第38話 陛下、よろしいでしょうか?

 アシハラ王国の国王陛下。

 謁見したことは……無い。


 かつてなら。

 魔王討伐の暁に、謁見。

 このはずだったわけだけど。


「……一体何の用なんだ?」


 馬車まで出してくれて。

 俺は木賃宿から王城にまで連れていかれた。


 ……アシハラ王国の王城……。

 白い石……大理石?


 それで築かれた壁。

 壁に開いた黒い重厚な門を、馬車で潜り抜ける。


 そして待合室に案内された。

 そこには……


「あら、タケミさん」


 ミナがいた。


「おお、タケミもか」


 おやっさんもいた。


「タケミも呼ばれたんやな。多分、アンタが最後やで」


 眼鏡の位置を直しながら。

 エンジュもいた。


「タマミが呼ばれたんだから、タケミが呼ばれないはず無いよ」


 タマミもいた。


「……おはようございます」


 不機嫌な様子で。

 エリオスもいる。

 そして……


「何の用事なんだろうね。タケミ」


 ……リンもいた。


 ちなみに、全員冒険者としての装備をきっちりしていた。

 これが俺らの正装だから。


 ……ちなみに俺もそう。

 出る前に「装備をキッチリ整えてくれ。それがキミらの正装なのだから」と言われて。


 総勢7名。

 多分、魔王の首を狙えた位階の冒険者。

 その基準で呼んでいる。


「俺も分からん」


 とりあえず。

 リンの言葉に応えておいた。


 すると


「謁見の準備が整いました。こちらにお進みください」


 木賃宿に迎えに来た制服組の人と同じ制服に身を包んだ職員さんが。

 俺たちを呼びに来た。


 ……いよいよ、謁見。

 緊張する。


 大きく息を吸い込んで気合を入れて


 向かう。

 謁見の間に。




 ……何か失礼があったら、国外追放だとか、処刑だとか。

 ありえるのよな。


 緊張する……


 赤い絨毯が敷かれた白い広間に、膝を折って控える。

 目の前に玉座があるけれど、見てない。


 許可が出て無いから。

 皆も多分そうしてる。


 玉座に人影があった。

 だから多分その人が国王陛下。


 ……沈黙が、重い。


 すると


「許す。面を上げよ」


 言葉が降って来た。

 許可。


 ……許可が出ても、決断が要るな。


 ええい、と思いながら顔を上げる。


 そこに居たのは……


 50代半ばのヒューム男性。

 髭は生やしておらず、筋肉質。


 背は特に高い印象は無かったけど……


 目に、威圧感があった。

 というか……


 人間の目に見えなかった。

 王っていうのは、こういうもんなのだろうか……?

 とてもじゃないが、ヒトの精神が入ってる目じゃない。


 超越しているっていうか……


 そんな王冠を被った人物……国王陛下は、玉座に在って。

 肘掛けに肘を置き、こちらを睥睨している。


「此度は朕の招集に応じ、ご苦労であった」


 国王陛下の言葉に、誰も答えられない。

 許可が出ていないから。


「そなた等に命じる。……魔界の穴最奥で生まれた、新しい魔王を討て」


 王者の声だった。

 逆らえない言葉だ。

 だが


「……陛下、よろしいでしょうか?」


 ミナが……

 許可も出ていないのに、いきなり口火を切ったんだ。


 ちょっと待て!

 お前……死にたいのか!?

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