に足を踏み込むかもしれない質問だろ!


 お前は自分を抑えられないのか!?


 ……そう思ったけど。


 あ、そうだ……

 こいつ、黒だったわ。


 そこに思い当たり、諦めた。

 もう、どうにでもなれや……。


 すると


 陛下はしばらく沈黙し、口を開いて。

 こう発言した。


「……400年前の王の失敗が、ここまで尾を引いたわけだ。明かすべきなのかもしれんな」


 400年前の王の失敗……?

 俺が戸惑っていると。


 陛下は話し始めた。

 この国で、400年前にあったことを……




 およそ400年前。

 めきめきと頭角を現し、この国の太政大臣候補として上り詰めてくる人物がいた。


 その名は、ブラーナ。

 学者の男。

 種族は……エルフ。


 ブラーナはとても優秀で、人望もあり、支持する人間も多かった。

 だが基本、このアシハラ王国はヒュームの国。

 国民にドワーフやケットシー、ノームやエルフなど、非ヒュームの種族も含まれてはいたが。


 貴族は全員ヒューム……だった。


 ブラーナが台頭してくるまでは。


 まず、ブラーナは数々の功績をあげたことに対する褒賞として、伯爵の地位を与えられた。

 いきなり伯爵だ。男爵でなく。


 そこで、彼に警戒する者が出て来た。


 ……ヒュームでもない人間が、この国の中枢に入り込むのか? と。


 そして、彼の出世は止まらず。


 爵位だけでなく、大臣の地位を得て。

 やがては、太政大臣……つまり、国王の次に偉い地位を狙える男になった。


 ここで、彼を問題視していた人間の警戒は恐怖に変わった。


 ……まずい! 下手すると向こう数百年、この国をエルフに牛耳られるぞ!


 エルフは長命種。寿命は約1000年。それはどう考えてもまずい。


 そして……彼らは策を練り。


 ブラーナが謀反を起こし、国王陛下の地位を簒奪しようとしているという罪をでっち上げた。


 ……この謀略を練ったのは、当時の現職太政大臣だったらしい。

 そしてブラーナは逮捕され。

 その申し開きは一切聞き入れられず、処刑された。


 ……だが。

 この処刑の裁可を下した当時の国王が、数年後に「ブラーナの謀反の件は真実だったのか?」と疑問を持ち、調べ始めたのだ。

 そして……真実が明らかになった。


 そのせいで、また処刑が行われた。


 謀略を練った勢力の首謀者一同が、一斉に処断された。

 ただ、首謀者たちは「この国のためにやったことだ」と言い放ち、一切助命嘆願はしなかったという。


 そしてプラーナの名誉は回復され、プラーナの年老いたヒュームの妻には多額の年金が与えられ、そして彼の領地と爵位は息子のブラケルに与えられた。

 そしてその100年後……ブラケルはアシハラ王国の宮廷魔術師の筆頭になり。

 その後、今度は彼がその国王の命を狙った。


 こう、言いながら。


「お前たちは父上の命を奪ったことに誠心誠意謝罪しなかった。金と地位を与えて誤魔化そうとした。……もはや贖えるのはお前たちの血、のみだ」




「……この話は、その後のアシハラ国王を継承する者に、愚王の実例として語り継がれている……」


 400年前の出来事を語り終えた陛下は、その表情に何の変化もなかったけれど。

 発しているオーラのようなものに、苦いものが混じっている。

 それがなんとなく、感じ取れた。


「……エルフに生まれたら、ヒュームの社会では大きな顔をしちゃいけないんだよね」


 そこに。

 かなり小さい声でリンが呟く。


 ……俺はヒュームだから、エルフが受けている差別はちょっと分からない。

 今の話、リンとしてはやはり思うところがあるんだろうか。


 だけどさ……

 俺は、到底納得はできんわ。

 確かに悲惨な話だけれども。

 ブラケルの恨みに付き合わされて、自分のまともな人生を壊される。

 これは、許容できない。


 これは陛下も同じはずだ。

 陛下は王として、国民の暮らしを守る義務がある。

 400年前の先祖のしくじりを理由に、それを投げ出すなんてありえない。


 だから


「……もう一度、命じる。ブラケルを討伐せよ。良いな?」


 陛下のこの言葉に。

 俺は本心から頷いた。

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