第92話 新しい夢

「話が飲み込めない」


 俺は正直に言った。

 分かるように話してくれ。頼む。


 そう伝える。


 するとエリオスは


「……実は、魔界の穴が閉じて以来、国の財政がやはり落ち込んで来てるなという意見が出て来てて」


 ふんふん。

 で?


 そして


 続いた言葉に、俺たちは驚くことになる。


「……もう一度、魔界の穴に近いものを作れないかという研究がですね、開始されたんです」


 ……え?


 そんな話、聞いてないぞ?


 エンジュとおやっさんの顔を見る。


 2人とも、驚いて絶句していた。


「マジか? ……というか、出来るのか?」


 俺の言葉に


「出来ないって言う言葉は、研究を開始した人間が禁句にするべき言葉ですね」


 すごく楽しそうだった。


「このために、ブラケルが書き残していた研究ノートの該当箇所について、閲覧を許可してもらったんですよ」


 宮廷魔術師になって2年目のことですけど。

 エリオスの弁。


 ……なるほど。

 1年目は仕事に慣れるために忙しくて。

 2年目からは、ものすごい研究テーマを与えられたから、そのせいで忙しかったのか。


 ……ご苦労さんです。


「ブラケル、ノートをつける才能が無かったのか、それともわざと分かりにくく書いて模倣や対策を立てられることを防ごうとしたのか、残された研究ノートが読み辛くて」


 解読が2年目からの最初の1年の課題でしたよ。

 感慨深げに。楽しそうに。


 ……研究者ライフがよっぽど楽しいんだろうな。

 元々、頭はメチャクチャ良い男だし。

 それに……ブラケルへの責任で、宮廷魔術師入りを考えてしまうような男でもあるし。


 良かったよ。


 で。


(そっか……魔界の穴に近い地下迷宮が、再び出来るんだな)


 そこは練兵場であり、夢を追う場所。

 そして同時に……とても危険な場所。


 そういうものを作ることが、道徳的に正しいのかどうかは分からないけど……

 冒険者としては、あった方がいいんだよな。

 命を賭けて冒険すれば、夢を掴めるかもしれない場所ってのは。


「ブラケルの作った魔界の穴の洒落にならない部分をなるべく無くした形で、利益だけ最大限に……そこを意識して研究中ですよ」


 カラカラと、本当に楽しそうに笑う。

 

 うん……迷宮内でパーティーが全滅すると、死体がキャリオンクロウラーに喰われ尽くしてしまうところとか。

 廊下にモンスターが出てくるので、放置すると地上にモンスターが溢れ出すところとか。


 そんなのが無ければ、きっともっと平和な迷宮だよな。

 もしあったら、それはきっととてもありがたい。


 そんなことを思いつつ、彼に


「……そんな重要な情報、話して良かったのか?」


 俺は思わずそう問うけど。


「無論、他言無用でお願いしますよ」


 間髪入れずにエリオス。


 そして俺にだけは


「……当然リンさんにもね」


 そう、目を見て言われたんだよね……。

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